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プロローグ

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力任せに振るわれた木刀が大きく唸り、フランが構えた一振りに食らいついた。

爆発音が訓練場を震わす。

余韻が高く響く中、力の大きく劣る彼女だけが毬のように吹き飛ばされた。

地を転がる体が床を滑り壁に叩き付けられ、擦り傷と痣が白い肌に広がる。

もう10分ほど、このやり取りが繰り返されていた。


息を荒げ立ち上がる彼女の体に傷の無い所はなく、足を引きずる姿には見るにえない痛々しさがあった。

しかし顔をあげれば、美しい青の瞳に誰をもたじろがせる深い怒りをたたえている。


「おいクソ女、そろそろ降参しろ」


「俺が手ぇ抜いてるの気づいてるだろ。直に当たったら死ぬぞ」


木刀を肩に担いで、レオンは苛立った声を投げた。

外傷はないが長い間木刀を振り回したために疲労が浮かんでいる。


「私は知ってるの。あなたが言っていた覚悟じゃ、女一人殺せないって」

正中に構え直す彼女に、レオンは顔をしかめた。

「死ぬまで意地を張るつもりかよ…」

からん、と軽い音が響く。


レオンが木刀を捨てたのだ。


「降参じゃねぇぞ、ルールを変えようって話だ」


「確かに俺はお前がむかついたから喧嘩を売った、けどな、教師も他の生徒もお前の信念が間違ってると思ってる」


「俺は1分間動かない、その間に膝をつかせたら土下座でもなんでもしてやるよ」

「そんで」

「失敗したら退学しろ、いくらお嬢様の頭がお花畑でも現実がわかるだろ」


返事は無かった。


代わりに鉄を打つような硬質な音が鳴る。

提案の終わりを待たずに踏み出したフランが無防備な腹を打ったのだ。

続けざまに木刀が振るわれる。


袈裟、横一文字、唐竹割り。

流れるように剣筋が変わる、洗練された足運びは彼女が遊び半分で入学したわけではないことを示していた。


だがレオンはそれを白けた目で見ていた。

滑るような美しい突きが喉で静止する、寸止めではない、肌の一点だけが黒い鱗に変質し切っ先を受け止めていた。


「あと30秒だ」

「そろそろわかっただろ、根性じゃ埋められねぇ差があるって。瘴気を受け入れる覚悟がなければスタートラインにも立てない」


フランは大きく息を吸った。腹の底の灼熱に風を送るように深く。


「…あなたにとってはレベルを上げることが覚悟の証明なのね」

「ダンジョンで育ったそうじゃない、だから生きるためにレベルを上げないといけなかった」

「なのに自分で選んだみたいに、偉そうに説教して...あなたの事嫌いよ」

フランは大げさなほど上段に振り被る。背中に木刀が隠れるほどに大きな構え。


「というか…この学校のやつらみんな嫌いだわ」


振り下ろされる。


それと同時にレオンは額の一部を鱗に変質させた。

瘴気によって強化された視力は、筋肉の動きを見るだけで剣の軌道を予測できた。

だからこそ、彼は気付くのが遅れた。


フランが木刀を手放したことに。


異常に深い踏み込み、頭頂部への打撃を狙っていた。

刹那の判断を下し、衝撃に耐えるために額から首へ瘴気を移動させる。


拳が脳天に振り下ろされてから一瞬の静寂があった。


不意に、レオンが前のめりに膝をつく。

彼の足元には青白い光を放つ魔法陣が広がっていた。

そこから太い氷柱が股間へと伸びている。


泡を吹いてレオンは意識を失った。




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「と、まぁ。これが先日あった事件の記録じゃ」

意識を失ったレオンの股間をフランが蹴りつける寸前で映像は切られた。

理事長室に微妙な空気が流れる。


ガレウスが胡乱げな目線をソファに投げると、人懐っこく細められた瞳と目が合った。柔らかく艶のある銀髪から狐耳をぴんと立てた少女。

アリア・ランフォード、見かけこそ幼いがこの学園の理事長だ。


「この映像は俺が呼び出された理由と関係あるのか」


「うむ、まずは彼女の人となりについて知ってもらいたくての」


「なんでそんなものをーー」

知らないといけないんだ。言いかけてガレウスは口をつぐんだ。


いつだったか酒の席で、アリアから言われたことがあった。

指導者に向いている、と。

その時は酔っ払いの冗談だとばかり思っていたが。


「お主に勇者育成の任を与える、1週間で準備を終え職員寮に越して来るように」

「正気じゃない…」

ガレウスは反対しようとした。

だが言うべき事が余りに多すぎた。

言葉が口の中で絡まり、できたことは恨み言をひとつこぼすことだけだった。


ガレウスの反応など気にも留めず、アリアは話をつづけた。

「統制院の許可は得ておる。心配はいらん。寮の説明は後で事務から受けよ。当然じゃが給料は出るぞ」

「勝手に話を進めるな、俺はまだ依頼を受けていない」

決定したことのように語る彼女にガレウスはかみついたが、内心で無駄な抵抗だと諦めていた。


だからこそ、幼稚な文句でアリアが口を閉じたことに驚いた。

幼い顔にわずかな陰りが浮かんでいる。


「お主は絶対に断らない、いいことを教えてやろう」


「彼女はーー」


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