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届かなかったもの

作者: 口羽龍

 小枝子さえこは岩手県の海沿いを歩いていた。小枝子は海を見るのが好きで、よく見ている。今日も海はいい景色だ。その先にはアメリカ大陸があるんだと思うと、気持ちが高ぶってくる。


「はぁ・・・」


 小枝子はため息をついた。今日は日曜日だ。昨日まで仕事で、とても疲れたけど、今日はしっかりと休んで、明日からの仕事に備えよう。


 小枝子は消波ブロックを見た。すると、段ボール箱を見つけた。何の段ボール箱だろう。宅急便の伝票っぽいものがある。宅急便が落としたものだろうか?


「あれっ!?」


 小枝子はそれをよく見た。やはり宅急便だ。小枝子は消波ブロックの上を歩いて、それを取りに行った。段ボール箱を手に取ったが、その中身は何もない。荷物はどこに行ったんだろう。海にさらわれたんだろうか?


「これは何だろう」


 と、そこに老人がやって来た。老人は散歩をしているようだ。


「すいません、こんなの見つけたんですけど」


 小枝子はその老人の元にやって来た。小枝子はその荷物を老人に見せた。だが、老人は首をかしげた。わからないようだ。


「のちに調べるから」


 その荷物は老人が調べる事になった。いったい誰が誰に向けた物だろう。


「ありがとうございます」


 小枝子は海沿いの道を後にした。小枝子は気になっていた。あの荷物は一体何だろう。全く見当がつかない。


「うーん・・・」


 小枝子は考え込んでしまった。こんなに考え込んだのは、初めてだ。




 後日、小枝子はこの近くにあるアパートにいた。このアパートは東日本大震災の後に建てられたもので、新しい外観で清潔感がある。大学を卒業して、ここにやって来た。最初は慣れない事ばかりだったが、徐々に慣れてきて、やっと一人前と言われるほどになった。


 突然、電話が鳴った。この時間に電話なんて、おかしいな。誰からだろう。小枝子は受話器を取った。


「もしもし」

「小枝子さんですか?」


 知らない女性の声だ。どうして小枝子という名前を知っているんだろうか?


「はい」

「あの段ボール箱の事、わかりました。宅急便のものらしいです」


 やはり宅急便の荷物だったようだ。それにしても、誰のものだろう。全く見当がつかないな。


「そうなんですか。でも、どうして・・・」

「14年も見つからなかったんですよ」


 14年前と聞いて、小枝子は驚いた。どうして今になって見つかったんだろう。まさか、14年間も漂流していたんだろうか? 14年前は東日本大震災が起きた年だ。まさか、東日本大震災で津波に流されて、今になって見つかったんだろうか?


「えっ!?」

「晴子さんって人が、両親に送ったものなんですけど、その日に東日本大震災が起こって、津波で宅急便ごと流されたんですって。で、晴子さんの両親は津波にさらわれたんだって」


 やはりそうだったのか。まさか14年間も海をさまよっていたなんて。それとも、誰もその存在に気付かなかったんだろうか?


「そうだったんだ・・・」


 小枝子は海を見た。東日本大震災では、大津波が襲い掛かってきたと聞く。それによって、多くの人々が津波に飲まれて、亡くなったという。そう思うと、海は美しいけれど、時として牙をむくんだと実感する。そして、地震って怖いなと感じる。私はその怖さを幼少期から知っている。阪神・淡路大震災の事も、東日本大震災の事も。




 それからまた後日の事だ。小枝子は休みの日、家でゴロゴロしていた。たまにはそんな日もいい。仕事の疲れをしっかりと取って、来週からの仕事に備えよう。


 突然、インターホンが鳴った。誰が来たんだろう。この時間に来るのは珍しい。


「はい・・・」


 小枝子は扉を開けた。そこには小枝子より年上っぽい女がいる。この女は誰だろう。小枝子はそんな女に会った事がなかった。どうしてここを訪れたんだろう。


「あのー、わたくし、先日のお届け物を出した、晴子です。会いたいんですけど、いいですか?」

「はい」


 小枝子は驚いた。あの贈り物の送り主だ。まさかここまで来るとは。でも、何をしに来たんだろう。直接お礼を言いに来たんだろうか?


「あっ、どうも。先日は、ありがとうございます」

「いえいえ」


 晴子はお辞儀をした。見つけただけで、ここまでお礼を言いに来るとは。相当大切なプレゼントが入っていたのだろう。それとも、それに対する大きな思い出があるんだろうか?


「あのお届け物、父さんの誕生日祝いだったんですよ。だけど、この日に東日本大震災が起きて・・・」


 そうだったのか。まさか、父の誕生日に東日本大震災が起こるとは。なんという偶然だろうか? なんという悲劇だろうか?


「私、あの時東京にいたんだけど、なかなか帰れなくて大変だったわ」


 小枝子は覚えている。あの時は大学生で、東京にいた。友人の家に遊びに行っていたが、そこで東日本大震災が発生した。交通機関はストップして、なかなか帰れなかった。本当に帰れるのか不安になった。何とか帰れた時には、本当に喜んだという。そして、東日本大震災のニュースを見て、衝撃を受けた。がれきの山になった街、押し寄せてくる大津波、とても現実とは思えなかった。


「私、あれで両親を失った。そして、実家を失ってしまった」


 晴子は泣きそうになった。あの日の事を思い出すと、今でも泣いてしまう。あの日、大津波で実家も、家族も失ってしまった。帰る故郷をなくしたのだ。それでも、自分は生きなければならない。だけど、どうすればいいんだろう。明るい未来が見えなくなった。


「そうだったんだ。やっと見つかってよかったね」

「でも、届かなかった・・・」


 晴子は無念でしょうがない様子だ。届く予定だったあの日、東日本大震災が起きて、そのプレゼントは届かなかった。そして、家族みんな死んでしまった。どうしてこんな事になるんだろう。どうか、家族を返してください。晴子がどんなに祈っても、家族は帰ってこない。これから自分は、どうすればいいんだろう。だが、私は進まなければならない。そして、家族が生きられなかった分も生きていかなければならない。


 小枝子はその話を、じっと聞いていた。こんなつらい事があったんだ。東日本大震災から14年が経った。だけど、その日を絶対に忘れてはならない。

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