第92話 艦内ツアー
「まずは居住エリア……と言っても、私たちの船は最小限のスタッフ以外、コールドスリープをしているので、居住用の建物は少なく、空いているスペースには有志によって作られた畑を設けています」
【おお、結構きれいじゃん】
【なんだあの青い星みたいな花!?】
【見たことがない植物がいっぱいある】
【一瞬、ゲーミングチューリップみたいなの映ったぞwww】
【ゲーミングチューリップwww】
【どうするんだよ、正式名称がすげーカッコイイ名前なのに和名がゲーミングチューリップになったらwww】
【それはカリマイナチウスだよ】
【コノハチョウじゃねえかwww】
【おは小野寺】
「長年争い続けている修羅の星って聞いているが、意外と乙女ちっくなところもあるじゃねえか」
「ここにいるのは争いに疲れた人たちが多いですから。もし、私たちの星で非戦・平和・友好を掲げるのであれば即コレですよ」
ポニ子が指で首元を横切るようなしぐさをして、その末路を容易に想像するツアー客と視聴者たち。空気が少し重くなったのを感じたのか、ポニ子が話題を変えようと食堂に連れていく。いくつかのテーブルとイス、壁際には赤・緑・青・黄色……色とりどりのボタンのある自販機のようなものが設置されてある。ポニ子が黄色のボタンを押すと、パウチに入ったゼリー飲料のようなものが取り出し口から出てきて、それを飲み干していく。
「いくら魔力があれば生きていけるとはいえ、経口摂取によるエネルギー補給が一番!皆様も食べてみます?」
「ねえ、ポニ子。前、来た時に食べた栗きんとんもどきの方がまだ食べ物感あったわよ」
「一緒に出されたお茶もね」
「あれらは常時蓄えられているものではないので……」
「とりあえず、赤選んでみたけど、ちょっと怖いよね」
「ちょっと男子~こういうときに良いところ見せないと」
「彼女の前でカッコイイ所見せないとだめだよ、カケル君」
「皆の前で言うのはちょっと……」
「サキ、大丈夫だよ。僕……飲むよ」
「おう、いったれ。漢を見せろ」
周りから煽られつつ、赤いボタンから排出されたパウチの口を開けて、ゴクゴクと一気に流し込んでいくカケル。一気飲みしたカケルに心配そうにする皆と視聴者に放ったのは――
「これ、ケーキだ」
「ケーキ?」
「うん。イチゴのショートケーキをミキサーにかけてペーストにした感じ」
「味は想像できるけど……食べたいかって言われると微妙ね」
「じゃあ、アタシはせっかくだからポニ子と同じ黄色の奴を選ぶ!どりゃあ!」
「それなら俺は青だな」
リカとリョウがそれぞれのパウチを飲み干していく。それにつられるかのように周りのメンバーも各々、好きな色のボタンを押していく。
「黄色はカレー味」
「青は塩味が効いたスポドリだろ、コレ」
「緑はちょっと苦い青汁っぽいです」
「黒はチョコだったぞ。ビターじゃなくてミルクタイプのな」
「ピンクはバナナ系のジュースね。きっと中身聞いたら知らない果物なんだろうけど。エクステラ、アンタは?」
「茶色はキャラメルかしら、みみみは?」
「紫は潰したじゃがバターっぽい感じ。最後は先輩たるカナちゃんに」
「タロが選んだ水色はねえ……ただの水!味無い!!」
【はずれじゃねえか!】
【水は外れで良いのか?】
【一番無難まであるだろ】
【でも、こういうときの企画でただの水は外れでいいのでは?】
【甘味が多めなところに、天使の嗜好の偏りが見られる】
【天使は甘いものが好き……と】
【まだ他の色に酸っぱい物とかあるかもしれないから……】
重苦しい空気が無くなったところで、レストルームという名のただの空き部屋や立ち入りこそしなかったものの機関室や研究スペースがあったりと、ポニ子が艦内をくまなく案内していき、今度は倉庫(と書かれているらしい)部屋の前でテンキーを入力していく。
【ただの一般人に機密情報の塊みたいなの教えても言いわけ?】
