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11話

 警備員をやっていて、一番嫌だと思うこと。それは、人材不足の時だ。


「シフトが多い……!」


 今月の私の勤務は二十四日。

 理想は二十日で、四日も多い。


「まあ、仕方ないですよ……一人辞めましてからね」

「流行の退職代行てやつですよ?」

「そう」

「……」


 私はマジマジとシフト表を見つめる。


「ごめんね、今募集かけてるから」

「隊長。もう、一日の人数を減らしましょう」

「いや、ダメだよ。契約で決まってるからね。破ったら仕事無くなっちゃうし、私の家のローンが……」


 悲痛な表情を浮かべる隊長。

 まあ、無理とわかった上で言ったんだけど。


「わかりました。まあ、頑張りますよ。なので、ちゃんと辞めない人材を雇ってください」

「それは任せて」

「でも、この前雇った新人、一ヶ月で飛びましたよね」

「……善処します」

「……」


 項垂れる隊長。

 人手不足はしばらく続きそうだ。


「では、巡回行ってきます」

「よろしく」


 私は防災センターを出た。

 今日は土曜日ということもあり、いつもより人が多い。


「うん……?」


 財布を拾った。

 ピンク色で革製の高そうな二つ折りの財布。

 防災に無線を送る。


「警備、三島より防災センターへ。財布拾いましたので一旦戻ります」

『了解です』


 財布を手に持ち、防災戻ろうとすると、キョロキョロと周りを見ている女性がいた。

 ベンチの下を見たり、植栽の後ろを覗き込んだりしている。


「お客様、いかがなさいましたか?」

「えっ……えーと、落とし物してしまいまして……」

「落とし物……もしかしたら、防災に届いているかもしれないので特徴教えていただいても良いですか?」

「……ピンク色の財布で、二つ折りです。中には身分証が入ってて」

「なるほど……」


 私が拾った財布で間違い無いだろう。ただ、身分を確認しないといけない。


「もしかして、こちらの財布ですか?」

「あ、そうです」


 曇っていた彼女の顔が華やいだ。


「拾得物の返却には身分の確認が必要ですので、お名前お伺いしてもよろしいですか?」

「はい、黒崎鞠です」

「わかりました、財布の身分証確認させていただきますね」

「はい」


 黒崎鞠……あれ? 聞き覚えが……?


「あ……」


 私は運転免許証の顔写真を見て、目の前の彼女と見比べる。


「えーと……」

「鞠……」

「……あ、夏子」


 女性は以前、同じ職場で働いていた同僚だった。


***


 大学を卒業して、初めて入ったのが保険会社だった。そこで私は営業として働くことになった。


「良いか、契約はじゃんじゃんとってこい! 結果を出したやつにはそれに見合った給料を出してやる!」


 朝礼では必ず、部長が皆の前に出て、檄を飛ばす。

 そして、ホワイトボードには各自の成績が張り出されていた。


「……」


 噂によると、成績優秀な営業マンはボーナスを百万貰ったらしい。また、高級車を買ったという噂を聞く。

 実力主義の会社。

 結果さえ出せば、給料は上がっていく。反対に成果を出せないものは、居場所を無くしていく。


「おまえら、契約を全然取れてないぞ! 会社はおまえらを養う為にあるわけじゃ無い! 成果を出せなければクビだ!」


 部長が成績の悪い者を呼び出して叱りつけていた。

 デスクを叩く音が響く度に、怒られている人達は肩を震わせていた。


「……」


 私も結果を出さないと。

 私は準備をして、会社を出た。

 午前中は既存のお客様のヒヤリング。午後からはアポイントを取った会社を訪問する。

 夕方には会社に戻って、契約書などの書類仕事を行う。

 仕事を始めて半年経って、ようやく仕事に慣れてきた。それでも、スムーズにとはいかないけど。


「ん……」


 ようやく仕事が終わったのは二十時を回ってからだ。

 残業を二時間をしてしまった。

 デスクの照明を消して、会社を出ようとすると、他にも残業をしている人がチラホラといる。

 そのうちの一人に目が止まった。

 ショートボブと端正な顔立ちの女性。

 黒崎鞠。私の同期でライバルでもある。向こうは意識してるかわからないけど。


「お先に失礼します」

「お疲れ様です」


 鞠と事務的な挨拶をして、彼女の横を通り過ぎる。

 同僚であっても、特に仲が良いわけではなかった。


「ん……」


 背筋を伸ばすと、バキバキと音がした。

 若い女性が出していい音じゃない。それだけ疲れてるってことか。


「よし」


 今日は疲れを取る為に、甘いものを買って早く寝よう。また、明日も仕事だしね。

 私は甘いものを買いに、コンビニに立ち寄るのであった。

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