表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

足音

作者: 西城優

 その日は、月の見えない夜だった。

 好きなアーティストのライブに行って盛り上がり、駅前で友人と別れる。私はまだライブの時の高揚感が抜けていなくて、気分良くアーティストの歌っていた歌を口づさむ。

 何気なく腕時計へ視線を向けると十時半。親にはメールをしてあるけど、流石にのんびりしていられるうな時間ではない。私は早く家に帰ろうと、少しばかり歩くスピードを速めた。

 時間も時間なだけに、人や車の数も少ない。その内車も人も通らなくなり、私の足音だけが辺りに響くようになった。

 ……不気味だ。騒音のない夜は安らぎなど与えてくれず、私の心に不安をよぎらせる。

 と、不意に足音が聞こえた。我ながらまるで小動物のように体をビクつかせ、私は背後から聞こえた足音の方へと視線を向ける。

 見た瞬間、私は前方へと体を動かしていた。全速力で、叫び声を上げながら。

 何を見たのか? そんな事口にしたくもない。見なければよかった。どうして振り向いたんだろう? 

 振り向かなければ、『アレ』が視界に入る事なんてなかったのに!

 ライブの後の高揚感なんて吹き飛んだ。全身に冷水をかけられたように、体が震えているのが分かる。 それでも、私は前を向いて走り続ける。そうしないと、私はどうにかなってしまう!

 家の明かりがこんなに恋しいと思った事はない。周りの家はなぜか電気が点いておらず、辺りは暗闇に包まれている。

 足音が、後ろから追っかけてくる。逃げても逃げても、私の後ろをついてくる。

 助けを求めようとした。けど、まず声が出ない。そして、周りには人の姿も、車の姿もありはしない。

「あっ!?」

 足元に注意がいっていなかったせいで、私は何かに躓いてしまう。前のめりに倒れ、肘をコンクリートですりむく。

 だけど、そんな痛みは気にならなかった。

 さっきまで追ってきた足音が突然消えた。

 ……いや、消えたんじゃない。『アレ』は、今私を後ろから見下ろしている!?

 その思った瞬間、鳥肌が体中を駆け巡る。体の震えが止まらない。逃げたいのに、体を起こす事ができない。

 そんな状況下で、私はもう一度振り返ってしまう。恐怖しているのに、自然と後ろへと首を回してしまう。奥歯を、カチカチと震わせながら。

 だけど、後ろには誰もいなかった。一本道の先には、ただ闇が広がっているだけである。

「……そっか。私、ライブではしゃぎ過ぎて、ちょっと疲れてるんだ」

 自分に言い聞かせるように、誰もいない道の真ん中で呟いてみる。そうすると少しだけ先程までの恐怖が和らいでくれた。

 そして私は前方を見る。体を起こして、家へと走って帰ろうと思って。

 だけど、私は起き上がる事が出来なかった。

 目の前に立っている白い服を着た女が、私の事を見下ろしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