簡単だったよ
「いろはちゃんのことだったな」
黒鳥の切り替えは早かった。
駿平が落ち着くと同時に話題をいろはの方へ転換。
「……」
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
駿平の方はといえば、黒鳥にみっともないところを見られたとかなり赤面していた。
黒鳥がそんな風になっている駿平を気遣って、あえて話題を転換したと思うのは考えすぎだろうか。
「先日の君の問い、いろはちゃんが望んでチーム氷牙のリーダーをやっているのか否か、ということだが、答えはどうやら否らしい」
「否、ですか」
「ああ。調べるのにはかなり苦労した。いろはちゃんに直接接触しようにも、なかなか隙がないんだよ。君がこの間接触した時から妙にガードが固くなってね」
どうやって調べるのかと思えば、直接接触しようとしたのか。散々危険な連中がメンバーにいると語っていたのに、なんて無茶なことをするんだ。
「ただ私自身、盲点だったんだが、ある一箇所だけはガードがゼロになるんだ」
「ゼロ? 誰の邪魔も入らず、二人で話せるということですか?」
「そういうことだ」
黒鳥はパソコンの画面に向かいっぱなし。
駿平は座る場所が他にないため立って話を聞いている。
「ちょっと考えれば分かることだったんだがな。なんてことはない。いろはちゃんの家の前だよ」
そこで、ちらっとパソコンの画面が見えたのだが、いくつもの映像が代わる代わる映っては消え、映っては消えを繰り返している。
これはもしや……盗撮ではないだろうか。
「いつも、接触する時は駿平君が外で動ける時間に合わせていたから気付かなかったのもしょうがないんだがな。とにかく、接触に成功した」
「でも、いろはってかなり遅く帰ってくるんじゃないですか?」
「そりゃね。確か、十二時近くだったと思うよ?」
そんな時間まで人の家の前にずっといたんですか。完全に不審者だ。
頑張ってくれるのはありがたいが、その辺り、どうなのだろうか。
「それで、しっかり話せたんですか?」
期待を込めて聞くと、黒鳥は肩をすくめて見せる。
「まさか。駿平君ならともかく、私みたいな微妙な立場の人間となんか話してくれるわけないだろう? 一言二言が限界だったね」
「え? でも、さっき答えが分かったみたいなことを言ってませんでした?」
「うん。だから、一言二言は言葉を交わせたんだって」
一言二言でどうにかなるものなのだろうか。
「簡単だったよ。だって彼女、『駿平君が今のチーム氷牙のリーダーなんて、いろはが望んでやってるわけないって断言してたけど、その辺りどうなの?』って聞いたら明らかに顔色が変わったし」
なんという直球勝負。
だが、確かに、それは一番効果的かもしれない。いろはとなんの関係もない黒鳥がどう言おうと、いろはにとっては外野が小うるさく口を挟んできているだけにしか思えないだろう。けれど、『駿平が』と一言加えれば全く意味合いが違ってくる。
言った内容にも間違いはないし、いろはにとっては不意打ちだったに違いない。
「それで、いろははなんて?」
「『そんなの、あなたたちには関係ないだろ?』だそうだ」
「あー、なるほど」
その返答なら、否で決まりだ。
「分かると思うが、望んでやっているなら『当たり前だろ?』とか、他にもっと答えの仕方があった。けれど、彼女は明らかに誤魔化してきたね。あれは望んでやってるわけじゃないよ」
「でしょうね。たぶん、自分で立ち上げて、どんどん大きくしてしまったものだから収まりがつかなくなってるって感じですね。最初のうちは望んでやってたんだろうけど、その返答じゃあ、やりたくてやってるわけじゃないみたいですね」
つまり、いろはは駿平の知っている通りの人間だったというわけだ。
どんなにグレても、どんなにぶれても、犯罪を犯している人間たちと望んで関わりたいとは思ってない。おそらくは、抜けたいのに抜けられないという状況なのだろう。
「で、そこまで分かったのは良いけれど、君はどうするつもりなんだい?」
「助けられるものなら助けたいですけどね。でも、相手が悪すぎますよ」
「駿平君じゃあ、ケンカになったら三秒で終わるだろうね」
クスクスと、黒鳥は笑う。
反論したいが、事実だからしょうがない。
「でも、一つ、伝えなきゃいけないことはあります」
「ん?」
ぐっと拳を握り締めて、言い切る。
「姉ちゃんにとって、いろはも姉妹みたいなものでした。ずっと心配してましたし、俺に様子を聞いてました。いろはの方も、ついこの間まで姉ちゃんのことを慕ってよく話してましたし、家族ぐるみで付き合ってました」
「……なるほど。つまり――」
「いろはにも、姉ちゃんの状況を伝えます。それをいろはがどう受け取るか、どう動くかは勝手だけど、あいつにも、知らせたいと思います」




