勇者寮にようこそ(1)
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私闘の後、気を失ったレオンは教員によって保健室に運ばれ、私は職員室で説教を受けた。担架に乗せられたレオンを生徒が見ていたのだろう、噂は瞬く間に学校中に広がった。
朝の八時、本来なら学校に向かっているはずの時間。
私は学生寮の前に突っ立っていた。スーツケースをもって。
(やっぱ退学みたいだよ)
(危ないから目合わせちゃだめだって)
足早に追い越していく数多の生徒たちからひそひそ声が聞こえて、顔を下に向ける。
普段ならば睨みつけるくらいのことをしただろうが、今はそれすら億劫だった。
10日間の停学期間は地獄だった、もともと仲が良くなかったルームメイトは近づくと兎のように逃げたし、食事をとるために食堂に降りれば私のためにテーブルが1つ空いた。
だが孤独は、体にのしかかる鬱屈とした感情の小さな理由でしかなかった。
あの後、寝て起きた私はどうして自分が怒っていたのか理解できなくなっていた。
事の発端は覚えている、私がレベルを上げていないことを知ったレオンが突っかかってきたのだ。
戦う覚悟ができていないならやめちまえ、と。
私はかっとなって、あとは売り言葉に買い言葉だった。
何度も言われたことがある言葉なのに、どうしてあんなに腹が立ったのだろうか。
記憶の中の私が理解できない。遠くから見ているみたいで、自分の行動なのにやりすぎだろうと思うほどだ。
ふと周囲が静かになったことに気づいた。周りから生徒がいなくなったのではない、みんな息をひそめている。
不思議に思って顔をあげると目が合った。
美しい白い毛並み、人狼の獣相。変異が全身に及んでいるところを見るとかなり高位の冒険者だろう。
彼は寮へと近づいていた、周りの生徒が怯えて距離を取るが本人は一切気にする様子を見せない。
私はというと、目が離せないでいた。
神話に出るような荘厳さがあった。
同時に、視線をそらせばその瞬間に喉笛に食らいつかれるだろうという、確信に近い獣への恐怖を感じていた。
彼は私の目の前で止まった。
「関係ないやつは失せろ」
鉛の風が吹いたと錯覚した。
恐怖に胸がつぶれる、呼吸が止まる。
魔術ですらない、瘴気と魔力を練り合わせて無差別に散らしただけ。
だがそれで充分だった。
少し間を置いて、ひとり、また一人とよろめいたり、もつれたりしながら逃げて。
もう私しか残っていなかった。
「逃げてくれた方が楽だったんだが」
彼はふっと息をはいた。
さっきまでの圧は嘘のように霧散し、そうすると、ただただガラの悪い冒険者に見えた。
「…やりすぎだと思います」
「絶対トラウマになった子がいます」
私の非難に、彼は耳を倒し緩く笑った。
「そいつは冒険者に向いてなかったんだ」
「若いうちに気づけてよかった」
無神経な言い方だった、だがどこか芝居がかっている。その感じに覚えがあった。
少し考えて、レオンと同じだと思った。
「必要なことでもあった、ここにあるという事は知っててもいいがお前が入居するのを知られるのはまずい」
彼はそういうと私のスーツケースを持ちあげた。
「ガレウスだ、昔は勇者パーティーにいた」
「そして先週からお前の教育係を押し付けられた」
「…先週からって」
思わず聞き返す。
ガレウスは肩をすくめた。
「気の毒な少年だった」
どうやらあの私闘は録画されていたらしい。
「フランです、フラン・ヴァルディス。これからよろしくお願いします」
おう、と。短く背中で返事をした彼は、もうすでに歩き出していた。
置いて行かれないように駆け足で近寄る。
「勇者寮まで30分かかる、会話は歩きながらでいいだろ」




