第84話 告白
14時。信二たちの演劇の幕が上がる。演劇の内容はみみみが悪の組織にさらわれ、彼女の友達が取り返すという冒険活劇。今のところは奇をてらったストーリーは無く、王道を貫いている。観客たちが大方の予想通り、劇が進んでいく中――
「くっ、この儂が作り上げた実験動物たちがやられるとは……かくなる上はこれじゃ!」
「なに、まだ奥の手があるというのか!」
「もう魔力が残ってないわ」
友達役の生徒たちが片膝をつき、疲弊している状態で呼び出されたのはポニ子。彼女がドクターKの上から舞い降りてくる。
「フハハハハ、この天使には先ほどまでの実験動物は違い、リミッターを外しておる。つまり、生物本来の力を100%いや、200%、それ以上に引き出して――」
「リミッターヲアマクミタナ」
「ん。何を言って――うぎゃああああ!」
体表を赤く染め上げた天使がドクターKを押しつぶす。命令を下していたドクターKがやられたことで、彼女の暴走を止める者はいない。暴走した天使が観客に向けて10本の指先を向ける。
「皆、にげて――!!」
指先から放たれた色とりどりのレーザー光が体育館の中を縦横無尽に駆け巡っていく。当然だが、これらのレーザー光に殺傷能力は無い。だが、臨場感を出すため、舞台の端からみみみが宙に浮かせておいた綿を爆発。それと同時に照明が落ちる。
突如、真っ暗になった体育館内で観客がざわつく中、スポットライトが1点に集中され、そこに映し出されたのは1人の美少女。
「月夜によって組織の罪を照らすつもりだったけど、己の罪の重さに潰されたみたいね」
「ナニモノダ」
「貴女に名乗る名は無いわ」
(そこは名乗り口上を言うはずじゃあ……)
まさかの本番でアドリブである。だが、ステラと話し合った結果、ここで名乗るよりもう少し後で名乗った方がミステリアス感出るし、美少女じゃないかと落ち着いた。本物が判断するなら間違いないのである。
「シネィ!」
「喋る怪物は三流も良いところね」
乱入してきた謎の美少女に火線を集中。観客の頭上を飛び回る美少女を追いかけるも命中することは無く、無意味に爆発音を轟かせるだけだ。
「鬼ごっこの時間は終わりよ」
「ウギャアアアアアアア!!」
剣を抜き取り、白銀の刃が天使の左腕を斬り付けると、左腕が黒ずんでいき、その機能を失わせる。叫び声を上げながらぶらりと垂れ下がった個所を抑えている天使を観つつ、疲弊した友人役の生徒たちに近寄る。
「……今の私では倒し切れないみたいね。そこの3人、大丈夫かしら?」
「あ、ありがとうございます(副音声:これ、どうするんだよ!台本とちげえぞ)」
「貴女は一体……?(副音声:名乗ってないからどう答えば良いのよ)」
信二のアドリブのせいでガチの困惑をしている生徒たち。だが、そんな彼らの心情を知らない観客たちは迫真の演技にしか見えない。
「私が誰であっても良いでしょう。今はあの化け物の足元にいる彼女を助けるのが先じゃないかしら?」
「そ、そうだ。アイツを助けねえと!」
「ああ、そのために俺たちはここまで来たんだ!」
「でもどうやって!あの化け物、もう回復しているみたいだし、私たちの魔力は先までの戦いでもう……」
女生徒が言うように黒ずんでいたはずの天使の左腕が赤色に輝き始め、その機能を取り戻していく。そのすぐそばには足がすくんで動けないみみみがいる。
「私では無理でも現地人ならあるいは……」
少し考えた上で、謎の美少女が生徒たちに触れると、(ポニ子の異能で)彼女の身体から光が漏れ出し、友人役の生徒3人に力を与えていく。
「(知らねえぞ、こんな展開!何言えば良いんだよ) こ、これは……?」
「ち、力がみなぎってくる!」
「(そんな感じで良いの?) これならやれる!」
謎の少女の助力によって疲弊していた友人たちが立ち上がり、杖や剣、盾を構える。虫の息であった人間が息を吹き返したところを見た天使が胸元から巨大なビームを放つもタンクの盾に弾き返されてしまう。
「いまだ、行けっ!」
