第参話 「罪」と夜が始まった日
四時五五分になり、食堂へ行こうと思いドアをあけて、坂木は絶望した。道がわからない。西本司令官についてきてここまで来たのはいいものの、エレベーターホールへの行き方がわからない。
とことこ歩いてみたが無理そうだ。永遠に部屋が続いているみたいで、どこに行っても同じ景色。
その時、坂木の前の角から一人の男が出てきて、前へ進んでいった、身長は同じくらいだが、少しがたいがいい、そんなことより、彼についていけば行けるかもしれない。そう思い、後をついていった、しかし彼の足は速く、最後は彼が進んだであろう方向へ進んだ。すると、エレベーターホールがあるではないか。
しかし彼はもういなかった、おそらく、別のエレベーターで先に行ったのだろう。
エレベーターに乗り、二三階の食堂へ向かった。エレベーターを降りると目の前にホテルのロビーのような空間があり、奥にガラス張りのドアがあった。中に入ると、かなりの人数の隊員が、広い食堂の席に座っていた。みんな静かに、上司らしき人の話を聞いていたので、ドアの音で、全員の視線を集めてしまった。
「ちょうどいい。君が坂木君だな。みんな聞いてくれ、彼が今日からみんなの仲間になる坂木博人君だ。まだ分からないことも多いと思うから、みんなで助けてやってくれ。坂木君、あの右の奥のほうにある空いた席に座ってくれ」
そう言われ、そっちのほうへ向かうと、こっちだよと言わんばかりの金のメガネ男がいたのでその隣に座った。いただきます、を大人数で言うのは久しぶりだが、悪くはなかった。
食事は、目の前に白米が置いてあって、机の真ん中においてあるおかずを勝手にとって食べる形であった。一口食べてみると、いつも食べている弁当とは比べ物にならないほど美味しかった。こんなおいしいものが世の中にはあるのだと感動してしまった。
「ここの飯おいしいでしょ、有機栽培で作られたやつを自家製の味付けで調理してあるんだって」
先程の金のメガネ男が話してきた。
「あ、そうなんですね。だからおいしいのか」
「君、名前なんだっけ」
「坂木博人です」
「博人君か、よろしくね。僕は宮下亮。君と同じくまだ新人、二週間ほど前からここにいるんだよ。レーザーガン第一式戦車の操縦者としてね」
「すごいですね、普通の戦車と何か違うんですか?」
「そりゃあ、撃つものが違うよ、弾丸じゃなくて、強力なレーザーを打つんだから弾丸じゃ撃てないものを撃つことができる。まあ弾丸で効かないものなんて今時ないけどね」
そんな話をしているうちに白米がなくなり、宮下亮と共に、お代わりに行った。前のほうに白米と味噌汁とお茶の入ったタンクがあり、そこから、自分でよそったり汲んだりするらしい。
食事を食べ終え、残りは自由時間なので、一度部屋に戻って風呂に入ることにした。奇遇なことに、彼は自分の向かい側の部屋を使っていたので、一緒に部屋に戻った。今度は暗記しながら戻ったので、次からは大丈夫だ。
大浴場は数百人が入るだけあって、かなり広かった。お湯の温かさも申し分ない。
部屋に戻り、スマホで優斗にここの施設の写真を送った。すぐに既読マークがつき、羨ましそうなスタンプを送ってきた。明日も早いので、もう寝ることにした。
慣れないベッドのせいか、夜中に目が覚めてしまった。何時か見るためにスマホを開くと午前二時。中途半端な時間に起きてしまった。これでは、明日、、、いや、今日は一日中眠い状態になってしまう。
その時、ドアの向こう側から物音がした。おそらく、周りの住人がトイレにでも行ってるのであろう。すると、物音の中に声が混じってるのに気づいた。誰かが廊下でしゃべっている。しかもだんだん声が離れていく、エレベーターホールに向かっているようだ。よくわからないまま寝落ちした。
