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ゲーム世界へ転生したモブ♂、死ぬ未来を回避するために美少女(偽)になる  作者: ゼクスユイ


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第90話 元に戻って

 翌朝、アスカが半分寝ぼけながらトイレに行って、用を足そうとしたとき、手が宙をきる。あるべきものがない。いや、元々なかったものがないと言った方が正しいのかもしれない。


「ん?」


 寝ぼけた目をこすりながら、自分の身体を見ると忌むべきキノコが生えておらず、胸には小さいながらも弾力が戻っていた。慌てて、鏡を見るとそこには見慣れた自分の顔が驚いた様子で映っていた。


「戻ったあああああ!!」


 腹の底から大声を上げたことで、まだ寝ていた信二が起きてしまった始末。ただ、防音は完璧だったので、隣の客の迷惑にならなかったのは別の話である。



「ふん、ふ~ん」


「また食べ過ぎると動けなくなるぞ」


「分かっているわよ。腹八分目に抑えるわ」


「腹八分目ね……」


 信二の目の前には昨日と変わり映えのしない大盛の料理を乗せた大皿とそれを平らげようとするアスカの姿があった。大皿の隣には次の分と思われるソーセージやベーコンが小皿に盛られており、これのどこが腹八分目だと思いながら、秋野菜の漬物や焼き鮭の切り身をおかずにご飯を食べていく。


「やはり秋と言えば、鮭とナスだな」


「ちゃんと肉食べなさいよ、肉。私がとってきたのをあげるから」


「こんな山盛り渡されても……体育会系じゃないんだが……」


 とはいえ、わざわざとってきてくれたのを返すわけにもいかず、お代わりしてきたご飯と味噌汁を片手に肉の処理に取り掛かることにする。食べ終わるころにはデザートを食べる余裕はなく、満喫したアスカと一緒にバイキング会場を後にするのであった。



 しばらくして、旅館をチェックアウトした二人は駅前広場でやっている朝市に来ていた。並んでいる露店には古くからありそうな伝統工芸品や朝採れたばかりの新鮮な野菜や果物がずらりと並んでいる。


(キャベツ1玉100円か……一人で来ていたら買っていたかもな)


 だが、今はアスカとのデート中。こういう場で安売りされている野菜を買うわけにもいかず、手にしていたキャベツをそっと返すことにした。その隣の露店では木や竹で編んだような工芸品が並べてある。


「こういうのをみると旅行に来た感あるわよね」


「そうだな」


 木彫りのふくろうストラップを手に取ってみる。商品案内のプレートによれば、福が来るとかけて幸運のお守りになっているそうだ。


「可愛らしいじゃない。こういうの好きなの?」


「まあな。それに最後の戦いに向けて願掛けはしたいところだ」


「だったら、私が買ってあげる。色々と迷惑かけちゃったし」


「(いや、さすがに女の子に買ってもらうのは男としてどうなんだ?)……そうだ、お互いに相手のものを買って交換するっていうのはどうだ? ペアリングみたいで良いんじゃないか?」


「ぺぺぺ、ペアリング!?」


 トマトのように赤面し、動揺しまくりのアスカ。幼女くらいの恋愛脳の彼女にとってキスどころか、ペアリングなんてのは遥か彼方のもの。大人の階段を1段飛ばしどころかエレベーターで上がるようなものである。


「こういうときって同じものを買った方が良いのか?」


「えっ~と、えっ~と……」


「それとも、こっちの色付きの方が良いのか?」


 ヘヴィメタばりに頭を振るアスカに対し、手に取った赤いフクロウのストラップを買う信二。それに遅れて、無着色で木本来の味わいを出しているフクロウのストラップを買ったアスカは信二のフクロウと交換し、さっそく自分のEXギアに取り付ける。風に吹かれてゆらゆらと揺れる赤フクロウを見て、ちょっと恥ずかしそうな笑みを浮かべる。


「ん? アンタはつけないの」


「俺のはマルチタイプだからな。戦うときに変形の邪魔になってしまう。だから……これでどうだ」


 リュックから取り出した財布にアスカに買ってもらったフクロウを付ける。これなら戦闘の邪魔にはならないが、アスカは少し不満げではあった。やはり、普段から見えるところに取り付けて欲しい気持ちがあったのだろう。


「アンタがそれで良いなら良いんじゃないの。今日は何するつもり?」


「昨日、行けなかった外湯めぐりはどうだ?」


「そうね。どんな温泉があるの?」


「有名なのは金泉……黄土色の濁り湯だな」


「へえ~、旅館の白い濁り湯とはまた違うのね」


「亀北東ダンジョンが火山地域の灼熱ダンジョンだから、その影響を受けて多種多様な源泉が湧いているとは言われているな」


「でも、ダンジョンがあっても外に影響を与えないでしょう。もし、そうなら私たちの学校なんてジャングルよ」


「あくまでもそう推測されているだけだな。俺たちの世界でも、宇宙開発に乗り出して1世紀過ぎてもまだわかっていないことがたくさんあったんだ。ましてや異世界、魔法という今までとは異なる技術体系……ダンジョンのことが分かるまで、たった1世紀ちょいで全部わかるわけがない」


