あなたは、誰ですか?
「悪い話ではないと思うぞ? 私は仮にもこの学校の生徒会長で、それなりの知名度はあると自負している。そんな人間に話しを聞いてもらえるという機会が今、目の前にあるんだ。それを、君たちは無駄にするというのか?」
ルイは続ける。
「いやー、もったいないな。君たちが何故、他の生徒に迫害されているのか調べさせてもらったが、民主主義の日本では多数の意見が勝つことになってしまう。つまり、君たちにこの状況を覆す手段はない。だが、私なら別だ。なんて言ったって私は生徒会長だ。そうだろう?」
どこまでの尊大な口調で、「はい」と言わずにはいられないような空気を醸し出している。言っていることにも間違いはない。駿平やいろはのような入学したての一年生がどうにかできる状況ではない。分かって欲しいとは思いつつも諦めているのが現状だ。
「私の目的はただ一つ。君たち二人をいじめから守ることだ。この学校で、いじめなどというふざけた争いは絶対に起こさせないし、起こっているなら止めてみせる。君たち個人ではどうしようないことでも私という生徒会長がどうにかしてみせる。それが、今日ここへ呼んだ理由だ。こんな絶好の機会を、君たちは捨てて、出て行くんだな?」
生徒会長という強力な味方を付けられれば全てでないにしろ状況が改善することは十分考えられる。ここで話を聞いてもらうのが、一番利口な方法だろう。
でも、駿平といろはは認めるわけにはいかなかった。
ほんの数年とはいえ、瀬名を初めとした認知症や様々な病気を持つ方々と接してきた二人にとって、ルイを、認めるわけにはいかない。
「会長」
駿平はドアノブに伸ばしていた手を引っ込めて振り返る。
「なんだ?」
「あなたは、誰ですか?」
駿平はルイを睨みつけ、言葉をぶつける。
「会長の言っていることはたぶん、正しいです。俺は日本がどうとか、そんな大きな視点では考えられませんけど、正しい意見が潰されることがあることくらいは分かります。そして、それが自分の身にも起こっていることも、自覚しています」
ルイは笑みを消して駿平の話を聞く。
どこか、試しているような、そんな雰囲気ですらあった。
「ですが、会長と組むということは俺にはできません」
「それはどうしてだ?」
「あなたが、差別をする人間だからですよ」
年上の相手に、言って良い台詞ではない。
けれど、こうでもしなければルイはいつまで経っても引き下がらないだろう。
「会長は、自分を生徒会長だとか、知名度があるだとか、そう言いましたけどそれって自分と他者を差別してるってことですよね」
「……」
「人間は誰しも自分と他者を区別する生き物ですけど、そうやってはっきりと口にしてしまったら区別ではなく、差別ですよ」
「それが、何故いけない?」
駿平は拳を握り締める。
それを分からない人が多すぎるから、自分たちのような人間が出てきている。ならば、ここで、はっきりと断言するべきだ。
「会長は俺といろはがどうしていじめられているのか知ってるんですよね?」
「ああ、そうだが?」
「それと同じことを、あなたはしてるんですよ」
心外だ、とでも言うようにルイは眉をひそめる。
「認知症を持つ高齢者、いや、それ以外の普通の高齢者や障がい者を他の生徒たちが良く見ないのは差別しているからです。自分たちは特別だ、自分たちは大丈夫だ、自分たちはなんの関係もない、そんな考えがそのほとんどの理由だと俺は思っています」
「つまり、私が今、自分のことを特別だと言ったことはそれに当てはまると?」
「そういうことです。特別な人間なんかいませんし、将来、誰だってなんらかの病気にかかる可能性はあります。おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんが病気を発症してしまうことだってある。それが分かってないから、おかしなことになってるんです」
ルイは駿平から目を逸らして、ふむ、と考え込む。
待っていれば、なにかしら答えが返ってくるかもしれないけれど、これ以上付き合う気にはなれなかった。
「では、失礼します」
いろはも、同じ気持ちだったのか、一緒に生徒会室を出た。
一人、生徒会室に残ったルイは呟く。
「期待通りの答えだ。君は、私を味方につけたぞ、駿平君」




