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第壱話 まだ明るい日

この地球は汚れている。醜い争いや、環境汚染。自分たちのことしか考えていない。

だから奇麗にする必要がある。汚いものは消して。

それが地球のためであり、我々のためでもある。

 

 「なあ、なんでこんなに海が荒れてるんだ?」


 「どうしてでしょうか、いつもはこんなに荒れてないのに。あ。あと十分で訓練始まりますよ」


 「あぁ。そうだな。。。ん?」


 「どうしました?」


 「おい、あれ見ろよ」


 「なんだこれ、怪物みた、、、」


 二〇二四年十一月十日午前八時二七分、オーストラリア合同訓練中であった海上自衛隊、もがみ型護衛艦「のしろ」がフィリピンのマニラから東に九五〇キロメートルほど離れた、フィリピン海で転覆する事故があった。周囲に別の船がいたため、怪我人は九人、死者は出なかったそうだ。


 乗組員の証言によると、十分ほど前から周囲の海が荒れだし、本土へ連絡をしていたところ、突然、船艇が持ち上げられるような高い波に襲われ、その勢いで、転覆してしまった。


 その後、別の船で怪我の処置をしている時、乗組員数名が「何かばかでかい怪獣がいた」と言っていたが、周囲にクジラなどおらず、突然海が荒れだした理由は未だに分かっていない。


 この事故に対して、海上保安庁はS,F,E,と合同で護衛艦転覆事故対策本部を設置し、周囲の国々にフィリピン海の警備と、情報提供を要請した。この事件は日本だけでなく、世界のマスメディアを驚かせていたが、二日もすると、まるで何事もなかったかのように忘れられていった。



 十一月十一日、東京都渋谷区代々木にある印刷会社「インプレンタ」に坂木博人(さかぎ ひろと)は働いている。時刻は午後一時三五分を過ぎ、昼休みが終ろうとしていたところ、坂木のデスクに営業本部長がやってきた。


 「おい、坂木。明日のプレゼンのパワポと台本。今日の四時までに作っといてくれ。資料はこのUSBにあるから。」


 坂木は部長が去った後、USBを確認すると、一一二枚のドキュメントが入っていた。最悪だ。しかも残った時間は、たったの二時間半。いや。やるしかない。


 そう思い、坂木はパワポを開こうと、クーグルの検索エンジンをつけた。しかし、自分が打ち込んだ文字は、「転職」であった。意味が分からない。確かに上司のパワハラはひどいものだが、給料もそこそこある。そして何より、言われた仕事を坦々とこなしていればいいのだから、これほど楽なものはないだろう。何も考えなくていい。ただ、自分はもう検索していた。まあいい。どうせ自分が納得いく、給料と労働のある転職先なんかない。


 しばらくスクロールしていると、一つのサイトが目に留まった。「SFEより皆様へのご連絡」。中を覗くと、なんと月給六十万。しかも寮がついている(この時、なぜ社宅ではなく寮だったのかに気づけばよかった)。早速電話をかけた、なんの仕事かは分からないが、何か運命的なものを感じた。ここにはない、何かを。出たのは若い男の声であった。


 「はい。こちらはSFE。ご用件は何でしょう」


 「あの、ネットの案内を見た坂木というものなんですけど。入社希望です」


 「かしこまりました。早速明日こちらを紹介したいんですが、明日の予定は空いていらっしゃいますか?」


 「はい。大丈夫です」


 その後、住所や生年月日など諸々答え、明日、八王子にて合流することになった。この会社は現在人手不足で、人材を募集しているらしい。だから、もう入る前提で話を進めていく。と言われた。これはかなりうれしかった。SFEがなんの会社なのかは分からないが、そんなことはどうでもよかった。

 

 この時、坂木はとてつもないミスをした。なぜSFEが軍隊であることに気づかなかったのか。そうだ、SFEとは日本表記で、すべての人の盾。一九七二年に国連が作った、世界共通の軍隊である。これは戦争のためではなく、いわば、警察みたいなことをするのである。しかし、訓練は過酷で、戦車や銃などを扱うので、毎年訓練で十人ほど命を落としている。これを知らずに彼は「入隊」したのだ。

 

