ごめん!
なんてことをしてくれるんだあの人は。
本当にバカなんじゃないだろうか。
「刺しちゃった人も、相手側のグループもさすがにこれはマズイと悟って、すぐに逃げていったよ。その場にはあたしたちのグループだけが残った。それで、その後、瀬名さんがいなくなってることを教えてくれた」
「じゃあ、黒鳥さんは?」
「すぐに救急車を呼んだよ。病院に搬送された。あたしたちは関係者だからね。病院まで着いていって、様子を見てたの。命に別状はないけど、当分の間病院での生活になるだろうって話だった。家の方にも連絡がいったみたいだったけど、家族の方への連絡がどうなってるのかはよく知らない」
いろはは最後に、苦笑いで付け足す。
「駆けつけた警察官にいろいろ質問されたけど、実行犯はあたしたちじゃないし、そもそも黒鳥さん自身にも刺された責任があるようだからって無罪放免になった。こっちにすぐ来れたのはそれが理由かな」
命に別状はないと聞いて、とりあえず安心した。
腹にナイフが突き刺さったということは、つまり腹に穴が空いたということだ。出血多量や痛みによるショック死も考えられる。
「駿平」
と、いろはがこれ以上ないくらい真剣な表情で名前を呼んでくる。
「なに?」
「ごめん!」
驚いたどころではない。
いろはにならって後ろにいたメンバー全員が地に伏したのだ。駿平に向かって、土下座姿勢である。
「あたしたちがふざけ半分で不良なんてやってたから、関係ない人まで巻き込んだ。例えそれがその人が自分からした行動でも、許されることじゃない。本当に、ごめん!」
言葉よりも、その姿勢に面食らってしまう。
額を地面にこすり付けて精一杯の謝罪をしてくれる。
「……」
数秒、呆然としていたが、そんないろはたちを見て、駿平は――
「アホかお前ら」
そう言っていた。
「え?」
顔を上げたいろはの目には涙が溜まっている。
「そりゃおふざけで不良ぶって、その上自分たちでもどうしようもないくらい大変な状況に追い込まれたってのはバカだと思う」
ばっさり切られて、いろはは余計縮こまる。
「ただ……全員にそんな理由があるのかは知らんけど、いろはは理由があってグレたわけだろ? それに、俺に近付かない方が良いって忠告もしてくれてる。それを無視してあえて首突っ込んだのはこっちなんだぞ? それから、今回の解散はうちの姉が絡んでることなんだろ? いろはの決断には逆に感謝したいくらいだ。黒鳥さんだって、そんな理解不能なことして傷ついたのはほとんど自業自得だろう。責任云々って話にしたいなら、黒鳥さんにいろはを助けてくれって頼んだのは俺だ。どっちかって言ったら無理難題を押し付けた俺の方に責任がある。命に別状ないならそれでいいよ。たぶん、全部片付いて、お見舞いに行ったらいつも通り接してくれると思うし。むしろ病院の部屋を自分好みに改造してやりたい放題遊んでる可能性だってあるしな」
一息で言い切ると、いろははポカンとした表情のまま固まった。
そして、数秒後、
「え? でも……」
やはり納得がいかないのか、口をへの字に曲げる。
なにか、けじめみたいなものをつけて欲しいのだろう。
「いろは、立て」
しょうがないなと思い、駿平はため息をつく。
「なに?」
立ち上がったいろはを正面から睨みつける。
「ま、そうは言っても、黒鳥さんが傷を負わずに済む方法がなかったとは思わない。いろはがもっとしっかりしていれば、こんなこじれた事態にはなってなかったのも事実だな」
「……だよね」
「だから――」
「え?」
「――これで、貸し借りなしだっ!」
思いっきり、殴った。
いろはの左頬に、強烈な右ストレートをくれてやった。
一メートルくらい吹っ飛んで、いろはは地面に伏す。
背後にいたメンバーたちが驚きの声をあげていた。
「黒鳥さんは、俺にとって、家族みたいな人なんだ。あの人に重症を負わせてなにもなしってのも俺の気が収まらないからな。これで、五分だ。いいな」
痛みに耐えてなんとか起き上がったいろはに、にっと笑ってやる。
「分かった」
いろはも、同じく笑顔で返してくれた。
「よしっ! なら、姉ちゃんを全力で探すぞ」
「了解!」
ここに来て、心強い味方が増えた。
「……」
歩き出しながら、駿平は思う。
おそらく、これも黒鳥の考えた通りの展開なんだろう。
ならば、それに報いるためにも、頑張らないと。




