第89話 告白2
ホテルまで戻る道中、部活メンバーや友達用の土産物を買いながら帰った二人は夕食まで時間があるということで、汗を流そうとお風呂に入っていった。とはいえ、心は乙女のアスカは他人に裸、しかも男の姿を見られたくないため、部屋に備え付けられているシャワーで我慢することにした。
「それにしても、アイツの腕ほっそいわね。ちゃんと食べているの!」
【元が大学生のせいなんですかね。ああ見えて、結構ずぼらなところがあるんですよ。朝ご飯を抜くのは当たり前、下手すれば夜はめんどくさがってカップ麺なんてことも】
「バッカじゃない。1日3食しっかり食べなさいよ。だから食が細いのよ」
【ですよね。今は若さでどうにかなっていますが、あんな生活を続けたらせっかくの美少女に傷つきます】
「そうよ。私の身体でその生活をやらかしたら、タダでおかないんだから!」
シャワーを止めて、身体を拭いていく。鏡にはエミ姿ではない素の信二の顔が映っているが、アスカは目をそらし、逃げるかのようにさっさと吹き終わって着替えていく。さすがに朝の痴態を繰り返すわけにもいかず、下着もきちんと着替える。
【それにしても、こういうのって女湯に入ろうとする男性を引き留める展開とかありません?】
「そんなことしたら私の身体が臭くなるでしょう。それにアイツなら変なことはしないだろうし……」
【私もちょくちょく覗きに行っているんですが、普通に入っていて見どころが逆に無いんですよね】
「アンタの本体、ここにあるのにどうやって覗いているの?」
【監視カメラのハッキングなんてお手の物ですよ。まあ、信二さん以外に映っていたのはご年配の方で美少女が居なかったのは残念ですが】
「……ほんとアンタが悪人に拾われなくて良かったわ」
趣味でハッキングされた側はたまったものではないが、凶悪犯罪に使われるよりかはマシである。とはいえ、覗きは犯罪なのでぐるぐるの刑が執行されるのだが。
そんなこんなでステラとじゃれあっているところに、部屋の鍵ががちゃりと開く。いつの間にやら時間が経ってしまったらしいと帰ってきた信二を見ると、湯上りの影響なのか少し顔がほんのりと赤く、着ている浴衣と髪もおろしていることもあって大和なでしこ感があった。
【美少女力15万、16万……まだ上がると!? 18万5000……!】
「嘘、これが……私?」
「それ、どっちかというと男の方が言うセリフだと思うんだが……」
「なんか妙に色っぽいというか、なんというか……本当に私の身体なの?」
「どうみてもアスカの身体だ。こういうところにある高いマッサージがどういうものか知りたくてやってきたんだ。ああいうのって男だと入るの憚られるからな」
「ああ、5,6千円くらいするやつね。どうだったの?」
「体の中にたまっていた疲れとか凝りが取れて軽くなった感じ。なんだか体もポカポカするし、お金を払った価値はあったよ。惜しむは自分の身体じゃないことくらいだ」
「……それにしても、なんだか私以上に私の身体扱うの上手くない?」
【これは真アスカとかアスカ(本物)と呼称すべきでは?】
「誰が偽物よ!」
【あ~れ~】
ステラとアスカが仲良くじゃれ合っている中、信二がテレビをつけると天使との和平会談についてコメンテーターが天使の襲撃で死傷者が出ている以上、下手な歩み寄りなどせず強く出るべきだと主張している。どうやら彼らの頭の中には『評議会』のやらかしは記憶の奥底にしまわれているようだ。
「和平は良いけど、落としどころを付けるの難しいってどの局でも言っていたわよ。賠償金とかで解決しようにも、相手が異星人だと通貨自体違うし……」
「そこはセラフィムにも考えがあると聞いている。彼の手腕に期待だな」
「こういう時ってアンタが口出ししているものだと思っていたわ」
「学生だしな。今も前も。さすがに海千山千の政治家に舌戦で勝てるとは思っていない。俺ができるとしたら、相談を受けてアドバイスするくらいだ」
「そう? 国会議員って、高級料理食べて、国会で居眠りしている無能なイメージがあるんだけど」
「メディア戦略に踊らされているな、それ……会食するのにセキュリティなんて無いサイゼとかココスとかのファミレスでするはずないだろ。国会は大学生のサークル活動かって話だ。変な客を足切りして、セキュリティーを上げるためにも、店のグレードは上がるだろうし、必然的に高くなる。何回も会食しているのはどうかとは思うがな」
「居眠りの方は?」
「こっちは構造的な問題だな。激務で疲れているところに、結論がほぼ決まっていて、出番もなく何時間も聞きっぱなしになるんだから、集中力が切れて眠りやすくなる条件はそろっている。だからと言って居眠りして良い理由にはならないがな」
「早く改革しなさいよ……」
「良くも悪くも昔からの習慣を変えたくない気質があるからな、日本は……」
政治批判はこれくらいにして何か明るい話題は無いかと、番組を切り替えて芸能人のグルメ番組にし、夕食までの時間を潰すのであった。
旅館のレストランでこれぞ日本食といった懐石料理を堪能した二人は部屋に戻っていた。栗ご飯が美味しかっただの揚げたての天ぷらが美味しかっただのと楽しく話している中、信二は用件を切り出すことにした。
「それはそうと、入れ替わりの件のことだが、やはり事件のカギは黄金桃だと思っている。そして、アスカの願いもおおよそではあるが、見当もついている」
「うっ……」
「結論から言わせてもらう……馬鹿だろ、お前」
「はあ!? 私がどれだけ悩んでいるか分かっているの!」
「じゃあ、一つ聞くが、俺が本気で女らしくあれなんて言ったことあるか」
「それは……でも、私みたいな筋肉女みたいな子よりサキやみみみみたいな子の方が……」
「そういう子が嫌いかと言われると嘘になるが、だからと言って、アスカのことを醜いだの、嫌いになることは無い。というか、この身体になって俺の知らないところで鍛え続けていた身体に嫉妬めいたものを感じたくらいだ」
「でも、それって女の魅力じゃないし……」
「なら、今日の俺の姿を見て、女の魅力を感じなかったのか?」
「そ、それは……」
「女の魅力なんていうのは、身体の問題じゃない。ちょっとした仕種に気を付ければ出せるものだ」
「男の娘のアンタに言われたら反論なんかできるわけないでしょう……」
「それに、俺がお前に求めているのは女の魅力じゃなくて、アスカ自身の魅力だ」
「私自身の?」
「そうだ。いつも元気なパワフルガール。誰かがボケたら真っ先にツッコむように、敵陣に切り込みつつも冷静な判断を下せるクレーバーさをもつ。それにさっきも言ったが、お前の鍛え上げられた肉体も魅力的に感じる。簡潔にまとめただけだが、もっと挙げろと言われたら、いくらでも挙げられるぞ」
「うう……恥ずかしいからやめて」
「要は他人がどうこう思っても、俺がお前のことが好きならそれで良いだろ」
「そうよね。信二が私のこと好きなら……って、あれ?」
「どうかしたか?」
「信二が私のこと好きって言ったのこれが初めてじゃない?」
「そうだったか?」
【これまで私が集めてきた美少女フォルダを漁りましたが、アスカさんのことを好きと言ったのはこれが初めてです】
「そうだったのか」
「ねえ、もう1回好きって言って」
「ああ、お前のことが好きだ」
「もう1回」
「お前のことが好きだ」
「もう1回」
「好きだ」
「もう1回」
「……もう良いだろ。風呂入ってくる」
逃げるかのように部屋から出ていく信二を見て、ニヤニヤするアスカとステラであった。