「うおおおおおお!」
剣士が天使がとっさにガードした腕を斬り落とす。遮るものは無い。後方で呪文を唱えていた魔法使いが天使の頭を吹き飛ばし、その機能を完全に停止させる。だが、その攻撃の余波で倒れこんだ天使がみみみを押し潰しそうになった時、謎の美少女が抱きかかえ、観客席に向かって飛び去っていく。
「大丈夫かしら?」
「う、うん。貴女は一体……?」
「私は星の使者。どうしても名を呼びたいならエクステラと呼ぶと良いわ」
「エクステラ……」
エクステラが抱きかかえているみみみの無事を見せつけるかのように観客席の上空を戦開始、ふたたび舞台の上に降り立つ。みみみを友人たちの元に返すも、その顔は赤い。それが羞恥心なのか恋心の目覚めなのかは分からぬまま演劇は終わっていくのであった。
「信二、アドリブ、上手くいったな!」
「ああ、宮本もポニ子もよく頑張ってくれた」
「はい。秘密裏にストーリーを変える背徳感……良いですね」
「やっぱりとは思っていたけど、台本と違うと思ったらアンタたちが原因かい!」
「そうだ、もっと言ってやれ!女幹部!」
「そうよ、ガツンと言っちゃいなさい!」
控室で演劇のアドリブを詰められる戦犯三人組。とくにメインを張っていたにも関わらず、何も知らされていない友人役の2人は追い詰めているアスカを応援している。
「ちょっと待て。一応、アドリブをすることは古本さんには伝えているぞ」
「ほんと?」
「う、うん。したけど、若干の補完とか軌道修正するくらいだと思って……ここまでやるとは思ってなかったというか……」
「なっ、許可貰っただろ」
「それは許可を貰ったとは言わないわよ!!グレーゾーンぶっちぎって黒確定よ!」
「無事に終わったから良いじゃん」
「確か、この国には終わりよければすべてよしという言葉があります」
「甘やかさない!コイツはギリギリのラインを毎回毎回狙うタイプよ。一度でもセーフ判定出したら、もう少し踏み込んでも……って探ってくるわ」
「間違って……ないな」
「でしょう。だから反省しなさい」
「ああ、分かったよ。もう少し、踏み込んだ話をしておくべきだった。古本さん、勝手に話を変えてすまなかった」
「いや、でも私も最後どうするかずっと迷っていたし……あの終わり方で同じように盛り上がっていたかと言われると違うと思うから」
観客たちから見れば、命からがら助けに来た友人たちをよそに、ぽっと出のエクステラに一目ぼれした挙句キスまでするというもの。これはこれで好きな人もいるかもしれないが、嫌悪感を抱く人もいるだろう。そういう意味ではみみみの最後の表情の意味を観客たちに委ねた結末は、万人受けという意味では正しいものであった。
「だから、来年は信二君に負けないくらいの最高の脚本を作るから!」
「いや、そもそも同じクラスになるか……」
「野暮は無しってことで。文化祭終わったら打ち上げよ!」
「「「おー!!」」」
「あっ、話したいことがあるから打ち上げの前に屋上に来てくれる?」
「ん? 別に構わないが」
説教の続きかと思いながらも、化粧を落とし、衣装を脱いでいつもの制服姿に戻っていく。あと1時間もすれば文化祭も終わり、観客たちを見送りながらの後片付けが始まる。それまではゆっくりと回るのも良いかもなと思いながら、校舎内を歩くのであった。
後片付けを終え、生徒たちが帰る中、信二は呼び出された屋上へと上がっていた。そこには呼び出したアスカだけでなく、みみみも同伴している。
「説教の続きかと思ったが、みみみもいるのか」
「うん。私も伝えたいことがあったから」
みみみも話したいことがあるというが、一体何の話だろうかと思いながら、二人が話すのを待つことにした。最初に口を開いたのはアスカであった。
「集まったみたいね」
「一体何の用だ? みみみも一緒となると、全く見当もつかない」
「そりゃあ、まだ伝えたことが無かったもの……好きよ」
「……何がだ?」
「アンタのことに決まっているでしょう!」
(俺のことが好き? まさか……告白か!?)