【重要施設の場所が分かるだけでもテロリストからすれば値千金の情報だろ】
「構いませんよ。そもそも生半可な人間なら事前情報を持っていようと対処できますし」
「生半可じゃなかったらどうするんだ? 例えばEX-03みたいに隠密系の異能を持つ者なら、こっそり潜入して暗殺してやろうと思えばいけるぜ」
「それならご心配なく。このようにこの倉庫は完全オートメーション化しており、取り出したいものを番号を入力することで取り出すことができます」
ゴロンと取り出し口から出てきたのは、形がメロンやスイカのような丸い球体でなければ、パイナップルに酷似した果物だ。四角いスイカのようにカタにでもハメて育てたのだろうかと視聴者たちが質問する。
「いいえ、違います。これはナンナン星のピネという果物です。ちなみに先ほどアスカさんが飲んだものの主原料です」
【どこだよwww】
【知らないよ、そんな星!?】
【どこの銀河にあんねん!】
【美味しいかどうかも分からん】
【アスカちゃん、そこどうなん?】
「パイナップルというよりかはバナナ系だと思ったんだけど……」
「生でも食べられるので、皆さまで食べてみますか?」
「アスカが食べられるなら大丈夫だよな……」
「リョウ、それどういう意味? 私の胃袋は鉄製だとでも言いたいわけ?」
「かっかっか、モテたいならうかつなことは言わない方が良いぜ。それに万が一、腹下したとしても俺のナイチンゲールで治療してやるよ」
というわけで、ポニ子が指先から放ったレーザーでピネをカットしていく。中の果肉の色こそパイナップルのような真っ黄色ではあるが、バナナのような見た目をしている。
「色は違うが、確かにバナナだな。これは」
「目をつぶって食べたらバナナだわ、これ」
「うん。格付けで絶対にアカン枠にあったら選ぶ人多そうだよね~」
「分かる。っていうか、アタシ絶対選ぶ自信ある」
【食べた感想、完全にバナナ扱いで草】
【バナナモドキで良いじゃん】
【バナナモドキだと6文字だけど、ピネだと2文字だぞ】
【笑った】
【ところで、ナンナン星って何なんや?】
【ここは氷河期か?】
【真冬を極寒地獄にするなよ】
【ち、違うんや。そんなつもりで言ったんじゃあ……】
「言葉で伝えるのは難しいですが、地球から大陸が全部消えて島国だけが残ったような常夏の星と言えば大まかには伝わると思います」
「うわ、それまた極端な星ね。住むところほとんど無いじゃない」
「それだけじゃあありませんよ。陸地が1割未満、他海水なので濾過でもしないと真水の確保すら困難なんです」
「それ、水をめぐって争いごととかありそうね」
「そう思うでしょう。ですが、原住民の方は環境適応されていて塩水を真水のように飲むので、わざわざ真水に濾過する必要が無いんですよ。むしろ、真水の方が毒扱いされます」
「それはまた……すごい星ね」
「で、こちらがその星の名物である塩饅頭になります」
「見た目は普通ね。食べても良い?」
「構いませんよ。でも、最初はかじる程度の方がよろしいかと」
「一口で入りそうだけど……ポニ子がそう言うなら、そうさせてもらうわ」
パクッ、ガリッ……
【塩饅頭から聞こえてはいけない音がしたぞ!?】
【なんやその音!?】
【ガリって初めて聞いたぞ!】
「ペッペッ……これ、塩饅頭じゃない。岩塩!100パー岩塩!!」
【(岩)塩饅頭】
【略すなああああああ!】
【肝心なところだろ!】
【ポニ子の口ぶり見るに知っていたな】
【買っている本人だしな】
「こうなるから、かじる程度にした方が良いとお伝えしました。ちなみに、この塩饅頭は別に嫌がらせではなく、原住民の方からすれば甘味だそうです」
「岩塩が甘味ってどういう星よ!甘いって文字を辞書で100回くらい調べなさいよ!!」
「そんなわけで、彼らの性格は南国らしくおおらかで友好的だったんですが、文化面、特に食生活で大きな隔たりがあると早々に判断され、移住に不適格とされました」
