7話
仕事が終わり、帰宅途中。
公園のベンチに彼女は座り、ボーと空を眺めている。
「……」
一体、彼女はなぜここにいるのか?
知りたいという気持ちがあるが、人には踏み込んではいけない領域がある。
「帰ろう」
彼女を見なかったことにして帰ろうとした時だった。
「ねえねえ、お姉さん。こんなとこで何してるの?」
「良かったら、俺達と遊ぼうよ」
チャラチャラした二人組が彼女に話しかけていた。
「遊ぶ? 何して?」
「遊ぶって言ったらパーティーだよ」
「そうそう!」
「お菓子とかある?」
「もちろん! お菓子よりも良いものあるよ」
「本当?」
「うん、マジ」
明らかに怪しいのに、彼女は警戒する様子がない。むしろ、瞳を輝かせて、お菓子で釣られる子供のようについて行こうとしている。
見なかったことにするのは簡単だ。けど、寝覚めが悪い。
私は警察に電話を掛けて、男達の前に姿を現した。
「もしもし、警察ですか? 未成年の女の子を誘拐しようとしている二人組の男性がいます」
「なっ……」
「ちょっ……」
男達は慌てふためく。その間に警察への通報が終わり、私は男達と向き合った。
「警察に通報したから」
震える拳を力一杯握りしめて、男達を睨みつける。
警備の仕事で不審者対応もやるが、怖いものは怖いのだ。
男達は私を睨んだ後、走って去って行く。
「はぁ……」
緊張が抜けて私はその場に座り込んだ。
どうにか、生きてる。
「お菓子、パーティー……」
しゅんと落ち込んでいる彼女。
今、誘拐されそうになったことに気づいていないようだ。
「さっき、男達が言ってたこと嘘だから」
「え? 嘘」
「うん、あなたを誘拐しようとしてたの」
「誘拐……」
ようやく事態を理解できたのだろう、彼女の顔が青くなっていく。
「警察呼んだから、後はお願いね」
私は立ち去ろうとすると、彼女に服の裾を掴まれた。よく見ると、身体が震えていた。
「わかった。警察来るまで、一緒にいるから」
そりゃ、怖いよね。
***
警察の事情聴取が終わった。
事情聴取で知ったのだが、彼女はここの出身ではなかった。名前は柳麗華といい、二十三歳らしい。
未成年と思ったけど、違った。
「……」
事情聴取が終わっても、柳さんは私の側を離れない。私の服の裾を掴み、身体を震わせていた。
こんな弱っている柳さんを放って置けるほど、私は薄情じゃなかった。
「はぁ……うち来る?」
「良いの……?」
「うん」
ということで、柳さんをお持ち帰りすることに。
私が悪い奴だったら、彼女を家に連れ込み、エロいことをするだろう。もう、薄い本の如く。
もちろん、しないけど。
「あ、そう言えば自己紹介まだだった。私は三島夏子。よろしく」
「夏子……私は柳麗華。よろしく」
ぱぁと笑顔という花を咲かせる柳さん。
くっ、私の穢れた心が浄化されるようだ。
「じゃあ、行こうか。柳さん」
「麗華で」
「えーと……麗華さん」
「夏子。さんもいらない」
「わかった。麗華」
「うん」
麗華が私の手を握る。嬉しそうに手を振りながら、私達は家に向かった。
家に帰り、私は麗華に言った。
「麗華、まずはシャワーを浴びて」
もちろん、変な意味ではない。
麗華が外で暮らしていたため、野生の臭いが染み付いている為だ。
「わかった」
麗華を脱衣所に案内して、私は台所に立った。
「さてと」
麗華はお腹を空かせている筈だ。たらふく食わせてやる。私の得意料理を……!
私は鍋に水を入れて、コンロの火をかける。
沸騰したところで、麺を入れた。ついでにウインナーも投入。最後に、解かした卵を入れる。
「完成」
私の得意料理、インスタントラーメン。
これで、麗華のお腹を満たしてやる。
「夏子」
「麗華……っ」
麗華の姿を見て私は固まった。
麗華は全裸だった。
「着替えなくて……」
「あ……ごめん、今用意するから……!」
私はダンスからTシャツとズボンを取り出す。
さらに、予備の下着も取り出した。
「取り敢えず、これ着て!」
「……うん」
麗華は私から服一式受け取ると、その場で着替え始めた。脱衣所じゃないのか……と内心叫びたい気持ちになる。
「着替えた」
振り返ると、麗華が着たズボンとブラとショーツが脱げて下に落ちた。
「サイズ大きかった……」
「……」
ポツリと呟く麗華。
幸いにも、Tシャツは大きくワンピースみたいに見える。まあ、同性だし良いか。
「自分の着替えはないの?」
ふと、リュックサックを指差しながら訪ねる。
麗華はリュックサックを漁る。
「洗わないとダメ……」
「そっか……じゃあ洗っとくから貸して」
「うん、ありがとう」
「後、ご飯作ったから、食べてね」
「……うん」
麗華はテーブルに置いてあるラーメンに気づいて、目を輝かせた。
私は麗華から下着とついでに洋服を受け取ると、洗濯機にぶち込んだのであった。