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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
人生にはこんな巡り合わせもあるのか
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ラッキーだったよ

「ふう。ま、いつも通りか」

「だね。イライラはするけど」

「まったくだ。なにが頭がおかしくなる、だ。立派な病気の一つだぞ。どうしてインフルエンザとかだと皆心配するのに認知症だとバカにするんだよ」

 そう、これはいつも通りのことなのだ。

 いろはが中学時代、荒れていたということをネタにして追い返す。

「分かり合いたいとは思うけど、あんな調子じゃあ、無理だよね」

「今更だろ」

 そう吐き捨てて、髪を結び直すいろはをじっと見つめる。

「なに?」

「いや、相変わらず恐いなー、と」

「あ?」

「すいません!」

 いろはと駿平は昔からずっと一緒にいるが、中学二年生の一時期だけは例外だ。

 いろはの父親が病に倒れ、亡くなった後、いろははグレた。尊敬していた父親を亡くしたことは想像以上にショックだったようで、学校にもほとんど来なくなった。聞いたところでは自ら不良グループを結成していろいろとマスイことをしていたとか。

 しかし、その数ヵ月後、瀬名が認知症と診断された。一人、東京で働く父親と、瀬名の給料でなんとか生計を立てていた前島家にとって痛手以外のなにものでもなかった。そうして、駿平の一人暮らしが始まった。

 その時、いろははグループのリーダーとして悪い方面で活躍中だったが、駿平を心配してグループを解散。元の鞘に収まった。

 とはいえ、グレたことがなくなったわけではない。

 金色に染めた髪の毛はそのままだし、怒ると滅茶苦茶恐い。髪の毛の色は盛大な校則違反だが、本人に直す気はないらしい。先生方にも再三注意されているのだが、完全に無視している。

 ちなみに、最初それを知らずに、いろはを本気で怒らせた男子生徒が何名かいたのだが、そのほとんどが病院送りになっている。相手に怪我をさせたのは良くないことだが、教師陣としても男子生徒たちの悪口は見過ごせるものではないらしく、いろはは厳重注意だけで済んでいる。そんなこともあり、入学してから僅か数週間で『いろはをからかうのは本気で怒る一歩手前まで』という暗黙の了解ができていた。さっきの男子生徒たちがあっさりと退いたのはそのためだ。

「て、あ、忘れてた」

「なにを?」

「黒花だよ。ここに来ようとしたら後ろに引っ付いてきたんだ」

 言いつつ、顔を屋上の方へ向ける。

「えっと、あそこらへんにいる――ん?」

「あれ?」

 駿平といろはは二人揃って驚きの声を上げた。

 振り向いた先に桜色の髪の毛をした少女はいなかった。

 その代わりに、



「生徒会として、いい加減動き出さないといけないと思っていたが、ちょうど良かったようだな。一部始終を見ることができてラッキーだったよ」



 艶のある黒髪を腰まで伸ばした美少女がそこにいた。上草第一高校の制服を一寸の乱れもなく着こなし、ブラウスの襟に生徒会長を示す緑色のバッジを付けていた。


 華渓院かけいいんルイ。


 日本人の父親と、フランス人の母親の間に生まれた才色兼備のお嬢様。父親は県議会議員で母親は高校の英語教師。上草第一高校の中で、あるいは校長よりも有名だと謳われる最強の生徒会長だ。

 ルイは、ニヤリと笑って言う。



「二人とも、ちょっと話したいことがあるんだ。生徒会室まで来てもらえるかな?」


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