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聖剣?(1)

彼女はセナ・クラインと名乗った。

栗色のウェーブがかった髪、穏やかな微笑が似合って、学生とは思えないほどにスタイルが良い。大人の女性といった容姿だ。

たださっきのクラッカーや窓から飛び降りようとしていたところをみると、見た目以上に可愛らしい人なのだろうというのが第一印象だった。


私達はセナに連れられて食堂に案内された。外から見た時に大体察していたが「勇者寮」という名前の割には中は拍子抜けするほど普通の寮だった。


大きなテーブルに何枚か書類が積まれている、私たちの対面にセナが腰を下ろした。


「最初にいろいろ処理しないといけない手続きがあって、施設の案内はその後にするね」


何枚かの書類が手渡された、支給契約書、機密保持契約書、入寮申請書、――そして退学届。


「え…私退学するんですか?」

「そうだよ、ここにいる間は学園に通えないからね。フランちゃんは勇者候補生っていう職につく事になるよ」


さりげないフランちゃん呼びも気になるが、それ以上に退学が予想外だ。

入学するにも制服を買うにも安くないお金をかけている。

勇者になるために入学したのだから断るという選択肢はないのだが、さすがにもったいなく感じる。

釈然としない気持ちで一番上の書類、機密保持契約書にサインしようとして。

ガレウスに腕を抑えられた。

「もう少し頭を使って生きろ、結構めんどくさいこと書いてあるぞ」

「どんなことが書いてあってもサインしますよ」

「普通の仕事じゃないから、ちゃんと読んだほうが良いよ」

セナは契約書の一文を読み上げた。

――業務上で知ったいかなる情報も部外者に漏らすことを禁止する、情報には勇者の名前も含まれる――


特に変なところは無いと思います、私の言葉にセナは笑った。

「基本的に勇者の名前を寮の外で呼んじゃだめ、勇者の情報は全部機密扱いだから」

「…名前もですか?」

「えっとね…。討伐が成功したときに公開されるの、名前、顔、年齢とか」

そこまでは知ってる。

だが次の言葉で思考が止まった。

「でも公開される情報には一つだけ嘘の情報が含まれてるの」


「『勇者はレベル4だった』っていう嘘」


一瞬意味が分からなかった。


勇者は全員レベル4のはずだ。

歴代の勇者は皆そうだった。

でなければ魔王に勝てるわけがない。


――歴史が全部嘘だったとしたら。

肌が粟立った。


「レベル0と4の違いなんて一目見れば誰でもわかっちゃうから」

「勇者になると変装と偽名が必須になるんだよ」

遠くで声が聞こえる。


「…じゃあ本当のレベルはいくつなんですか?」

「0だよ、フランちゃんと同じね」


セナは世間話を話すように信じがたい事を言った。


遺書にあった指示は勇者候補に選ばれるための条件で、選ばれた後にレベルを上げるのだと思っていた。


だがきっと違うのだ。

全ての勇者はレベル0だった、今も昔も、きっと父も同じだ。


レベル0というのは一般人と同じだ。どれだけ剣と魔法に優れていても魔王には傷一つ付けられない。先週の決闘で思い知らされた。


【どうして】

【どうやって】


私が成ろうとしているものは何なのだろうか。


私の混乱を悟ったのだろうか、黙っていたガレウスが口を開いた。


「ちなみにセナも勇者だ、分からないことはそいつに聞け」

「ガレウスさん!サインがまだなのでそれは教えちゃだめですよ」


セナは慌ててそういうと、申し訳なさそうに目を伏せた。

「内緒にしててごめんね、でも隠すことも私の義務なの」


綺麗な顔だった。ガレウスのような獣相がない。

彼女は本当にレベルを持っていないのだ。


「…いえ、別に謝るようなことじゃないです。手続きが終われば詳しい説明をしてもらえるんですよね」

「もちろんだよ。施設紹介の時に一緒に説明するつもりだったの」


深呼吸だ。国が隠し事をするのはいつものことだ。

むしろ今まで頑なに情報が隠されていた理由の一端がわかってスッキリした。


ざらりとした契約書の表面を撫で、一息に名前を書き上げる。


「じゃあ次は施設案内、フランちゃんが一番知りたいとことから教えるね」


勇者が楽しそうに声を上げた。


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