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第6話

聞く者の大多数が止めてほしいと思うようなことを口にする王太子トライセラ。その虚ろな目には目の前のコアトルすら見ていない。もちろん、多くの貴族はおろか近づいてくる兄マグーマのことも同様に。



「馬鹿なことを言ってるのはお前だろ。第一王子である俺が王太子になる方がしっくり来るんだよ」


「ティレックス伯爵! 何を申される! 貴方はすでに勝手に婚約破棄したり王宮を抜けて他国に逃亡したりと不祥事を起こした身で王家から除籍された身ではありませんか! 今度はトライセラ殿下を唆して何をなさるおつもりですか!」


「唆すなどと人聞き悪いこと言うんじゃねえ! 俺は失ったものを取り戻すだけだ! ついでに弟を仕事三昧の日々から助けてやろうってんだ。美しい兄弟愛に水を指すんじゃねえ」


「『ついで』と言ってる時点で兄弟愛などとは言えません! そもそも貴方に王太子の資格はすでに無い!」


「ああ!? 弟が譲るってんだからいいじゃねえかよ!?」



マグーマは駄々をこねるようにコアトルと言い争い始めた。どうやら我儘で自己中な性格は一切替わっていないらしい。その様子に特に呆れるのは元婚約者だったリリィとジェシカだった。



「はぁ……あの元王子は全然変わってないわね。王太子に返り咲こうなんて無理だとわからないのかしら?」


「今の王太子も様子がおかしいようですし、何かしらの細工をされたか、もしくは本当に仕事のし過ぎで正常な判断ができないのかもしれません。我が国の王族はおかしなことになってますね」


「でも、そんな王族でも支えるのが臣下たる貴族の役目よ。コアトル殿では埒が明かないから私が論破してくるわ。ジェシカ、出番よ」


「はい、お嬢様には指一本触れさせません」



この場を収めるためにリリィとジェシカは問題の三人に近づいていった。そんな彼女たちにいち早く気づいたマグーマは驚いて叫んだ。



「お、お前はリリィ! それに最強の女騎士ジェシカじゃねえか! ち、近づくな!」


「お久しぶりですわマグーマ様。まるで駄々っ子のようにはしゃぐようですとお元気そうですね」


「だ、黙れ! まるで俺がガキみたいなことを言いやがって! また、俺の邪魔をするのかよ! あっち行け!」



マグーマは過去の出来事を思い出したのか恐怖で顔を青ざめた。少し距離を取って目に入った花瓶を掴んでリリィたちに投げつけた。



「お嬢様に手出しはさせん! 必殺イーヴィルテイル!!」



ジェシカは投げつけられた花瓶を己の剣で一刀両断した。花瓶を縦に真っ二つに断ち切ったのだ。



「か……花瓶が縦に真っ二つ……」


「嘘だろ……花瓶って結構硬いはずなのに……」



見ていたコアトルも花瓶を投げたマグーマも目を丸くした。剣術で花瓶を綺麗に真っ二つにするような芸当を初めて目にしたからだ。


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