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大丈夫

《分かった。病院に連れて行こう。本人は嫌がるかもしれんが、父さんがメールで伝えておけば大丈――いや、俺がそっちに出向く。瀬名の性格からして、俺がわざわざそっちに行ったとなれば嫌でも行くしかなくなるだろうからな》

 そりゃそうだと思う。

 父親がわざわざ帰ってきて、一緒に行こうと言えば瀬名も断りづらいだろう。

《父さんからしても、その瀬名の行動は変だと思う。結果によっては、母さんが亡くなった時以来の重大会議を開かなければならんかもしれんが、それはそれとしよう。今は、瀬名の身体のことが一番だ。なにかあるにしろないにしろ、瀬名が普段と違う行動を取っているというのは親としては気になって仕方がない。駿平ならまだしもな》

 最後の一言は余計です。

「ええと、それじゃあ?」

《週末、金曜日の夜にでもそっちへ向かう。こっちの会社の上司も良い人でな。そういう理由ならきっと許してくれるさ。具体低な日時が決まったら連絡する》

「分かった」

《お前も、病院には一緒に来てもらうが、それまでは普段通りに接していろ。お前は口が軽いし、瀬名よりも十歳以上若い。変に首を突っ込むな》

 それは、肝に銘じておこう。

 教頭先生にも言われたことだが、自分は瀬名よりずっと年下なのだ。その上、黒鳥のようにそういった関連の知識があるわけでもない。

《それじゃあ、そういうことで、頼むぞ。どうせあいつのことだ。そんなことがあっては落ち込んで帰ってくるに違いない。フォローは、お前の役目だ》

「うん、分かってる」

《よし。じゃ、週末にな》

「了解」

 ブツっという音と共に通話が切れる。

 直後、



「たっだいま~!」



「うおう!」

 ドアが開いて瀬名が顔を出す。

 本気でびっくりした。

「ええと、お帰り! 今帰ってきたとこ?」

「え? あ、うん。そうだけど?」

 会話、聞かれてないだろうな。

「ねえねえ! それよりさ、駿平!」

「なに?」

「尽生ゲームしない?」

 瀬名がばっと取り出したのは、普通の人生ゲーム。

 しかし、その『人』の字がマーカーで消されており、尽きるという文字に変わっている。

「なんだよその終わった瞬間に命が尽きそうなゲームは!」

「なら、人逝ゲーム?」

「やだよ! それ、絶対死ぬから! 最後死んで終わるから!」

 激しく突っ込みつつ、どうも変だなと思う。

 いつもより二倍ほどテンションが高いような……。

「て、おい! その片手に持ってるもの見せろ!」

「なに~?」

 嫌がる瀬名のからそれを奪い取る。

 そしてラベルに書かれた文字を見て驚愕する。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいいいいいいいぃぃぃーーーー!」

「なに~? なにをそんあに驚いへるの?」

 ついにはろれつが回らなくなってきたか。

「アルコール度数四十六って、なに飲んでんだよ姉ちゃん!」

「え? 普通でしょ~?」

「普通じゃない!」

 まだ未成年だから酒を飲んだことはほとんどない。

 しかし、アルコール度数四十六という数字がどれほどのものか、想像するくらいはできる。これは、マズイ。

 受け取ったビンが空っぽなのだ。下手しなくても明日に響く可能性は十分ある。

「姉ちゃん、大丈夫なのか?」

「なにが~?」

「いや、なにがじゃなくてさ。仕事とか、明日だっていつも通りあるんでしょ?」

「そうれふよ~?」

「……」

 瀬名は酒を飲まないわけじゃない。割と日常的に、なにかお祝い事や嫌なことがあった時は飲んでいる。だから、飲むこと自体は別に良い。

 が、いくらなんでもこれは……。

「姉ちゃん、大丈夫か?」

 違う意味で、問う。

 瀬名は、今日の校外学習をすっかり忘れていたという。父親が単身赴任で東京に行った後、家の大半のことを一手に引き受けてきた瀬名にとって、汚点であるのは間違いない。帰りがいくら遅くなっても駿平のために夕食を作るし、弁当だって毎日手作りだ。学校でもきっと頼られていることだろう。教頭先生に学校の誇りだとまで言わしめるのだ。そうでないはずがない。

 その瀬名が、一歩間違えたらとんでもないことに発展していたミスを、してしまった。

 落ち込んでいるだろうことは容易に想像できた。

「大丈夫だいじょうぶ~」

 ふらふらと、おぼつかない足取りでテーブルに腰を落ち着ける。

 駿平はため息一つ、声をかける。

「今日は夕飯、自分で適当にしとくから、ゆっくり休みなよ。なにがあったんだが知らないけど、そんなに酔っ払うまで飲むなんて、大変だったんでしょ?」

 本当は知っているけれど、ここは嘘でいい。

 失敗を許さない性格の瀬名にとって、弟にそれを知られたくないはずだ。

「え~? 別にいいわよ」

「いいから。ていうか、その状態で火を使おうとするな。火事になったらどうするの」

 それでも立ち上がろうとする瀬名を押し留める。

 後者の方は、事実だ。こんな状態で料理などさせるわけにはいかない。週末、俊也が帰ってきたら家がありませんでした、では冗談にもならない。

「そう~? じゃあそうさせてもらおうかな~?」

「おう。とっとと寝とけって。明日に響いたら本末転倒だろ?」

 瀬名はガタっと席を立つとこれまたよろよろしながら、自室へと向かう。

「まさか部屋にないとは思うけど、これ以上飲むなよー?」

 その後ろ姿に、一応忠告する。

「分かっへる~」

 絶対分かってない気がするが、しょうがないだろう。

「ふう。さて、と」

 瀬名がしっかり自室に戻ったことを確認してから、台所に向かう。

「とりあえずは、週末、か。いろはのことも気になるけど、それは黒鳥さんに任せておこう」

 一人呟き、駿平は料理を始めた。

 瀬名が作るものより、数段落ちるものしかできなかったのは、言うまでもない。


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