表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

全部、〇せたらいいのに-short-

獣と人間が戦争している世界。狼と人間のハーフの主人公は獣を倒すため、日々奮闘中。これはその日々の中の1ページ。

 

 鼻を雨の匂いが突き刺す。それでも、俺は走り続ける。そして3秒後、こいつは罠に引っかかって死ぬ。3,2,1。

「は?うわーーー!」

 単純な落とし穴に大きな針をつけただけ。そんな罠に引っかかるなんてある意味可哀想な死に方だ。さて、とっとと死体を処理するか。

 

「さーすが和くん!やるねぇ。今の罠への誘導、完璧だったよ」

「先輩、また見てたんですか。こんな雨の中来ることなかったじゃないすか」

 

 この先輩は俺の教育係。俺がこの殺し屋になってから新人じゃなくなってもずっといる人。俺の5つ上。

 

「まーまー今日俺暇だし!和くんこの後も仕事あるっしょ?手伝うよ!」

「嘘ですよね、それ。仕事入ってるの見ましたよ」

「えー知ってたの!だって和くん、めっちゃ目立つんだもん!和くんがうまいのは知ってるけど、万一にも見つからないようにするのが俺の役目だし!」


 俺の容姿は確かに目立つ。普通の人間の頭に獣人の耳がある。犬歯は尖っており、腰あたりからは大きなしっぽが生えている。街ゆく人々の目を奪うのには十分すぎるほどの外見だ。

 俺はこの国でも数少ない獣と人間のハーフだ。父親が狼、母親が人間。狼型と言われるこのタイプ自体はすごく人気なのだ。褐色肌の美形に生まれ、運動神経も普通の人間とは比べられないほどいい。俺も妹もこれのおかげか小中高でずっと好かれ続けた。


「あと和くん、いくら父親に復讐するったって一日に2件も3件も入れないの!和くんみたいな人は傷つきやすいんだから」

「そっすね。ご心配ありがとうございます」

「絶対思ってないでしょ!」


 しかし母親はそうはいかない。そもそも例が少ないのだが、父親が獣で母親が人間の場合、基本的に母親へのバッシングは避けられない。獣と子供を作るなんてーとか病気を持ってるーだとか。どれも信憑性のない噂話だ。兎型や狐型などはまだしも、狼型や熊型への差別は酷すぎる。特に俺の母親みたいな、父親に逃げられたような人は。


「この死体の遺棄、手伝ってくれるんすよね。俺、この後の飯奢りますよ。先輩の仕事、手伝えないんで」

「ガチで?ありがとう!早くご飯行こ!この獣は兎?」


 そう言って先輩は落とし穴を覗き込んだ。雨でよく見えないはずなのに。やはり経験の差というのはすごい。単純な戦闘力や殺しの上手さなら正直俺の方が上だが、総合的に見れば先輩の方が1枚上手だ。


「正解です。どうします?このまま埋めましょうか?」

「うーん、そうだね。埋めちゃおう」


 その言葉を聞いて俺は穴に手をかざした。その瞬間、落とし穴は塞がった。


「やっぱりすごいねー和くんの能力!人間と獣のハーフん中でもトップレベルなんじゃない?」


 人間と獣のハーフは生まれつき何かの能力を持って生まれる。俺は手をかざすと対象が過去に戻る能力だった。妹は逆に対象が未来に進む能力だ。狼型は時間操作系の能力者が多い。


「俺は戦争のためには使いたくないですけどね。俺が殺し屋になったのは、戦争で勝つためでも、能力を自慢するためでもないですから」


 現在、人間と獣は対立しており、戦争真っ只中だ。獣は人間が話す言葉を覚え、簡単には殺せなくなった。殺し屋とは言うが、依頼が来たら獣と戦う兵のようなものだ。そして獣を1000体殺せば、


「国から好きな獣1体を殺す支援が得られる、でしょ?」

「そうです。俺は父親を必ず潰します。できることなら俺一人の手で殺したいですが」


 父親は妹が生まれてから人が変わった。俺と妹には優しかったが、毎日母親を殴り、暴言をあびせ、同じ狼の女と子供を作って母親を捨てた。傷自体は俺が治すことが出来ても、母親の心の傷までを癒すことは出来なかった。


「絶対復讐するって誓ったんで」

「そっか」


 先輩はそれだけ言って口角を持ち上げた。


「それじゃ今から飯行くか!」

「あ、次まで時間なさそうなんで無理っす。またいつか奢ります」

「えーー!!」


 文句を言う先輩を放って俺は次の任務へ行った。




 午後6時半。今日の任務は全て終わった。雨はもう止み、月明かりが部屋を照らしている。俺は立ち上がった。特に理由はないが、デスクの前まで行った。デスクには俺と妹と母さん。みんな目を細め自然に口角が上がっている。笑っている。その顔が見られただけで幸せが色付いたようだ。俺はコーヒーを1口飲んだ。


 俺は確かに獣を殺す仕事をしている。でも、本当に今日の獣たちは悪い奴らだったのか。なぜ人間と獣は分かり合えないのか。俺には分からない。人間も、獣も。偏見を向けられる人も、周りから持て囃される人も。

 全部、愛せたらいいのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