6話
休日。天気は晴れ。
特に予定がない私は近所にある大きめの公園をプラプラと歩いていた。
「平和だ……」
私は休日だが、世間では平日。
平日の休みは人が少なくて、過ごしやすい。
ポーチから棒付きキャンディを取り出し、袋を開けて、口に入れる。
「チョコ味……うま……」
棒付きキャンディを舐めながら歩いていると、木の影に女の子が座っていた。年は高校生くらいだろう。ボサボサの髪に、スウェットを着ていた。近くには大きなリュックサックが置かれている。
こんな昼間から……不登校か?
「……っ」
彼女と目が合ってしまった。
慌てて目を逸らすが、視線を感じる。
気のせいだ……!
私は彼女の横を通り過ぎるが、彼女が後をついて来た。
「……」
こっちの方に用があるとか……?
うん、そうに違いない。
私は立ち止まり、彼女が通り過ぎるのを待つことにした。しかし、彼女も足を止めて、私のことをじーと見つめて来る。
「……」
流石にここまで来たら無視するわけにもいかない。
「えーと……何かよう?」
「……美味しそうだったから」
「美味しそう……あっ、飴?」
「うん」
彼女はこくりと頷く。よく見ると、口の端から涎が垂れていた。
ポーチから棒付きキャンディを取り出す。
「良かったら、いる?」
彼女に差し出すと、彼女は受け取った。
「ありがとう」
癒されるような優しい笑顔だった。
彼女は棒付きキャンディの袋を開けようとするが上手くいかないようだ。目に涙を浮かべて、私を見つめて来た。
「……貸して」
私は彼女から棒付きキャンディを受け取ると、袋を開けて彼女に渡した。
受け取った彼女は嬉しそうに棒付きキャンディを口の中に入れる。
「甘い……!」
頬を綻ばせる彼女。
表情がコロコロ変わる子だな。
「じゃあ」
私はそう言って、彼女の前から立ち去った。
***
仕事の日、私は巡回をしていた。
「ふぅ……」
私が勤めている商業施設は、結構広く巡回するだけで一時間は掛かる。
それでも、人が少ない分、事案の件数は少ないのは救いだ。
「……あれ?」
階段のところに、女の子が座っていた。
横には大きなリュックが置いてある。
座るなら、近くにあるベンチを利用するはずだ。もしかして、具合悪い?
そんな疑問を持ちながら近づくと、女の子に声を掛けた。
「すいません、ここ座り込みは……」
声を掛けていると、私はある事に気づいた。
この子、前に棒付きキャンディをあげた女の子だ。
「あ……この前はありがとうございます」
彼女は私に頭を下げた。
そして、目をキラキラとさせ、口の端からは涎が垂れていた。
「あー……ごめん、今は飴持ってない……」
「……そう」
しゅんとなる彼女。
罪悪感がぐさりと胸に刺さる。
「……あ、ここ座り込みダメだから移動してね」
「……うん」
彼女はリュックサックを背負うと移動していく。
ボロボロのスウェットに、ボサボサの髪。ツンとした臭い。
もしかしたら、彼女はホームレスかもしれない。
「……」
あの歳で、ホームレスなんて。
一体、彼女の人生に何が合ったかは不明だけど、可哀想だと思った。
***
休日、私は桃と出掛けていた。
レトロな喫茶店。レンガの壁面に、暖色系の照明。店内にはジャズが流れている。
私達は巨大なパフェを食べながら、アニメ談義に花を咲かせていた。
そんな中、私はふと桃に訪ねてみた。
「ホームレスの女の子?」
「うん、最近よく見かけるようになって」
「あっ、大きなリュックサック背負った!」
「うん、知ってるの?」
「学校でも噂になってますよ」
「そうなんだ……」
あれから、何度もホームレスの女の子を見かけた。
私が働いている商業施設以外でも、コンビニだったり公園だったり。
「もしかして、夏子さんの知り合いですか?」
「いや……一度、お菓子を上げただけ」
「夏子さんがお菓子を……!」
桃が口を抑える。目元には涙を浮かべている。
「そんなに意外?」
私は血も涙もない人間だと思われていたのだろうか。
「いえ、そんなことはないですよ。でも、学校でも何人かあげた人いるみたいで」
「へー」
確かに、彼女を見ていると何か食べ物をあげたくなる。
「多分、地元出身の子ではないですよ。私結構交友関係広いんですけど、誰も知らないみたいなんで」
「なるほど……」
他の県からやって来たてことか。
「もしかしたら、自分探しをしてるのかも」
「自分探し……」
私はメロンソーダを手に取り、グラスに映る自分の顔を眺める。
「そういえば、夏子さんはどこ出身なんですか?」
「私? 秘密」
「えー、どうしてですか?」
「女には秘密の一つや二つあるもの」
「夏子さん、良い女ぽい」
「ぽい、て……」
まあ、良い女ではないけど。