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診断結果

「駿平」

「ん?」

「真剣な話、もしも、瀬名が認知症だったらどうする?」

 ついさっき、ここで自分たちが考えてもしょうがないと言った本人がその話題を持ち出しますか。構わないけれど。

「どうするって言われても、俺には分からないよ。家のローンとか、電気とかガス代とかそういうの、みんな姉ちゃんと父さんに任せっきりだし、料理とか洗濯も全然無理」

「父さんがこっちに帰ってきた方が良いか?」

「そりゃそうかもしれないけど、できてるならやってるでしょ? 父さんはしたくて単身赴任してるわけじゃないんだしさ。帰ってくる度に家は最高だなーって言ってるじゃん」

「だが、現実問題、瀬名が認知症だったらどうなる? そもそも瀬名はどうなるんだ? 家にいさせることができるのか?」

「……分からないよ、そんなこと」

「だよな」

 二人して、はあとため息をつく。

 そうでないことを祈るしかないが、もしも認知症だったらいろいろな問題が出てくる。そして、そのいろいろな問題に対処するための知識も経験も、なにもかもが不足している。母親を亡くして、ただでさえ家計が苦しい前島家にとって、一体どんな手段が取れるのか。

「前島さーん。診察終わりましたので、ご家族の方は先生のお話を聞いてください」

「ん? 今度こそか」

「みたいだね」

 診察室から出てきた瀬名は、笑顔だった。

 すれ違う時に「座って待ってて」と伝えて、俊也と二人で入室する。

 先生はいかにも医者です、という感じの風貌だった。

 眼鏡をかけ、ひげを生やしてイスにどっしりと座っている。先生の目の前には大きなパソコンがある。そこに患者の記録を打ち込んでいるのだろうか。

「どうぞ」

「はい」

 二人分のイスが用意され、先生の言葉に従って座る。

「では、単刀直入に申し上げましょう」

 前置きはなかった。

 先生は難しい表情をして、駿平たちにはっきりと告げる。



「前島瀬名さんですが、アルツハイマー型認知症と診断されました」



 聞き間違いかと思ったが、そんなことがあるはずがない。

 先生はあくまで淡々と、事実のみを言葉にしていく。

「瀬名さんの年齢でアルツハイマー等の認知症にかかるのは非常に珍しいことです。アルツハイマー病の危険因子の代表は加齢ですし、その他の危険因子も瀬名さんにはあまり見られません」

「ええと、その他の危険因子というのは?」

 俊也が、戸惑いを隠せない様子で問いかける。

「遺伝子的なモノや、それから疾病がありますね。糖尿病や高血圧などが関連していると言われています。また、うつ病や喫煙といったモノも危険因子と言われています」

 そんなことを言われても、素人の自分たちに分かるはずがない。

 糖尿病とか、高血圧、うつ病という言葉自体はよく聞くけれど、それが具体的にどういう症状が出て、どんな病気なのか、全く知らない。

「じゃあ、何故、瀬名はそのアルツハイマーとやらだと?」

「これを見てください」

 と、先生はパソコンの向きを変えて画像を見せてくる。

 そこには、人の脳の写真。

「これが、通常の人の脳です。そして、こちらが、瀬名さんの脳です」

 二つの画像が横に並ぶ。

「この部分、分かりますか? 海馬と呼ばれる、人の脳を司っている場所なんですが、瀬名さんの脳は萎縮が見られます」

 よく見なければ分からない程度のものだ。

 そこまで気にすることかと思ってしまう。

「これは、アルツハイマー病の一番分かりやすい現象なんですよ」


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