 その日はそのまま帰ることにした。帰り道のコンビニでUSBを捨て、缶ビールを買った。今の自分の家であるアパートに帰り、テレビをつけた。ちょうどニュースの時間だ。中年の男性アナウンサーが何か喋ってる。


 「昨日起きた、護衛艦転覆事故について、先ほど海上保安庁から発表がありました。内容は今回の事故の対応についてで、今後はSFEと合同で、対策本部を設置し、事故の原因解明に取り組ん、、、」


 この時、坂木はすべてを悟った、そしてUSBを捨てたことを後悔した。明日は休んで、八王子に行き、入隊を辞退しようと思い、そのまま何も食べずに寝た。


 翌日、目が覚め時計を見ると、針は午前十時を指していた。待ち合わせ時間は午後三時からだが、八王子までは遠いし、早く出かけることにした。本来、自分の最寄り駅は代々木なのだが、新宿と大して距離は変わらないし時間もあるので、節約のため歩きで新宿まで行った。駅の中にあるキオスクで朝ごはん?であるおにぎりとサンドウィッチを買い、中央線の高尾行を待っている間に、天気予報をスマホで確認した。


 「お、海上保安庁とSFEがなんかフィリピン海に派遣隊送ったらしいよ」


 「へー、なんか大変だね。自衛隊がビビりちらかしてるって言うなんだか分かんないやつに、その人たち行かされるんだもんね。てかさ、別にたまたまそこに日本の船があっただけで、日本からはかけ離れてるそんな場所に、日本の税金使ってほしくない」


 「それな」


 後ろに並んでた二人組の高校生がそう言ってた。確かにそうである。一体何を思って、日本のお偉いさん方はこれを決めたのだろう。


 中央線はグリーン車がある。しかも今は無料期間中。八王子まで乗り続ける自分からしたらかなり嬉しい。混んでなければ。そういえば自分はまだグリーン車に乗れてなかった。そう思いながらグリーン車の後ろ側のドアから中に入り、下の階段へ降りた。そこまで混んでおらず、すぐそばにあった席に座り、一応と思って持ってきた印鑑や書類が入ったリュックを隣の席においた。


 八王子は東京の西側にある都市だ。いや、都市とは呼べないだろう。なにしろあそこらへんは高尾山等の山がある地域だ。行けば残念に思うほどの田舎なのだろう。行ったことはないが。


 さっきグリーン車の中で思っていたことは訂正させていただこう。まったく田舎ではなかった。普通に都市だ。代々木も顔負けなんじゃないかっていうほど高いビルもある。そんなビル群を傍観しながら、目的地である、南口のロータリーに行き、言われた通りの場所に立っている眼鏡男に声をかけた。


 「すみません。昨日電話で伺った、坂木と申します」

 

 「あ、そうですか。わたくしは西本です。早速まいりましょう」

 

 「すみません。あの、ここまで来てなんですが昨日の件、なしということにさせてもらえませんか。ちょっと色々ありまして」


 「そうですか。まぁせっかく来たんですから、施設だけでも案内しますよ」


 「いえいえ、お仕事もあるでしょうから、私はこれで帰ります」

 

 「お気になさらず。一度来てくださいよ」


 結局、入隊もしないのに西本と名乗る眼鏡男に基地に連れていかれた。説明によると、SFEの基地は日本に二五〇箇所ほどあり、その中でもここ八王子にある八王子基地は規模的に大きいらしい。


 なるほど。これは大きい。外にはヘリや大砲を運ぶための路線が引いており、地下の輸送エレベーターにつながっていた。建物自体は四階建てで、二階までは事務所などがあるのだろうか。普通に見えるが、三階と四階は吹き抜けになっていて、二回の屋上にはヘリポートがあった。


 「この施設は地上四階、地下二七階で構成されています。ここが入口です」

 

 地下二七階は法律的に大丈夫なのだろうか、というか何があったら地下二七階も必要になるのだろうか。中には広いロビーがあった。右手奥にはエレベーターホールがあり、西本に案内されエレベータに乗った。本当にボタンが三一個あり驚いた。

 

 「二階は指令室や来賓の方々の部屋があります。まあ。少しゆっくりしていってください」


 彼はそう言い、エレベーターのドアを閉じた。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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