それ、マジ?
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いろはの申し出は嬉しかったが、それよりも前に確認しなければならないことがあった。
とりあえずいろはたちを施設の前から引き離し、近くの公園に陣取る。
「いろは、黒鳥さんはどうした?」
さっきの、康弘の驚いた声も気にかかる。
それがまず、最も優先しなければならないことだった。
「……」
真っ直ぐ、いろはの瞳を見据えて聞くと、いろはは言いにくそうに視線を逸らす。
他のメンバーたちも、自分は関係ありませんとでも言うように、あらぬ方向へ視線を飛ばしていた。
「いろは」
もう一度、名前を呼ぶと、いろはは「怒らないでね」と前置きしてから語り始める。
「ええと、黒鳥さんから聞いてると思うけど、あたし、チーム氷牙を解散することにしたの。でも、予想はしてたんだけど、反発してくる子も多くて、手間取ってた」
「そこまでは知ってるよ。なんか二つのグループに分かれて対立してたんだって?」
いろはは「どうしてそこまで知ってるの?」と目を丸くしたが、黒鳥の謎の情報収集力を思い出したのだろう。すぐに頷いた。
「そう。ここにいる皆はあたしを支持してくれた、解散賛成組み。チーム結成当初からいる人がほとんどかな。あたしが呼びかけた時に集まったメンバーだよ」
無免許運転はどうかと思うが、言われてみると、犯罪に手を染めているような集団ではない気がする。こうして、いろはの指示に従ってまとまっているし、今だって騒ぎ立てるわけでもなく静かにしてくれている。なにより、瀬名を探すことに協力すると言っているのだ。
ひょっとしたら、皆、根っこの部分では良い人たちなのではないだろうか。
「それで、その後、どうなったんだ? 黒鳥さんがここにいない理由は?」
聞くと、いろははもう一度「怒らないでね」と言う。
そんなに駿平が怒りそうな事態にでもなったのだろうか。
「えっと、とにかく、二つのグループに分かれて言い合いになってたの。でも、殴り合いになる可能性は十分にあった。ううん、可能性じゃなくて、なってたと思う。もしあのまま誰も来なかったら」
その言葉に、そういえばと思う。
いろはも他のメンバーも、武装しているにも関わらず、殴りあった形跡がまるで見当たらないのだ。
「もう少しで殴り合いに発展するかも、っていう時に、あの黒鳥って人がいきなりあたしたちの拠点に入ってきたの。物凄い勢いで扉を開けたから、一瞬場が停滞したよ。全員が何事かと扉の方に注目した。それで、あの人は堂々とあたしたちと相手のグループの間に入ってきて、言ったんだよ。『みんな! 全裸になろうっ!』って」
「……」一拍おいて「はあ?」
思いっきりずっこけた。
なにをやってるんだあの人は。いきなり不良集団の中に入っていって全裸になろうなんて、バカげているとしか思えない。
「もちろん、そんなアホみたいな言葉には誰も耳を貸さなかった」
でしょうね。
「でも、そのおかげでその時だけは攻撃対象が彼女一人になったんだよ。なにを言ってるんだこいつ、ってなって、彼女に全員の視線が集まった。それを確認してから、次はこう言ったの。『犯罪者集団諸君! これから私は全裸になる! どこにナイフを突き刺してもらっても構わないぞ。ただし、そうした場合、解散は認めてもらおう!』って」
本当に、なにを考えているのか分からない。
「そこで、あたしは気付いたの」
気付けたのか。そんなふざけた言動をしている人間の意図を。
「彼女が自分たちの味方をするために現れたんだって。だから、とりあえず様子を見ようと思って、こっち側の人間にはただ見ているように指示した。どうなるか、全然分からなかったから」
「……」
その判断に、間違いはないと思う。
そんな訳の分からん人間が味方についてもどう行動して良いか判断できないだろう。むしろ、下手に動いて黒鳥の策を潰してしまう方が恐い。味方になってくれるというのなら、なにが起こるのか見ているのが正しい選択だ。
「それで、黒鳥さんはなにしたの?」
「本当に全裸になった」
いろはは、さらっと言った。
「……」
聞き間違いかと思ったが、というか思いたかったが、そうではないらしい。神妙な表情でいろはは俯いたままだ。
頭を抱えて「それで?」と先を促す。
「脱ぎ終わった彼女は相手グループの言った。『ほら、刺してみろ。私は逃げも隠れもしないぞ』って」
「……それ、マジ?」
「マジ」
ぞっとした。
さすがに冗談で済まされる言葉じゃない。全裸になるところまでは、問題はあるだろうが冗談で済む。しかし、いくらなんでもそれは……。
「あたしたちとの口論でもともと熱くなってた相手グループの一人が『じゃあ、お望み通り刺してやろうじゃねえか』って、ナイフを取り出したの。もちろん、あたしたちも、相手グループも、あの黒鳥って人が以前、武術を披露してたのを知ってたから、誘い込んで力でねじ伏せるんじゃないかって思った。だから止めなかったし、なんとかなるだろうって思った」
「思った、ってことは……?」
ごくりと唾を飲み込んで、聞き返す。
いろはは力なくこくりと頷いた。
「彼女、ナイフを、本当に真正面から受けたの。お腹の辺りに突き刺さって、血がすごく出た」




