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12話

「今月は強化月間だ! ガンガン新規契約を取りに行け! 残業もしたいだけしろ! 結果を出せば臨時ボーナスをくれてやる! そして、契約が取れないやつには人権はない!」


 朝礼で部長が皆に鼓舞する。臨時ボーナスと聞いて皆顔色が変わった。

 徹底的な実力主義の会社。そこで働く社員も当然、実力主義なのだ。


「……」


 いつもより、契約を取らないと。

 私はプレッシャーを感じていた。

 いつものように既存のお客様のヒヤリングを行った後、片っ端から電話を掛ける。

 他の社員も鬼気迫る勢いで電話を掛けていた。


「ふぅ……」


 事務作業が終わり、時間は既に二十二時。

 明日の準備が終わってないから、朝早く来ないといけない。

 もしかして、死んじゃう……?

 過労死という言葉が頭をよぎるが、強化月間さえ終われば無茶な残業はしなくて済む。

 帰ろうとすると、同期の黒崎さんはまだ仕事をしていた。


「……」


 ふと、張り出された成績に視線を向ける。

 赤いグラフで書かれた契約件数は、黒崎さんの方が私より少し多かった。

 私はデスクに戻ると、パソコンを起動させる。

 負けてたまるか……!

 私は一心不乱に仕事と向き合うのであった。


***


 毎日残業して朝早く出社する。休日出勤もするとなると、体調を崩すのも必然だった。


「……」


 布団に入って一時間。

 身体は疲れているのに寝ることができなかった。


「目を瞑っていれば……」


 目を瞑り、寝返りを打つ。


「……」


 時間を確認すると、さらに一時間が経っていた。苦労虚しく寝ることができなかった私は疲労困憊の身体のまま会社に出勤する。

 いつもなら、甘いコーヒーを買うが今日はブラックコーヒーを買う。


「っ……」


 口の中に苦みが広がる。

 ブラックコーヒーが好きな人の気持ちが理解できない。

 自分のデスクにつき、仕事を始める。


「……」


 ダメだ。全然頭が回らない。

 仕事が進まないまま、朝礼の時間になった。


「おまえらの仕事は契約を取ってくることだ! 断られても必死に頭を下げて取ってこい! 取ってこれないやつはこの会社には必要ない!」


 部長の声がガンガンと頭に響く。


「今日も一日、死ぬ気でやれ! 以上!」


 部長の話が終わり、本格的に仕事が始まる。


「……」


 今日はアポイントを取ってある会社がある。

 私は準備すると、会社を出た。

 電車に揺られて、会社の前まで着くが、アポイントの時間まではまだある。


「ふぁ……」


 あくびが出る。瞼が重くなっていく。

 こんな状態じゃ、契約なんて取れない……!

 近くの広場に、背もたれがついたベンチがあった。

 少し、仮眠を取ろう。

 私はベンチに座り、背もたれに背を預ける。

 寝れなかったはずなのに、一瞬で意識を持っていかれた。


「んっ……」


 顔に冷たい感触。目を開けると、空は曇天で雨が降っていた。

 寝る前は天気が良かったのに……!


「っ……時間……!」


 私は腕時計を確認すると、時刻はすでに十四時。

 アポイントは十時半からなので、既に遅刻である。


「……っ」


 携帯を確認する。会社からの大量の着信履歴と訪問先からの着信履歴があった。

 ど、どうしよう……!

 寝坊という明らかな失態。

 せっかく取れたアポイントを無駄になるし、会社に戻っても部長に説教されるのは間違い無いだろう。

 頭を抱えた後、震える手で会社に電話を掛ける。


「お、お疲れ様です……営業の三島です」

『三島……! 少し待って』


 一瞬で保留に切り替わる。そして、電話に出たのは部長だった。


『おう、三島か。何度も電話したが、どうして出なかった?』

「そ、それは……事情が……」

『事情だと……! まあ、それはいい。それよりも、お前が今日訪問する会社から連絡があったぞ! お前が約束した時間になっても来ないてな! どういうことだ! 三島っ……!』

「っ……!」


 身体が震える。

 思わず通話を切りたくなるが、私は必死に堪えた。


「も、申し訳ございません……! 公園で昼寝をしてしまって寝過ごしてしまいました……!」

『寝過ごしただと……! 馬鹿者が! 今すぐ会社に戻ってこい……!』

「っ……はい」


 電話が切られた。

 部長の声が通話が切れているのに、脳内に響く。

 それでも、戻らないと……!

 私は重い足取りで会社に戻った。

 戻った私に気づいた部長が顔を真っ赤にしてやってくる。


「三島っ! おまえ、自分が何をやったか分かってるのか!」

「……は、はい! 申し訳ございません……!」

「社会人として寝坊して約束を破ることは最悪の行為だ! おまえは我が社の看板に泥を塗ったんだ! 分かっているのか!」

「は、はい……」

「なら、今すぐに会社行って謝罪してこい!」

「はい……」


 私は会社を出て、訪問予定だった会社に向かう。

 幸いにも担当の方は会ってくれて、謝罪を受け入れてくれた。

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