4話
「夏子さん、何か食べたい物ある?」
「チケット買わなくて良いの?」
「うん、ネットで注文してるから」
なるほど。便利な世の中だ。
「それで、何か食べる? 良かったら奢るよ!」
「いや、それは大人としての面子が……」
「もしかして、奢ってくれる……?」
「いや、自分の分は自分で出そう。後、チケット分はお金出すよ」
警備員の給料は薄給なのだ。
それでも、警備で働くのは私がこの仕事を好きとかではなく、ぶっちゃけ楽だからだ。
中には入り、映画を見る。
「面白かった……!」
桃は瞳を輝かせながら、映画について語る。
映画なんて久しぶりに来たけど、誰かと一緒に見るなら悪くないかも。
「あ……」
桃の笑顔が固まった。
「桃?」
桃は私の背中に隠れる。
「夏子さん、しー」
桃さんの視線の先を追うと、桃の友達の二人組が居た。
「実は二人の誘いを断って来てて……」
「あー、なるほど」
桃が見られると、友達関係にヒビが入る。
と、考えていると、こっちの方へ歩いて来た。
「ど、どうしよう……?」
今の桃は変装しているので、バレる可能性は低いだろう。それでも、桃は声を震わせて、帽子のつかを掴む。
「桃、こっち」
私は桃を引っ張り壁際に移動すると、桃を抱きしめた。
「え……」
「静かに」
彼女達から見えないように、私の背中で隠す。
「え……」
「マジで……」
彼女達には真昼間から、公共の場所でいちゃついているように見えるだろう。彼女達は私達を見た後、立ち去っていった。
「ふぅ……」
私は桃を解放した。
「桃、もう大丈夫ですよ」
「え、ありがとうございます……」
桃が目を逸らした。
突然、抱きしめられて嫌だったかな?
「夏子さん、大胆……」
「え、違くて……」
「わかってる! 助けてくれてありがとうございます!」
揶揄われてしまった。
「お礼に甘い物でも奢らせて!」
「えーと……お願いします」
映画館を出て、近くのカフェに入る。
「夏子さんは甘い物好きだよね?」
「まあ……結構好き。カフェオレとかよく飲むし。お昼ご飯とかも、牛丼食べながらカフェオレ飲むし」
「え? 合うの?」
「うん、美味しいよ」
やっぱり、周りには変だと思われるな。
私はパフェとカフェオレを注文する。
桃はいちごケーキとコーヒーだった。
***
「最近、いつもの女子高生来ないですね」
「そうだね」
一週間に一回くらいのペースで来ていたが、一月くらい見ていない。
「もしかして、ダンスに飽きたのかも」
「確かに」
「では、巡回行って来ます」
「気をつけて」
私は制帽を被り、無線を持って防災を出た。
平日ということで人は少ない。
何事も無さそうだ。
のんびりと巡回していると、広場のベンチに座る女子高生を発見した。いつも、三人組でダンスをしているのに今日は一人で、よく知る相手だった。
「桃」
「……あ、夏子さん」
元気が無さそうな桃。
桃は私の顔を見た後、涙を流した。
「え、えーと……」
戸惑っていると、桃が抱きついて来た。
身体が震えていて、今にも消えて無くなってしまいそうだ。
「ここにいてください……」
「あ、はい……」
正直、女子高生に抱きつかれる警備員なんて、目立つ。今もチラチラと視線を感じるし、防犯カメラにも映っているから、何事かと思われているだろう。
「取り敢えず、場所変えよう」
「……うん」
桃が抱擁を解くけど、私の手を握っていた。
私は手を繋いだまま、桃を救護室へ案内する。
「すいません、お客様が貧血のため、救護室使います」
「了解」
防災に居る警備員に伝えて、私と桃は救護室に入った。
桃はベッドに座り、項垂れていた。
私は椅子に座り、桃と向き合う。
「何があったの?」
「……」
私の問の答えは沈黙だった。
こんな時、私はどうすれば良いかわからない。
ポジティブな言葉をかければ良いか、抱きしめてあげれば良いか。
「……」
私は桃の返事を待つことにした。
しばらく経った後、桃がベッドを叩いた。
「えーと、座れってこと?」
コクンと頷く桃。私は椅子から立ち上がり、桃の隣に座った。
桃は私を抱きしめる。
「頭、撫でて」
誰かの頭を撫でた経験なんてない。
緊張で手が震えて来た。
「早く……」
私は恐る恐る、桃の頭に手を伸ばした。
桃の頭を撫でる。
「……友達にバレたの」
「バレたて……アニメ趣味?」
「うん」
前に聞いた時は、アニメに寛容じゃないて聞いてたけど。落ち込んだ桃を見てると、状況は悪いみたいだ。
「それで、私がそんな人だと思わなかったて……」
「あ……」
友達の関係に完全にヒビを入れたわけだ。
「……私はどうしたら良いかな?」
「……」
そんなことを言われて、私には正解なんてわからない。
「桃はどうしたいの?」
「私は……二人と仲直りしたい」
「うん、なら……」