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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
黒花攻略作戦!
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昼休み

      ◆



 昼休み。

 転校してからまだ二日目だ。一緒にご飯を食べようと黒花に声をかけてくる者がかなりの数いたが、その全てを駿平といろはは撃退した。

 黒花と共に屋上で三人そろって昼食を食べている。

 上草第一高校の昼休憩は完全に自由時間となるため、どこで昼食を食べようと生徒の勝手なのだ。

「黒花はこれからなにか予定ある?」

「おにぎりを口に入れる」

「うん、そりゃ確かにその予定だろうけど、そうじゃなくて、昼ごはんを食べ終わったらなにか予定あるのかってことを聞きたかったんだが」

「トイレに行く」

「うん、別に行っても良いんだけど。だからそうじゃなくて、こう、なにかするとか、そういう予定はある?」

「息を吸う」

 往復ビンタでもかましてやろうかと思った。

 なんだこの小学生みたいなやり取りは。

「ねえ黒花」

「なに?」

 と、昼休みは合流することに成功していたいろはが会話に参加。

「さっきから聞いてると、あえて駿平のことを避けてるようにも思えるけど、気のせいかな?」

「……二十二世紀の命題ね」

 すごい誤魔化し方をしましたよこの人。

「駿平、なにかした?」

「いや、心あたりは特にない。強いて言えば朝、放課後に図書館に行かないかって誘って断られたくらいだけど」

「そうでもないわ」

 一応、考えてから答えたのだが、黒花が違うと言う。

 もう一度、なにかあったかなと記憶をたどってみるが、やはり嫌われるようなことをした覚えはない。

 しょうがなく、どうしてと質問すると、



「酸素を吸っているから」



 そんな答えが返ってきた。

「息をするなと!?」

「そうね」

「そうねじゃないから!」

「駿平が近くにいると酸欠で倒れそうになる」

「妄想だ!」

 激しく突っ込んでいると、横からいろはがため息混じりに言う。

「それはしょうがないとして」

「なに同意してんのお前!」

「近くに来ないで。酸欠になる」

「……殴っていいか?」

 さすがにカチンときたので凄んでみるが、

「あ? なんか言った?」

「……」

 いろは相手にそんな脅しが通じるわけもなく。すごすごと引き下がる。

 非常に情けなかった。

「黒花。駿平と一緒なのが嫌ならそれでもいいから、あたしと図書館に来てくれない?」

 一人でしょぼんとしながら、駿平は考える。

 ルイの言っていた黒花攻略作戦というのはなんてことはない。要は、黒花に認知症や高齢者、障がい者のことを知ってもらい、もう一度グループホームへ自分から行きたいを思わせることだった。この作戦の難しいところは「グループホームへ行かない?」とこちらから誘ったのでは意味がないところである。ある程度黒花の気持ちが動いているのを確認してからならば良いが、そうでない場合はタブーとなる。駿平やいろはが強引に「行こうよ」と誘って行ったところで黒花自身の気持ちに変化がなければ意味がないからである。

 その足がかりとして、まず黒花を図書館へ連れて行くことに決定した。いきなり認知症の高齢者と出会ってしまった黒花はなんの知識もなかった。「変だ」という言葉が出てきたのもそのためだと考えられる。ならば、図書館等で知識さえしっかりと身につけてもらえれば、案外なんとかなるかもしれないのだ。

 ちなみに、何故黒花一人にこだわっているかというと、一番可能性があったからだ。ルイが言うには、大衆を相手にした時、ある程度の味方がいないと誰も聞く耳を持ってくれないらしい。誰かしらが興味を持ってくれていれば、その友達が「なら自分も」と、話を聞いてくれるかもしれない。そういう連鎖的な反応を狙うのが一番効率が良いのだとか。

つまり、最初のうちは、理解してくれそうな人からどんどん味方につけていくことが大切なのだ。

 その中で、最もアプローチがとりやすく、なおかつ理解してくれそうな人が黒花だったというわけだ。黒花は駿平、いろは、ルイの三人ともと面識があり、さらに一度実際に高齢者と関わっているのだ。


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