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其の三

 アール氏が目を覚ますと、そこは、ガルベシアのいる荒野の入口付近だった。

 ふと横を見ると、エル博士のキャラクターも立っていた。

「良かった、博士。生きていたんですね。良かった、本当に良かった」

 エル博士のキャラクターの安否を確認したアール氏は、安心したのか、顔がぐしゃぐしゃになるほど泣き崩れて、エル博士のキャラクターの脚に抱きついた。だが、エル博士のキャラクターは淡白に言い放った。

「当たり前ですよ。これはただのゲームなのですから」

 しばらく間を置いて、アール氏はすすり泣きながら言った。

「そ、それはそうですが、でも本当に良かった。ところで、何故私たちは助かったのですか。私はもう少しのところで胴体を噛みちぎられるところでした」

「実は、サーバーが落ちたのです。それによりゲーム全体がロールバックされたため、私たちはこのフィールドに来た時点での時間に逆戻りしてしまったというわけなのです」

「じゃあ、あのビショップさんは……」

「彼女は、転送魔法によって戻った街で一旦セーブされたため、きっとそこにいるはずです」

「なるほど。しかしあのビショップさん、一人だけで逃げるなんて許せないですね。今は恨みたい気持ちでいっぱいですよ」

「このゲームではたまにあることです。気にしないでください」

 エル博士のキャラクターはそう言って、その場に座り込んだ。

「では、そろそろ現実世界に戻ってきますか。先ほどのサーバーダウン中、なぜかあなたを引き戻せなかったので少々焦りましたが、結果的に無事でなによりです」

「はあ。何はともあれ、助かって良かったです。良い経験もしましたが、もうこりごりです。早く現実世界に戻してください」

「わかりました、少し待っていてください」

 エル博士は、すぐさま実験プログラムの終了プロセスを実行し、やがてマザーコンピューターに繋がった配線から、アール氏の頭部に装着されたヘルメットへと光が流れた。

 直後、アール氏の体は目をぱちりと開けて、ヘルメットを装着したままその場に突っ立った。

「お帰りなさい、お疲れ様でした」

 エル博士は、アール氏の働きをねぎらうように言った。

「きええええええええ!!」

 突然、アール氏は叫んだ。

「おやおや、あなたもこのゲームの中毒者になってしまったようですね。ですが、現実世界でそのように叫ぶのはさすがにマズイ。すぐにお止めください」

「うは。なにこれ。超リアル」

「だから、ふざけるのはおやめください」

「じじい誰だよてめえ。お前、きもすなあ。ありえねえ」

 このように言い放ったアール氏の体は、直後にその場で上下運動を繰り返したり、左右に素早く動いたり、意味のわからない行動を繰り返した。そう、まるで、このオンラインゲームのキャラクターのように。

 そう思い、ハッとしたようにエル博士はオンラインゲームの画面を見つめた。

 なんと、そこにはまだアール氏がいるではないか。ということは、こいつは一体誰なんだ。エル博士は、アール氏の体に質問を試みることにした。

「あなたの名前は何ですか」

 アール氏の体は、無表情で、且つ勢いよく答えた。

「は? 俺っちの名前を知らないとかお前はもぐりか。もうね、あほかと。俺はなあ、ABCサーバー天下のウンコナベ様だ」

 この回答を聞いたエル博士は確信した。何らかのエラーにより、間違ったデータがアール氏にダウンロードされてしまったのだと。そしてそのデータが、このオンラインゲーム屈指の最悪なプレーヤーのものだということも。

 その後、エル博士はどうにかしてアール氏の体に巣くう魔物をオンラインゲーム中へと戻そうと努力したが、先ほどの予期せぬサーバーダウンにより実験プログラムの大半が破損してしまっていることが発覚し、頭を悩ませていた。

「これは困った。このままではどうすることもできない。彼の意識が戻らないまま無理にヘルメットをはずすと脳に深刻なダメージを与える危険性もあるし、かといって、このままダークネスプレーヤーがログインするたびに暴言を吐かれるのは苦痛この上ない。プログラムの復旧には数年はかかるだろうが、その間だけなんとかこの暴言に耐えるしかないのだろうか……おや、画面の中で彼がまだかまだかと待ち構えている。しかし、彼には真実を打ち明けずに、プログラムが復旧するまでそこにいてもらうしかあるまい。後々、下手に訴訟を起こされては事だ」

 エル博士は、先ほどから黙りこんでいるアール氏の体を物憂げに見つめた。

「あるいは……最悪、復旧できなかった場合や彼が異変に気づいてしまった場合は、このマザーコンピューターを破棄するしかないか。そうすれば彼の意思は完全に消失し、最初から何もなかったかのように全てが丸く収まる。だから私は、念には念を入れて、友人も家族もいない知人をコンピューターに割り出させ、彼をここに呼びつけたのだ。死体の処理なら、私が発明した生体分解微生物でどうにでもなる。そうだ、どうとでもなるのだ。さすが私、天才だ」

 エル博士がフハハハハと気味悪く笑っている横で、アール氏の体がエル博士を哀れむように呟いた。

「あんた、人間じゃねえ……」

読んで頂き、ありがとうございました。

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