2話
休日。雲一つない青い空。絶好のお出掛け日和。
暇な私はデパートに来ていた。
古びた今にも潰れそうなデパート。土曜日だというのに、人は少なく、フードコードでは閑古鳥が鳴いている。
正直、人混みが苦手な私にとっては有り難いことだ。
私はフードコードでパンケーキを頼む。
ふんわりとした分厚いパンケーキで、生クリームが乗っている。
フォークとナイフで切り分け、口に運ぶ。パンケーキはすぐに溶けてしまった。
「幸せ……」
このひと時の為に私は生きている。
パンケーキを食べ終えて、ブラブラしていると、屋上でヒーローショーをやっていた。
名前すら聞いたことがないご当地ヒーロー。
ステージ前に設置されたパイプ椅子はガラガラで、家族連れが二組と女性一人しかいない。
「ん……」
ふと、女性に目が止まった。
キャップに黒いマスク。Tシャツにジーンズ。
どこかで見た気が……?
両手にペンライトを持ち、ヒーローを応援している。
ヒーローガチ勢……?
彼女のことが気になり、私はベンチに座った。
ヒーローが怪獣にやられて膝をついた。
「さあ、ヒーローがピンチだ! みんなの応援が必要です! 大きな声で応援しましょう!」
ステージに上がるお姉さんがそう言うが、応援する人数は少ない。
「がんばれ」
「がんばって……」
応援するのは小さな子供二人と。
「頑張れ! 負けるな!」
全力で応援する彼女。
その様子に、ステージのお姉さんも苦笑いを浮かべていた。
「おおっと! 皆んなの応援でヒーローが立ち上がった!」
ヒーローは立ち上がり、あっという間に怪獣を倒す。
ヒーローショーが終わり、私はベンチから立ち上がった。
「っ……」
強い風が吹いた。
ヒーローガチ勢の彼女の帽子が風で飛んだ。
「よっと……」
ちょうど私の方へ飛んで来たので手を伸ばすと、無事キャッチすることができた。
彼女も私が帽子を取ったことに気づいたのか、私の方へ近づいてくる。
「すいません、ありが……っ」
私を見た彼女が固まっていた。
一体、どうして……?
私は彼女をマジマジに見つめて気づいた。
「あ……この前の女子高生」
広場でダンスしていた黒髪の女子高生だ。
「け、警備さん……ど、どうしてここに……?」
「えーと……休みだから」
「そ、そうですか……」
視線を逸らして、両手に持ったペンライトを背中に隠す女子高生。
もしかして、見てはいけない物を見た?
ここは大人らしく、颯爽と去ろう。
「じゃあ」
私が彼女に背を向けて、立ち去ろうとすると、腕を掴まれた。
「えーと……」
「見たよね?」
「……何のこと?」
「だから、私が……ヒーローショーで応援してたとこ……!」
「……見てないよ」
「嘘! 来て!」
彼女に引っ張られて、後をついていく。
彼女は女子トイレに入ると、私と一緒に個室に入ると鍵を閉めた。
「ねえ、警備さん」
「は、はい……」
顔を近づけくる彼女に、私は後退るが、狭い個室では逃げ場がない。もしかして、口封じに殺される? 死体は切り刻んでトイレに流すとか。
「どうしたら、黙っててくれる?」
「……誰にも話さないよ」
「……」
彼女はニコリと笑うと、Tシャツを脱ぎ捨てた。
「ちょっ……」
さらに、彼女はキャミソールを脱ぎ捨て、上半身をブラのみになる。
突然の状況に唖然としていると、彼女は私に抱きついた。
「え、え……」
戸惑っていると、彼女はスマホで写真を撮る。
「ねえ、警備さん。もし、誰かに話したらこればら撒くよ」
「……」
彼女がスマホを見せる。そこには半裸の女子高生に抱きつかれる私が写っていた。
「同性同士で、抱きついても意味ないんじゃ……?」
「っ……」
彼女が目を丸くして、固まっていた。
どうやら、気づいていなかったらしい。
「こうなったら……」
彼女は私の後頭部に手を回すと、私を力強く引き寄せた。
「んっ……」
目の前には女子高生の顔があった。唇には柔らかい感触。
そして、シャーター音が聞こえる。
「ふふ……」
彼女は顔を真っ赤にしながら笑っていた。
そして、スマホの画面を私に見せてきた。
そこには彼女とキスをする私が写っていた。
「こ、これで……どう」
「……」
「え、警備さん……」
私の目からは涙が出てきた。
初めてのキスだった。それが無理やりで、しかも秘密を守らせる為だと思うと、自然と涙が出てくる。
「初めてだったのに……」
「ご、ごめんなさい……! わ、私に出来ることならなんでもするから……!」
「……甘い物、奢って」
「甘い物……任せてください! 好きなだけ奢ります!」
「うん」
彼女は服を着る。その後、一緒にトイレを出て、デパートの駐車場に行った。駐車場ではクレープを売っていた。
「警備さん、どれが良いですか?」
「チョコバナナ……」
「チョコバナナ! 了解、買って」
「といちご……後、カスタード」
「え……三つも……!」
「……」
「か、買ってきます……!」
私が涙を浮かべると、彼女はクレープを買いに行ったのであった。