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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
種を植える作業をしている人
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首が

「黒花」

「なに?」

「さっきの話の続きだ。俺を探そうとしてる途中で、なにかあったのか?」

「あったわ」

「それは?」

「道に迷った」

 いや、それはもういいから。

「そうじゃなくて、道に迷った後に知らないお兄さんに話しかけられて、逃げてる途中にマンホールへ飛び込んでみたとか」

「それはないわ」

 じゃあと続けようとすると、黒花が先に「でも」と言う。

「お姉さんになら会ったわ」

「お姉さん?」

「そう」

「それはどんな?」

「長かったわ」

「なにが?」

 ちょっとだけ考え込む素振りを見せて、

「首が」

 やはり無表情に棒読みでそう回答してきた。

「それは完全にお化けだ!」

「冗談よ」

「でしょうね!」

「長かったのは、髪の毛。色は黒よ」

 黒髪ロングの女性と。

「その他に特徴は? 雰囲気とか」

「カッコよかったわ」

 ふむ。カッコよい感じで、女性で、黒髪ロングと。

「……ん?」

「どうかした?」

「いや、ちょっとな」

 それだけの情報で、該当する人間が一名いるから驚きだ。

 黒花のような、髪の毛がピンク色なんていう人間に話しかけようとする人自体少ないだろう。普通なら即、逃げる。

 なのに、そのカッコよい感じの黒髪ロングの女性はどうやら黒花に話しかけたらしい。ということは、おそらく黒花を知っている人間だろう。だが、この街へやってきたばかりの黒花を知っている人間など限られている。考えられるのは、学校の関係者か、親御さんの関係者、後は例外的にグループホームの職員さん辺りだろう。

 そして、その条件で黒髪ロングでカッコよくて女性というと。

「会長、だろうな」

「会長?」

「そう。上草一校の生徒会長。たぶん、黒花が会ったのはその人で間違いない。タイミング的にもばっちりだ。どういう意図があるのかは分からないけど、なにかあると踏んで行動を起こしたんだろうな」

 やれやれとため息をつく。

 上草第一高校の生徒会長、華渓院ルイはこうしようと思ったことに関して努力を惜しまないことでも有名だ。容姿端麗、成績優秀のお嬢様のため、天才肌というか、そんな風に見られがちだが、実際はそうでもない。会長が解決した問題は数多くあるが、その過程で『どうしてそんなことをしたのか分からないこと』も非常に多い。以前、生徒総会で「何もないところからなにが生まれるだろうか? 私は普段から何もないところに種を植える作業をしている」と言っていた。

 今回のこれもその一つだ。

 駿平ような校内に知れ渡るほどの問題児と、転校してきた初日から何故か知り合っていた黒花。その二人を会わせればなにかが起こるかもしれないと考えたのだろう。


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