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たとえ記憶が消えたって  作者: 彩坂初雪
人生にはこんな巡り合わせもあるのか
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蹴っていい?

     ◆



 黒花の注目度は半端ではなかった。

 桜色の髪の毛をしているだけでなく、学校の制服も着ていないのだ(聞いたら急な転校だったからまだ制服ができてないとのこと)。

 朝の一件で、クラス内では彼女がどんな人間で、駿平とどんな関係であるのか(半分以上は誤解だが)知れ渡ったが、あくまでそれはクラス内でのことだ。休み時間になると男女問わず、他クラスからかなりの人数がやってきて黒花を質問攻めにする。黒花は黒花で聞かれたことには律儀に答えるので案外ウケが良い。

 そして放課後。

「なんで着いて来てるんだ?」

 屋上へ向かう駿平に黒花が着いてきた。

「……前世の命題ね」

「……」

「来世の命題?」

 今日一日、一緒にいて分かったことだが、この「~の命題」というのは黒花の口癖らしい。返答に困った時や隠し事がある時に使われる。今回は、前者だろう。

「……別に来てもいいけどね」

 なにか用事でもあったのか、今日は朝以来いろはとは会っていない。黒花に興味津々だったようだし、連れて行けば喜ぶだろう。

 駿平と黒花はそのまま屋上へと向かう。

 屋上はたまに吹奏楽部が活動場所として使用しているだけで、ほとんど使われていない。それに、今日は選抜クラスの授業があと一時間残っているのだ。いろはの他に誰かがいるということはないだろう。

 そう思って、屋上のドアを開くと、



「あれだろ? 認知症って、頭がおかしくなるってやつだろ? 調べたんだぜ?」



 予想外にも、いろはの他に男子が二名いた。

「そういう言い方はやめてって言ってるでしょ!」

 なにやら、穏やかではない様子。

 男子二名がげらげらと下卑た笑い声をあげていろはをからかっている。

「あれだろ? 認知症って、頭がおかしくなるやつだろ? 調べたんだぜ?」

「二度言わなくていいから!」

「知ってるよそんなこと。浅井さんは認知症じゃないもんな~」

「だよな~?」

 内容は、いつもと変わらない、認知症のこと。

「あんたたち……っ!」

「あれだよな? 認知症って頭がおかしくなるやつだろ? 調べたんだぜ?」

 頭がおかしくなるなんてよく言えたものだ。将来、自分が認知症になったらどうする気なんだろうか。自分は頭がおかしいです、と皆に言って回るつもりだろうか。



 などと考えるほど冷静なのは、脳の一部分だけ。



「黒花、ちょっと待ってて」

 そばにいる黒花にそう告げて、駿平は一歩ずつ、連中に悟られないように歩き出す。

 背後に回り、ゆっくりと、至近距離まで近付く。

 途中で、いろはと目が合ったがいつも通り頷き合うだけで済ます。

「しっかし、面白いもんが世の中にはあるんだな! 調べて笑ったぜ!」

 到着。

 一度目を閉じてから、できるだけ低い声を出す。

「おい」

「なっ!」

「え?」

 ビクリと身体を震わせてから男子が二人して振り返る。

「な、なんだ。前島か。ちょうど良かったぜ。今、認知症の話を――」



「ねえ、蹴っていい?」



 振り返ったせいで視界から外れていたであろう、いろはが、髪の毛を解いて凄む。

「知ってると思うが、いろはは中学の頃、超が付くくらいの悪だったんだが、どうする?」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。

「お、おい! これ以上はマズイって。行こうぜ」

「そ、そうだな」

 前後から睨まれ、気圧された男子二人は負けを悟ってすぐさま屋上から出て行く。


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