プロローグ2
その瀬名から、いろはの様子はどうだと毎日のように聞かれるのだ。実際、妹のように可愛がっていたから気になるのだろう。行く度にチーム氷牙のメンバーに絡まれるし、当人に会えないことも多いため足を運びたくない。が、だからといって仕事がある瀬名に自分で行って来いというわけにもいかず、仕方なく定期的に様子を見に出向いているのである。
「私も聞いた時は驚いたものだよ。チーム氷牙といったら、最近、急速に拡大しつつある要注意グループとして有名だからね。まさかそのリーダーがいろはちゃんとは……」
「ていうか、黒鳥さんはどこからそんな情報を引き出してくるんですか?」
この黒鳥という呼び名は当然だが本名ではない。
「ん? 身体と金だが?」
「……」
「うわー、この人もう処女じゃないんだーという顔をしないでくれるかな?」
「そんなことは思ってない!」
「安心しろ。私はまだ処女だ」
堂々と処女とか言わないでください。
「何故そんなに珍妙に落ち込んだ表情をするんだ? なにかおかしなことを言ったか?」
珍妙に落ち込んだ顔ってなんでしょうか。あと、自分の言動のおかしさを自覚してください。
腕を組んで考え始める黒鳥はとりあえず放って置く。
この黒鳥という女子、実は先生方以外、誰も本名を知らない。その代わり、分かっていることが三つだけある。
一、持っている情報量がおかしい。
二、人助けが趣味。
三、黒鳥という妙な名前だけは校内中に広まっている。
この三つである。
家から無言で出て行ったいろはを探そうとしたものの、どこに行けば良いのか分からなかった駿平に、文字通り道を示してくれたのがこの人だった。以来、いろはに会いに行く時は黒鳥に頼りっきりである。チーム氷牙は出来たばかりであるためか、活動拠点があっちこっちに移動し、探すのに一苦労なのだ。
黒鳥の制服のリボンの色はワインレッド。黒鳥は今年で三年生だ。つい先日、二年生になったばかりの駿平より一つ年上ということになる。
「ほれ、パンツだ!」
「ああ、はい…………じゃねえよ! なにやってんだあんた!」
気が付くと、自分の手の中に真っ黒のパンツが放り込まれていた。まだ温かい。
「なにって、君は私の処女を確認したいのだろう?」
「したくねえ!」
「ふーん? でも、今、君の手の中にあるのは現役女子中学生がたった今脱いだばかりのパンツだぞ? 興奮しないか? するよなあ?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて黒鳥は迫ってくる。
手の中にある布切れをどこかに投げ捨てられれば良いのだが、そんなことをしたら間違いなく黒鳥は怒る。しかし、だからとてこの状況を他の誰かに見られたら警察沙汰に。いや、その前にこんなものを手にした状態で興奮するなという方が――
「ブラもいるか?」
「いらねえよ!」
「ああ、女の子に抱いている夢を壊したくないならにおいを嗅ぐのはやめておいた方が良いかもしれんぞ?」
「……」
黒鳥について分かっていることがいくつか増えた。
四、処女である。
五、変態。
「それと、安心してくれて構わん」
「なにをですか……?」
「私は好きな人以外にこんなことはせん」
どう返答しろと?