1話
私、三島夏子は田舎の方にあるショッピングモールで施設警備をしている。
この仕事を選んだのは単純に楽そうだからという理由だった。蓋を開けてみれば、楽な日もあれば忙しい日もある。
「平和……」
そして、今日は楽な日だった。
平日の夕方で、人もほとんどいない。遊ぶとしても選ぶのは街の中心にあるショッピングモールだ。そっちの方が、色々なテナントが入っているし、若者には人気である。
うちに来るのは年寄りか、そうとうの暇人である。
椅子の背もたれにもたれ掛かりながら、眠気と戦い、カメラ映像を確認する。
うーん、口が寂しい。
私はポケットから棒付きキャンディを取り出した。袋を破り、口に咥える。
「三島さん、仕事中ですよ」
私に注意したのは、同期の宮下くんだった。
眼鏡を掛けた真面目な男。
「宮下くんは真面目だね。もしかして、欲しい?」
「いりませんよ」
宮下くんはブラックの缶コーヒーを一口飲む。甘く無いコーヒーなんて何が美味しいの?
疑問に思っていると、防災センターの固定電話がなった。
「はい、防災センター警備の三島です」
『お疲れ様です、三階のーー』
電話の相手はテナントスタッフ。
三階には広場があり、そこで女子高生が騒いでいるとのことだった。
「……はぁ」
ため息を吐き、飴を噛み砕いた。帽子を被り、無線を装備する。
「不審者対応行ってきます」
「了解です」
防災に残る宮下くんに声を掛けて、現場に向かう。
三階の広場には植木とベンチが設置されていて、お客さんが休めるスペースだ。
現場に到着すると、ダンスをしている女子高生三人組を発見した。
また、こいつらか。
不審者リストに載っている三人。茶髪二人に黒髪が一人。スカートは短く、バッグには大量のアクセサリーを付けている。そして、広場で度々騒ぐ等の迷惑行為を行っている。
私は無線で防災に連絡入れた。
「警備三島より、防災へ。該当の女子高生発見しました。ダンスを踊ってるため、声掛けします」
『了解です』
私は女子高生達に近づく。
女子高生達はダンスに夢中で、私に気づいた様子がない。それとも気づいて無視しているのか。
私が正面に立つと、ダンスをやめた。
「なんか、文句ありますか?」
「文句? 文句しかないよ。この前も言ったけど、ここはダンス禁止です」
「言われたっけ?」
「覚えてなーい、私バカだし!」
「それな」
女子高生達は顔を見合わせながらゲラゲラと笑っていた。ストレスが溜まってくるが、キレたらダメだ。
スマートに対応しよう。
「それに、私達プロ目指してるんで」
「そうそう、将来プロになったら、ここは聖地になるかも。お客さんたくさんきて、お店的にもラッキーみたいな」
「……プロを目指すのは良いとしても、ここはダンス禁止。それでもやるなら、警察呼ぶよ」
「……はーい、わかりました……」
女子高生達は顔をしからめながら、バッグを持ち、広場から出ていく。
「はぁ……」
不審者対応は面倒だ。でも、話が通じるだけマシな方だ。
私は防災へ無線を送る。
「警備三島より、防災へ。先ほどの女子高生、声掛け完了し、広場から移動しました。念の為、広場で少し待機します」
『了解です』
私は広場の隅で立哨し、警戒を始める。
できれば、戻ってこないことを祈って。
***
「お疲れ様でした」
仕事が終わり、会社を出る。外はすでに暗くなっていた。
帰宅の途中、コンビニに立ち寄る。
「いらっしゃいませ」
やる気のない男性店員の声。
私はカゴを手に取ると、いつもの甘いカフェオレを入れた。次にデザートコーナーに足を進める。
「うーん……」
プリンにするか、エクレアにするか、それとも……どら焼きに。いっそ、お高めのチョコレートなんかも。
デザート三つまで。
それが私が決めたルールだ。
それ以上食べると、高カロリーだし、身体に悪い。
「……よし」
悩んだ末、プリンアラモード、エクレア、ドーナツの三つを選んだ。
安月給の私に取って、金は掛かるが、数少ない楽しみだ。
会計を済ませて、家に帰る。
私が住んでいるのは古びたアパートの一室だった。
「ただいま」
当然、声を掛けても返ってくることはない。けど、毎回言ってしまうのは、癖になっているからだ。
シャワーを浴びて、服を着る。とは言っても、下着の上から大きめのTシャツを着るだけだ。Tシャツには大きなプリンのイラストが載っている。
冷蔵庫から豚汁と白米を取り出して、レンジで温める。その間に、お菓子箱から棒付きキャンディを取り出して、口に咥えた。
「……」
スマホを操作して、アニメをつける。
そうしていると、豚汁の温めが終わり、白米を温める。
「うん、良い匂い」
白米の温めを終わり、私は夕食を食べ始める。
スマホを立てかけて、アニメを観る。
夕食を食べ終え、私はコンビニで買ったデザートとカフェオレをテーブルに並べた。
「ふふ」
甘い物を前に笑みが溢れた。
デザートの蓋を開けると、甘い匂いが広がる。
口の中に涎が溢れる。
私はプラスチックのスプーンを袋から開けて、生クリームを掬った。そして、口の中へ運ぶ。
「ん、美味い……!」
口の中に甘さが広がる。
頬が緩む。
甘いカフェオレを飲む。普通なら甘いデザートと甘くないカフェオレだろう。けど、私は甘いデザートに甘いカフェオレなのだ。
幸せ……!
デザートとカフェオレを終えて、私はソファーに寝転がった。
「ふぅ……」
天井を見上げる。
甘い物を食べたら、瞼が重くなってきた。
「寝よう……」
私は目を閉じると、あっという間に夢の世界へ旅立った。