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黒鳥の暴走

「ただいま~」

 黒鳥の案内でいろはに会いに行ったものの、予想通り会えずじまいだった。

 公園にたむろしていた女子たちになんとか食い下がったのだが、「リーダーはお前みたいな昼間から堂々とパンツを持ってる人間に会わないよ!」と追い返された。ごもっともである。

 黒鳥はあれでかなり武術に長けている。一度、チーム氷牙の面々に殴られそうになった時に守ってくれたことがある。黒鳥は武道など一切嗜んでいない駿平を心配していつも引っ付いてくるのだ。

 ただ、今回に限ってはそれが裏目に出た。どう説得しても黒鳥は決してパンツを穿こうとしてくれなかった。道中、「パンツを穿いてないと開放感があっていいよねっ!」と訳の分からないことを叫んでいた。その流れでそのままチーム氷牙のメンバーに会ったものだから、そりゃ追い返されるわけだ。

「あ、お帰り~。随分遅かったね。どったの~?」

 時刻は既に七時半を回っている。黒鳥の相手をしていたらいつの間にかこんな時間になってしまったのだ。

「ただいま姉ちゃん。ちょっといろはのとこに行ってた」

 出迎えてくれたのは、この前島家の一切を取り仕切る小学校教師、前島瀬名。

 肩口まで伸ばした髪の毛をポニーテールにしており、年齢の割りに大分若く見える。

 店で高校生ですと言ったらなにも聞かれずに「学生証はお持ちですか?」と聞かれそうなほどだ。

「あ、そうなんだ。いろはちゃんには会えた?」

「いんや。邪魔が入って会えなかった」

「邪魔?」

「まあ、いろいろあるんだよ」

 黒鳥のことは瀬名には話していない。というよりあの露出狂を実の姉に説明などできるわけがない。

「それで、今日の晩飯は……て、火!」

「え? なになに~? あ! 危ない!」

 居間に入って台所をふと見ると、鍋に火がかけられたままだった。

「姉ちゃん、最近、物忘れ多くない?」

「あはは。歳取ったからかな~? 確かに多いよね」

 苦笑いで料理に戻る姉を見送って、駿平は自室へ。

 前島家は二階建ての一軒家。二階は両親の部屋なのだが、今は誰もいない。母親は駿平を生むと同時に他界。経済的に苦しくなった前島家を支えようと父親は今も東京へ単身赴任中。瀬名が働き始めて少しずつ経済的に楽になってきているけれど、それでも家のローンに電気、ガス代、駿平の学費など出費が多い。決して、裕福な家庭ではなかった。

「……ふう」

 居間からドア一枚向こうにある駿平の自室にて。

 まず、駿平はカバンをベッドの上に放り出して普段着に着替えた。

 その後、瀬名に弁当箱を持っていこうとカバンを開いたところで固まる。



 カバンに中に、入っていてはいけないモノがあった、



「うおっと!」

 同時に、ポケットの中で携帯が震えた。

 画面を見ると、メールの受信ではなく、着信だった。

 相手は、



「おいコラ黒鳥さん。あんた、人のカバンの中にパンツ入れてんじゃねえよ」



 黒鳥だった。

 カバンの中には帰り際に返したはずの布切れが入っていた。

「そうか。そんなに現在の私の姿に興味があるのか」

「話を聞かないのもほどほどにしてくださいませんかね?」

「ふっふっふ。ならば教えてやろう。私は今、全裸だっ!」

 誇らしげに言うな。変態め。

「なんなら写真を送ってやろうか?」

「……」

「どうした?」



「そういう台詞は、いろはの胸を追い越してから言って下さい」



 電話越しに黒鳥がビキっと硬直したのが分かった。

 なんだかんだで、この人も女の子なのだ。いつだったかに同じことを言ったらものすごいへこみ方をしていた。それ以来、黙らせたくなったらいつもこの手を使っている。

「それはともかく、黒鳥さん、今日はいつも以上にテンション高くないですか?」

「うぅ……私だって女の子なんだぞ。胸が小さいことにコンプレックスを持っていたりするんだぞ……。それをよりにもよって爆美乳のいろはちゃんと比べるなんて……」

「それはもういいですから。貧乳は貧乳で需要ありますし」



 ブツッ!



 切られた。

 さすがに言葉を選らばなすぎたか。

「どうしてあんなにテンションが高かったのか謎のまま……でもないか」

 ベッドに寝転がりながら、ふと思う。

 明日から土日、つまりお休みなのだ。

 そんなことでと思うのだが、黒鳥の感性はよく分からない。「明日から二連休だぞ! こんなに喜ばしいことがあるか!」と出会って二日目くらいに言われた記憶がある。

 四月に入ってまだ二週間。入学式や始業式、その他もろもろ忙しかった。授業が早く終わるのは良いことだけど、普段と違う生活というのもそれはそれで疲れが溜まる。黒鳥が喜ぶのも無理なきこと。

 そう結論付けて、ベッドから起き上がったところでまた携帯が振動する。

 今度はなんだと思って見ると、黒鳥からメールが来ている。

 しかも、添付ファイルがある。

「……嫌な予感しかしないな」

 黒鳥と出会ってから、こういう直感力だけは鍛えられた。

 結果、

「よし、消そう」

 メールの内容がなんであろうが関係ない。

 物凄く嫌な予感がしたため、開く前に削除。添付ファイルもろとも消した。


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