【当たり前だ体操】
【価値観は話し合えばなんとかなっても、食生活はなあ……】
【俺たちでも虫食が当たり前の地域に移り住めと言われたら、嫌だし……】
【ポニ子がハンバーガーとカレーとか美味しそうに食べているあたり、奇跡の星扱いされるわ】
「カレーはCoCoよりかはゴーゴーの方が好きですね。それはともかく、大気状態や文化面で合う星というのは2000年かけても見つからないんですよ」
倉庫を後にした一行は、レクリエーションルームで他の星のボードゲーム(チェスのようなもの)で遊んだりしながら、最後に艦長室へと向かった。扉を開けると、着帽と左目に眼帯をしていることもあって、まるで海賊のような風貌をしている男性がこちらを睨みつけるかのように座っていた。
「この方が船の艦長をしている識別番号:K……」
「待ちたまえ。この星では識別番号よりかは名前というものを名乗るのだろう。では、儂のことは彼らの流儀に則りキャプテンとでも呼びたまえ」
「はい、承知しました」
【ポニ子が完全に下に出ている】
【艦長だけに偉いんだろうな】
【セラフィムとどっちが偉いんだ?】
【こういうのは船にいる間は艦長が偉いんじゃね?】
視聴者たちが空中ディスプレイで流れているコメント欄の中で議論していると、こちらに歩いてきたキャプテンが興味深そうに眺めてくる。
「ほう、これが配信という文化か。報告では聞いているが、リアルタイムで情報交換できる機能を軍事目的ではなく娯楽目的で使うというのは実に興味深い。あの若造とどちらが偉いかだが、見ての通り、儂はかつての戦争で左腕と左翼を失ったことで退役した老いぼれじゃ」
キャプテンが見えないように隠していた翼を広げると、左翼の根本から千切れたかのように失っている。もし、その翼があればセラフィムと同じ枚数の羽があったはず。つまり、キャプテンもまた熾天使級の実力者であったことが容易に想像がつく。
「傷が癒え、動けるようになったとはいえ、負傷したことで降格。ただの一兵卒として死地に赴くはずだったの儂が、艦長という責任のある立場に再び付けた恩もある。今の儂らの代表は識別番号:M……今はセラフィムと名乗っておる若造じゃよ」
「しつも~ん。キャプテンさんとセラフィムさんはどっちが強いですか?」
「儂じゃ」
【即答で草】
【1秒もかかってねえ】
【南雀でセラフィム様が戦っているところは生で拝見しましたけど、負けるところが想像つきませんわ】
【ただの負けず嫌いじゃね】
【全盛期なら強かった的な】
「儂の目には、お前さんたちが言うところの気、オーラ、魔力……そういった目に見えないものが映る。術師としての腕ならば若造の方が上じゃが、儂にとってはどんな魔法を使うか事前に言ってから放とうとしているようなもの。冷静に対処し、肉弾戦に持ち込めば儂の勝ちは揺るがんよ」
「すげえ……」
「若造の名誉のために言うが、引き撃ちに徹されたら、敗北は濃厚じゃろうな。あやつの性格上、しないがな」
「性格分析と未来予知、いえ、未来予測に近い能力を合わせて勝ちが濃厚ってわけね」
「それだけではないぞ。変身・隠匿の術を使っていたとしても、儂には本来の姿が見える。もっとわかりやすく言うなら、そやつが透明人間であっても、儂の目には電球を身体中に巻きつけて、『今隠れています』と書かれているプラカードを堂々と掲げているようなものだ」
【草】
【想像するだけで草】
【怪しすぎて草】
【ネウ〇の犯人でもいねえだろ】
【↑たとえ話で出てくる場合はあるだろ】
【そんな不審者状態で潜入できないわ】
「とまあ、お遊びはここまでのようだな。ポニ子、各員に通達。第一種戦闘配備だ」
【えっ……?】
「どういうことよ?」
視聴者やアスカたちが戸惑う中、キャプテンは窓の外を眺めている。その右目には海上に大きな魔力のうねりが見え、今まさに大質量の何かが転移してくる前兆がはっきりと捉えられていた。