目を見開き、たじろぎながら驚く。親しい『友達』として付き合っていたとはいえ、『恋人』になるようなきっかけは無かったはずだと考える。
「何よ、その反応!私が好きになったら悪いわけ!」
「いや、そうじゃない。少し前までカケルのことが好きだったお前が、何がきっかけで俺のことが好きになったのかと考えていたところだ」
「信二君のそういうところは悪いと思うなぁ」
「うぐっ……確かに……」
「振られた時、私のこと……慰めてくれたでしょう」
「ああ。だが、それは友達として当然だろ」
「その後のメタルザウルスの群れから私たちを逃すために、自爆同然のことしたでしょう」
「ああ、あのときは済まなかった」
「そういうこともあって、信二のことは気になっていたの。でも、その時はまだ好きかどうかは分からなかった。でも、エクステラの正体を知ってから気づいたの。T-REXにやられかけた時、助けてくれたのは信二だって」
それだけじゃない。そもそも一番最初にエクステラとエンカウントしたタコ型のモンスターと戦ったときから、ずっと自分たちを助けてくれていたと気づいたときには『気になる』から『好意』へと変わり、ポニ子に煽られるまでは『恋』であることから目をそらし続けていたのだ。
「だけど、あの時みたいに後悔したくない。だから、今度は言うの!私は信二のことが好きよ!!付き合って!!!」
これだけはっきりと覚悟を持って告白されたのであれば、信二もまた覚悟を持って話さないといけなかった。
「その気持ちに応える前に、俺も言わないといけないことがある」
「それは……なに?」
平行世界出身以上に隠していたことがあるのだろうかと思いながらも信二の告白を聞くことにする。
「俺が平行世界出身なのは知っているな。そして、この世界が俺が知るゲームによく似ていることも伝えた」
「うん。言っていたわね」
「だからだろうな。この世界が俺の知らない異世界ならともかく、そういう世界だと知っているから余計にこの世界が『偽物』だと思ってしまう」
「えっ……」
「だってそうだろう。よくある転生物みたいに交通事故で亡くなって神様に転生させられたならともかく、目が覚めたら見知らない家族と友人を名乗る他人がいるんだ。記憶喪失だと偽って、偽物の家族を演じる毎日。はっきり言って嫌になっていた」
「でも、良い両親だったじゃない」
「ああ、そうだ。でも、俺には本物の両親がいたんだ。だからこそ、辛かったんだ」
「信二君……」
「最初は何の確証も無いまま寝たら戻れる。1週間後には戻れる。1か月後には戻れると思っていた。だけど、1年が経ったら諦めた。戻るのをあきらめた俺はぼんやりとこの世界で生きていくのだろうなと過ごしていた」
もし、自分たちが同じ目に会ったのであればどう思うのかと思うと胸が痛くなる。大義名分があればいざ知らず、何の理由も無いまま、しかも周りは『信二』という役を押し付けてくる。下手すれば、発狂しかねない状況だ。
「だけど、俺になる前から友人だったアイツは俺から見ても気の合う友人だった。そいつはラーメン屋を引き継ぐ夢を持っていた。夢なんて無かった俺には羨ましい奴だった。そんなアイツが中学最後の日、高校卒業したらマズイラーメンおごってやるよと誘ってきたんだ」
「なによ、それ。普通は美味しいラーメンじゃないの?」
「俺も同じ反応をした。すると、アイツは『3年間の修行だとまだ半人前だから、美味しいラーメンは酒飲めるようになったらな。そのときは一人前の探索者になったお前と一緒に食べようぜ』って答えたんだ。アイツの中には大人になるまでのロードマップまでできていたんだ。それを聞いた俺はアイツの夢を壊さないためにも、生き残る道を探し始め、そしてあの廃工場へと向かったんだ」
「それが私とエクステラ、ううん、信二君との出会いだったんだね」
「ああ、その後は知ってのとおりだ。多少の差異はあったが、原作通りカケルたちと出会った。原作通りのイベント、俺の知っている展開と人間……心の中で舞い上がったこともあって、この世界は『偽物』だという気持ちは心の片隅には残っていたんだ」
「偽物の世界……そう思うのも無理ないよ」
「ああ、きっと、これから先も元の世界が『本物』でこの世界は『偽物』だと思いながら、生きていくんだろうな。そんな俺が本物の恋愛なんてできるのか? そう思うと……」
「なるほど、言いたいことは分かったわ。でも、その友人君との思いは偽りじゃなくて『本物』だったんでしょう。だったら、答は単純よ。自信が無いから、それっぽい理屈をつけて逃げているだけよ!」
「自信が無いか……そうかもしれないな」
「それに私のこの思いが偽物だなんて言わせないわ。本物よ!だから、私と付き合いなさい。本物の恋愛をするわよ!」
「しなさいって……恋愛ってそういうものか?」
「っ……」
「だが、お前らしい。本当に心の底から愛せるか分からんが、付き合おう。アスカ」
アスカの告白が無事成功し、パチパチと拍手を送るみみみ。そんな彼女に信二は一つ尋ねることにした。
「ところで、みみみが伝えたかったことはなんだ?」
「アスカちゃんの告白が成功した後に言うのもアレだけど。私も信二君のこと気になっていたんだ」
「それはすまん。さすがに二股するわけには……」
「ううん。気にしないで。昨日の文化祭巡りで、私が好きなのはエクステラであって信二君じゃないってことに気づいたから。だから、信二君が来る前にアスカちゃんに先に告白してもらったんだ」
「私からもゴメン」
「謝ること無いよ。エクステラのことはこれからも推していくし!むしろ、推しが幸せならOK的な? あーでも、アスカちゃんの告白が失敗したら私も告白していただろうし、そういう意味では残念だったかな」
「そのなんだ……埋め合わせにはならんが旅行チケットが余っているから、1枚あげるよ。留学していた時に泊まっていたが、あそこの旅館は良かったぞ」
「おっ、推しが入っていた温泉!と言うと、聖地巡礼にもって来いじゃん!」
「男湯だけどな……」
「エクステラ姿でも女湯はマズイわよ……」
「そこは妄想で。告白も終わったし、早く行かないと打ち上げ終っちゃうよ」
みみみに誘われるかのように屋上から降りていくアスカと信二。だが、その手は硬く握られていたのであった。