翌日、悲鳴が聞こえ目が覚めた。なんだと思い部屋から飛び出すと、ほかの隊員たちも部屋から顔をのぞかせていた。みんなが歩いていくほうに向かうと、曲がり角で人が飛び出してきた。何かに驚き、尻もちをついている。なんだと思い見てみると、自分の目を疑うものが倒れこんでいた。
「おい、宮下。宮下!」
そばにいた人が叫んでいた。
そう、宮下が血を流して倒れていたのだ。もう脈がなかった。遅かった。そばには片方のレンズが外れ、フレームのつぶれた、金色のメガネが落ちていた。最後までつけていたのだろう。
その後、警察が来て捜査が行われた。死因は刺殺。背中に、長さ15センチ以上の刃物を刺した痕がある。犯人は一撃で背中から刃物を突き刺し心臓を切り裂いた。なんていう悲惨な事件なんだろう。昨日最後に会話しているところを目撃された自分は重要参考人ということで事情聴取が行われた。
とはいっても、昨日入隊した自分はそれ以外の接点がないため、十分ほどで終わり、食堂へ向かった。
昨日、自分を紹介した隊長らしき人が、この事件のことを皆に説明をしたあと、もう一つ、今朝判明したことがあると言った。
「地下三階にしまってある、レーザーガン第一式戦車が五台すべてなくなっていた。しかし、出口付近の防犯カメラに怪しい点は見られず、基地内のどこにもないのだ。何か昨日の夜中に怪しい音などを聞いたものは、すぐに報告するように」
かなり切羽詰まった声であった。一台二億ドルする超高級なものを五台一度に失ってしまったのだから無理はないだろう。
朝食はあまり味わえず、今日は残りの基地を案内してもらう予定だったので、西本さんのところへ向かった。西本さんに会うと、この後会議があるから代わりに彼に案内してもらいます、と言われ、中年の男性が出てきた。
「坂木君だったよね?水野です。昨日は倉庫まで案内してもらってると思うんだけど、今日はそれぞれの部隊の訓練の様子を見てもらうね。まず、基本的に日本のSFEでは第一機隊、二機隊、とわかれていて、うちの八王子基地では、陸上隊が十機隊と空機隊が三機隊まであります。空機隊や海機隊への編入は可能ですが、まずは陸上兵から始めてもらいます。それぞれの部隊には大した差はないんですが、一機隊と二機隊だけは、ほかの隊のエリートが集まっているので、三機隊から見ていきましょう」
「わかりました」
「あ!、ごめんね。全部の機隊の紹介が書いてあるパンフレットがあったんだけど、指令室に置いてきちゃったようで。一旦地上二階まで戻ろうか」
言われるがままエレベーターに向かい、地上二階のボタンを押した。今いる地下十三階の教官室の階から地上二階まで、二十秒ほどかかるのだが、なぜか、十秒ほどで止まった。しかも電気と共に。
ブレーカーが落ちたのだろうか、非常用の照明しかついていない。その時、アナウンスが入った。
「全隊員に連絡します。今すぐ戦闘服を着用のもと、銃を携帯し、地上に向かってください。これは訓練ではありません。侵入者がいます。おい、貸せ!、みんな逃げろ!怪物が基地へ入ってる!早くにげろー!ああ、ここも見つかった!あああああ」
いったい何が起こっているんだ。上の画面を見てみると、今は地下七階らしい。
「とりあえずドアを開けてみよう」
そう水野さんが言い、非常用ドアコックを使ってドアを開けようとした。少し空いた隙間から水野さんが両手を入れ、人が入れるか入れないかぐらいまで開けたとき、急に彼が叫んだ。そして後ろにあとずさりした。エレベーターの地面に何か垂れた。水じゃない。赤い。彼の腹には何か鋭利なものが刺さっていて、それがエレベーターの外につながっている、外は暗くてよく見えない。
水野さんは。いや、水野さんであった抜け殻はそのまま倒れた。そして勢いよく開いたエレベーターの奥には、全長二メートルほどの怪物がいた。
あ。
死ぬ。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。