全部、〇せたらいいのに-short-
獣と人間が戦争している世界。狼と人間のハーフの主人公は獣を倒すため、日々奮闘中。これはその日々の中の1ページ。
鼻を雨の匂いが突き刺す。それでも、俺は走り続ける。そして3秒後、こいつは罠に引っかかって死ぬ。3,2,1。
「は?うわーーー!」
単純な落とし穴に大きな針をつけただけ。そんな罠に引っかかるなんてある意味可哀想な死に方だ。さて、とっとと死体を処理するか。
「さーすが和くん!やるねぇ。今の罠への誘導、完璧だったよ」
「先輩、また見てたんですか。こんな雨の中来ることなかったじゃないすか」
この先輩は俺の教育係。俺がこの殺し屋になってから新人じゃなくなってもずっといる人。俺の5つ上。
「まーまー今日俺暇だし!和くんこの後も仕事あるっしょ?手伝うよ!」
「嘘ですよね、それ。仕事入ってるの見ましたよ」
「えー知ってたの!だって和くん、めっちゃ目立つんだもん!和くんがうまいのは知ってるけど、万一にも見つからないようにするのが俺の役目だし!」
俺の容姿は確かに目立つ。普通の人間の頭に獣人の耳がある。犬歯は尖っており、腰あたりからは大きなしっぽが生えている。街ゆく人々の目を奪うのには十分すぎるほどの外見だ。
俺はこの国でも数少ない獣と人間のハーフだ。父親が狼、母親が人間。狼型と言われるこのタイプ自体はすごく人気なのだ。褐色肌の美形に生まれ、運動神経も普通の人間とは比べられないほどいい。俺も妹もこれのおかげか小中高でずっと好かれ続けた。
「あと和くん、いくら父親に復讐するったって一日に2件も3件も入れないの!和くんみたいな人は傷つきやすいんだから」
「そっすね。ご心配ありがとうございます」
「絶対思ってないでしょ!」
しかし母親はそうはいかない。そもそも例が少ないのだが、父親が獣で母親が人間の場合、基本的に母親へのバッシングは避けられない。獣と子供を作るなんてーとか病気を持ってるーだとか。どれも信憑性のない噂話だ。兎型や狐型などはまだしも、狼型や熊型への差別は酷すぎる。特に俺の母親みたいな、父親に逃げられたような人は。
「この死体の遺棄、手伝ってくれるんすよね。俺、この後の飯奢りますよ。先輩の仕事、手伝えないんで」
「ガチで?ありがとう!早くご飯行こ!この獣は兎?」
そう言って先輩は落とし穴を覗き込んだ。雨でよく見えないはずなのに。やはり経験の差というのはすごい。単純な戦闘力や殺しの上手さなら正直俺の方が上だが、総合的に見れば先輩の方が1枚上手だ。
「正解です。どうします?このまま埋めましょうか?」
「うーん、そうだね。埋めちゃおう」
その言葉を聞いて俺は穴に手をかざした。その瞬間、落とし穴は塞がった。
「やっぱりすごいねー和くんの能力!人間と獣のハーフん中でもトップレベルなんじゃない?」
人間と獣のハーフは生まれつき何かの能力を持って生まれる。俺は手をかざすと対象が過去に戻る能力だった。妹は逆に対象が未来に進む能力だ。狼型は時間操作系の能力者が多い。
「俺は戦争のためには使いたくないですけどね。俺が殺し屋になったのは、戦争で勝つためでも、能力を自慢するためでもないですから」
現在、人間と獣は対立しており、戦争真っ只中だ。獣は人間が話す言葉を覚え、簡単には殺せなくなった。殺し屋とは言うが、依頼が来たら獣と戦う兵のようなものだ。そして獣を1000体殺せば、
「国から好きな獣1体を殺す支援が得られる、でしょ?」
「そうです。俺は父親を必ず潰します。できることなら俺一人の手で殺したいですが」
父親は妹が生まれてから人が変わった。俺と妹には優しかったが、毎日母親を殴り、暴言をあびせ、同じ狼の女と子供を作って母親を捨てた。傷自体は俺が治すことが出来ても、母親の心の傷までを癒すことは出来なかった。
「絶対復讐するって誓ったんで」
「そっか」
先輩はそれだけ言って口角を持ち上げた。
「それじゃ今から飯行くか!」
「あ、次まで時間なさそうなんで無理っす。またいつか奢ります」
「えーー!!」
文句を言う先輩を放って俺は次の任務へ行った。
午後6時半。今日の任務は全て終わった。雨はもう止み、月明かりが部屋を照らしている。俺は立ち上がった。特に理由はないが、デスクの前まで行った。デスクには俺と妹と母さん。みんな目を細め自然に口角が上がっている。笑っている。その顔が見られただけで幸せが色付いたようだ。俺はコーヒーを1口飲んだ。
俺は確かに獣を殺す仕事をしている。でも、本当に今日の獣たちは悪い奴らだったのか。なぜ人間と獣は分かり合えないのか。俺には分からない。人間も、獣も。偏見を向けられる人も、周りから持て囃される人も。
全部、愛せたらいいのに。




