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第1話

ここはツインローズ王国、プラチナム公爵領。領民に慕われるフランク・プラチナム公爵が治めることで領民たちが豊かに暮らしている。そんな領民たちが敬うのはフランク・プラチナム公爵……ではなく、彼の娘リリィ・プラチナム公爵令嬢だ。いつも穏やかでおしとやかで優しく美しい彼女に憧れる者は多い。ただ、そんな彼女でも驚いて声を上げることがあるのだ。たとえ王太子の婚約者に婚約破棄されることがあった彼女でもだ。



そんな時は、プラチナム公爵の屋敷で王宮から緊急の知らせが届いた時だった。屋敷にやってきたのは王宮で護衛隊を率いる隊長とその部下4人だった。



「失礼します。プ、プラチナム公爵はおいでですか!?」



震える声でそう叫ぶのは漆黒の鎧に身を包む護衛隊の隊長コーク・ローチだ。かつて、この屋敷の主の娘を勘違いで捕まえようとして失敗した過去があってか、緊張と恐怖が頭をよぎっていた。


そんな彼を最初に出迎えたのは、皮肉にもその令嬢とその側近だった。



「あらあら、これはお久しぶりですね」


「また、貴様か。何のようだ」


「! 貴女たちは……!」



一人は肩まで伸びる銀髪に白銀の瞳の美女公爵令嬢リリィ・プラチナム。もう一人は黒い髪をポニーテールにした緑の瞳の女性、公爵家の騎士ジェシカ。彼女たちが視界に入ったコーク・ローチは心臓を掴まれた錯覚を感じた。



「お、お久しぶりです、リリィ様……それにジェシカ殿も……ご無沙汰しております」



言葉が震えながらも丁寧に頭を下げるコーク・ローチ。



「まあ、覚えてくださったのですね。コック・ローチ隊長さん? 食堂に御用があって?」


「ち、違います! 私の名前はコーク・ローチです! 食堂が私の職場では断じてありませんから!」



リリィのわざとらしく聞こえる名前の間違いを必死で訂正するコーク・ローチだが、ジェシカまでも余計なことを口にしだした。



「何を言うか? ならばその真っ黒な姿は何だ?」


「これは我が家に伝わる鎧にございます! 人から誤解されるような指摘をしないでください!」



必死で説明するコーク・ローチなのだが、彼は後ろに控える部下たちが笑いをこらえていることに気づかなかった。



「うふふ、申し訳ありませんね。でも、これで少しは緊張感が解けたのではないですか?」


「! ……勘弁してください。余計に神経が狭まって、」


「貴様、お嬢様のお気遣いにケチをつけるつもりか!? ああ!?」


「ひいい! 申し訳ありません! だからご勘弁を!」



恐怖のあまりコーク・ローチはついに土下座までしてしまった。流石に部下たちの目の前で恥を晒していると自覚しているのだが、かつて自分を叩きのめした公爵家の騎士ジェシカに対する恐怖のほうが勝ってしまう。ジェシカの圧倒的な実力差があったのだ。



「まあまあ隊長さん、落ち着いてください。私達はよほどのことが無い限り貴方達をどうこうするつもりはありませんわ。そうよねジェシカ?」


「その通りですお嬢様。逆に言えば何かあれば叩きのめすということですが。例えば、くだらないことを口にするようであれば……」


「け、決してくだらないことではありませぬ! ただ、昨日のことでお話がありまして!」


「ああ、そのことですか」



昨日のことと聞いてリリィはジェシカを手で制した。話の内容のことを察したからだ。



「お話というのは王太子トライセラ・ツインローズ殿下のことですね」


「はい……」



トライセラ・ツインローズ。それは失脚した第一王子に代わり、新たに王太子にしてリリィの婚約者になった第二王子のことであった。



コーク・ローチが語るのは昨日のパーティーで第二王子がどうなったかということなのだ。

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