「そういわれるとそうよね……ダンジョンって何なのかしら?」


「さあな。天災だの神からの試練だの恵みだのと言われているが、俺には上位存在が本当にいるかさえ疑わしい」


「アンタがそれを言う?」


「神に会ったならともかく、会っていないんだから居ないと考えるのが筋だろ」


「だったら、どうしてアンタはこっちにいるのよ」


「さあな。いくつか仮説は立てられるが、どれもこれも妄想の域をでない。二流小説以下だ」


 そうこう話している内に金泉がメインの『金の湯』、炭酸泉メインの『銀の湯』と二つ並んだ看板が目印の建物の中に入っていく。まずは、金の湯から入ろうと暖簾をくぐり、脱衣場へと向かっていく。

 アスカが服を脱ぎ、ふと鏡を見る。そこに映し出されているのはいつもの鍛え上げた自分の身体。


(見慣れているはずなのに……なんかいつもと違う)


 たった1日の入れ替わりで男の身体に慣れてしまったのだろうかと思ったが、そんなことは無いと頭を振って、タオルを巻きながら、浴場への扉を開ける。


「金ぴかのポニ子ちゃんが入ったから金の湯が黄金の湯になっちゃうね~」


「天使の湯の間違いでは?」



 ガシャン!



「……銀の湯から入りましょう」


「なんで、一緒に入らないの!」


「前もだけど、どうやって先回りしたのよ!」


「偶然ですよ?」


「本当に?」


「本当。本当。昨日も来たんだけど、その頃には混んでいたからね~今日は早めに来たんだ」


「有名店とはいえ、朝早くから来ると空いていて助かります」


「……まあいいわ。私、先洗うから」


「昨日みたいに洗いっこしようと言いたいけど、もう洗っちゃったんだよね」


「それはざん……昨日?」


 昨日は信二が自分の身体を使っていた日である。つまり、みみみと洗いっこしたのは信二であるということに気づく。


(何しているのよ、アイツ~!?)


「ガチガチで凄かったよね」


「うっ、恥ずかしいからやめて」


「昨日はあれだけ誇らしげにしていたのに?」


「信二様に何か言われました?」


「違うわよ……それにアンタたち、入り口の前で長話していたら他の客に迷惑でしょう。身体も冷えるし」


「それもそうだね。出ようか」


「ええ、そうしましょう。次は銀の湯です」


 みみみたちが脱衣場で着替えているのを確認したアスカは改めて浴場へと入り、体を洗う。一昨日まではあまり好きじゃなかった女の子らしくない身体。そのせいで黄金桃には――


(『信二に似合う女の子になりたい』なんて願ったら、入れ替わるんだもん。もしかして、ナルシスト? なんて思ったわよ)


 実際はそんなことは無かったわけだが。そして、鏡に映っている自分の姿をよく見る。そこに映っている自分の身体が少しだけ好きになれた気がした。




 お風呂から上がって、脱衣所から出ると休憩スペースで瓶入りの飲み物を飲んでいる信二が居た。


「今日は長かったな。体調は大丈夫なのか?」


「ううん、平気。何飲んでいるの?」


「そこの売店で売っている銀のサイダーとかいうご当地サイダーだな。なんでも、銀の湯の源泉を利用しているらしい」


「へえ~、美味しい?」


「……炭酸が弱めで飲みやすいとは言っておく。個人的には甘めのほうが好きなんだが……」


「何、その微妙な反応。私も買うけど」


 1本300円とお土産価格ではあったが、購入したアスカが一口飲むとうす甘い天然水に若干の炭酸感……値段の割には格別に美味しいとは言えないなんとも微妙な飲み物であった。少なくとも2度目は買うことはなさそうだ。


「がっかり飲料よ、これ」


「ご当地品ってこういうものじゃないか」


「これ飲むくらいなら、フルーツ狩りで作ったジュースの方が何倍も美味しいわ」


「そいつは良かった。ただ、黄金桃はもうこりごりだがな」


「同感。願いは……まあ、気付かせてくれたから願いは叶ったと言えなくないかもしれないけど、また変な叶い方しても困るわ」


「おそらくだが、あの黄金桃の性質上、回りくどい方法でしか願いをかなえられないんだろうな」


「どういうことよ?」


「例えば、金が欲しいと願ったら大金が空から降ってきたとしても、その金は手にした瞬間、つまり叶った瞬間に消える。グラマラスな、あるいはマッチョな身体になりたいと思っても、鏡を見た瞬間に元に戻るかもしれない。アスカが納得した後、俺たちの入れ替わりが戻ったようにな」


「それ……願った意味無いわね」


「だろ。だから、黄金桃の願いの叶え方としては、金が欲しいなら、より良いところに就職するか昇進すれば良いみたいにすると考えられる。就職や昇進した瞬間に黄金桃のサポート効果が切れても、働いたら金は手に入るからな。問題なのは、それで願いは叶ったと思うかだ」


「う~ん……叶ったと思うにはちょい微妙。運が良くなったとは思うかもしれないけど……」


「だから、黄金桃を食べた人間の願いは『叶う』ではなく、『叶うと言われている』と断言できない形で伝わっているんじゃないのか」


「あ~、なるほどね。黄金桃の効果で叶ったとしても、回りくどすぎて自分の努力かもって思うわ」


 今回の騒動の原因となった黄金桃の考察を聞いたアスカは納得した様子で頷く。何はともあれ、問題が解決した二人は外湯をゆっくりと回った後、帰路へとつくのであった。

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