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3話

 甘い物には不思議な力が宿っている。

 ファーストキスを奪われて、気分が落ち込んでいたが、甘い物を食べればこの通り。


「幸せ……!」


 顔を綻ばせて、クレープを頬張る。


「それは……良かった」


 彼女は財布の中を見て、しょんぼりしていた。

 女子高生にとってはクレープ三つ分の代金は大金だったかもしれない。けど、ファーストキス奪われたし。


「ご馳走様。美味しかったよ」

「警備さんが元気になって……うん、私も奢ったかいはあるわ」


 警備さん、か。


「私、三島夏子。不良女子高生は?」

「不良女子高生て……私は橘桃。後、不良じゃないです」

「そう」


 私はベンチから立ち上がると、橘さんに言った。


「ご馳走様。橘さんの秘密は守るから」


 私は立ち去ろうとすると、橘さんに腕を掴まれた。


「待って! まだ、終わってない!」

「え……」


 てっきり終わったと思ったのに。


「……はっ、まさかキス以上のことをする気……!」

「しないわよっ! 私だって初めてのキスだったんだから!」

「初めてのキス……」

「仕方ないでしょ……私だって混乱して……先走ったのよ……」

「……」


 まあ、先走ったなら仕方ないか。


「三島さんは……その……」


 橘さんは言い淀む。視線を彷徨わせ、不信感マックスだ。

 もしかして、愛の告白……!

 キスをして、私に好意を持ったとか。

 私も捨てた物じゃない。


「ヒーローとか、好き?」

「ヒーロー……? 別に」

「え? でも、ヒーローショー観て……」

「ああ……それは暇だったから」

「暇だったから……」

「暇……」


 橘さんは項垂れていた。

 うーん、何かしたかな……?


「ちなみに、アニメとかは?」

「……結構観る」

「え! 今期のアニメて何観てる!?」

「えーと……」


 私がアニメの話をすると、橘さんは目を輝かせていた。


「もしかして、アニメ好きなの?」

「うん、大好き! むしろ、もうアニメの為に生きてる!」


 ぐいと顔を近づけてくる橘さん。

 この瞳は間違いなくアニメ好きだ。


「そっか……」

「でも、アニメの話ができる友達いなくて……」

「えーと、いつもダンスしてる二人は?」

「二人には秘密……アニオタキモいて思ってるから……」


 しゅんと元気が無さそうな橘さん。確かに一部の人からは偏見があるかもしれない。


「なるほどね……まあ、友達にも言えない秘密はあるね」

「うん……そこで何だけど……」


 橘さんは指をもじもじさせると口を開いた。


「私と友達になってください」

「えーと……」


 橘さんは女子高生で私は二十八だ。

 一回りも年齢が違う。

 友達て、無理があるんじゃ……?


「ダメ?」

「……ダメじゃない。友達になろう」

「やった」


 ガッポーズを取る橘さん。


「よろしくね、橘さん」

「桃、て呼んでください!」

「……桃、さん」

「さんもいらない!」

「桃」

「はい、夏子さん」


 私達は友達になった。

 連絡先を交換して、私達は別れた。

 てか私だけさん付けか。


***


 仕事中、巡回をしていると、防災から連絡が入った。


『三島さんへ、三階の広場でダンスをしている三人組が居るので声掛けお願いします』

「了解です」


 ダンスをする三人組。

 間違いなく、いつもの女子高生だろう。

 現場に着くと、女子高生三人組がダンスをしていた。


「はぁ……」


 またか。

 ため息を吐き、近づいて行くと、桃と目が合った。

 桃は一瞬、笑顔を見せた後、すぐにむすっとした顔をした。


「あの、すいません。ここダンス禁止です」

「えー、そうなんですか?」

「初めて知りました」


 相変わらず、ストレスを溜めてくる女子高生だ。

 彼女達はバックを持つと、その場から去って行くが、桃だけ立ち止まった。


「あ、警備さん。これ、落とし物」

「あ、はい」


 桃さんが渡してきたのは、今期のアニメキャラのストラップだった。


「じゃあ」


 桃は去って行く。


「落とし物ね……あ、場所聞き忘れた」


 やらかしたことに少し落ち込んでいると、スマホが震えた。バックヤードに入り、スマホを操作すると、桃からのメッセージだ。


『さっきのストラップ、私からのプレゼントだから』

「プレゼントね……」


 私はスマホにストラップをつけた。


「うん、良いかも」


 私はストラップを眺めながら、そう言葉にした。


***


『今度の土曜日、映画行かない?』

「良いよ」


 と電話でやりとりがあり、桃と映画に行くことになった。

 待ち合わせ場所の駅に着くと、たくさんの人がいる。私同様待ち合わせに使っているのだろう。


「多いな……」


 人混みにうんざりし、待ち合わせ場所を変更しようかと思った時だった。


「お待たせ!」


 黒いTシャツに、デニムのショートパンツ。キャプとマスクをつけて、髪を一つに纏めていた。


「えーと、桃?」

「正解!」


 マスクと帽子を取ると、桃だった。

 桃はすぐにマスクと帽子を着ける。


「友達にオタバレするわけにはいかないので」

「そっか」


 色々と大変そうだ。


「では、行きましょう」


 桃は足早に、映画館に向かって歩き出す。

 私も後を追うが、距離をジリジリと離された。


「夏子さん、早くしないと映画館が逃げるよ!」

「いや、映画館は逃げない」


 どうにか桃の後を追い、映画館に辿り着いた。もう、これだけで疲れた。

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