病院か警察に行こう
「あとさ~、さっき駿平の部屋からパンツがどうとかって話が聞こえてきたんだけど、それってなに?」
聞こえていたのか。
瀬名が食卓につきつつ尋ねてくる。
「カバンの中にどうとかって言ってたよね? 誰と話してたの?」
「……」
声がもれてたとかいうレベルではない。これはよろしくない。
一つ年上の先輩のパンツを持って帰ってきたとか、口が裂けても言えない。
「まさかとは思うけど~、彼女の脱ぎたてのパンツを持って帰ってきてるとか?」
「姉ちゃん」
「なに?」
努めて平静に、冷静に、真面目に、緊張した面持ちで、駿平は言う。
「男子が喜ぶのって、勝負パンツじゃなくて、普段身につけてるやつなんだぜ?」
「……」
『この弟、頭大丈夫?』という顔で見ないでください。しょうがないんです。話を逸らさないとマズイ状況なんです。大ピンチなんです。
「ちなみに俺は、黒より白のが好きだぜ?」
ニカッと笑ってみせる。
「……駿平」
「なに?」
「病院か警察に行こう」
そうなりますよねー。
だが、ここで話を止めてしまったらまた話題が戻る可能性もある。もう一押しだ。
「安心しろ姉貴よ!」
「なにを?」
「実の姉のパンツにも興味はある! 弟が他の女性のパンツにしか興味がないからってそんなに落ち込むな☆」
「……えーっと」
瀬名はポケットから携帯を取り出し、どこかへ電話をかける。
「あ、もしもし、ここに変態がいるんですが……はい、そうです。……いえ、弟なんですけど……ええ、条例なんかに引っかかりそうな発言を何度も繰り返しまし――」
「ちょっと待てえええええぇーーーーーーーーーーー!」
「うるさいよ?」
しれっと瀬名は言う。
「相手の人に失礼でしょ?」
「死ぬから! 社会的に死んじゃうから! それはやめい!」
「え? なにか問題でもあるの?」
冷ややかな視線キター。
実の弟に向ける視線じゃないよこれ。
とりあえず、携帯を奪い取って即座に切る。
「あ、でも安心して~」
「……?」
「今電話してたのは警察の人じゃないから」
「ん? じゃあ誰?」
「駿平のクラスの担任の先生」
尚悪いわ。
いや、警察に連れて行かれるよりはマシかもしれないけど、精神的ダメージとしてはそっちの方が大きい。明日、なにを言われるやら。
「それはともかく、早く食べようよ。わたしも仕事したいし」
「あー、うん。了解」
なんとか、誤魔化せたか。
いろいろ犠牲になった気はするが。
ため息一つ、瀬名が作ってくれた料理に手を伸ばす。
明日、黒鳥に強く注意しようと思う駿平だった。




