第81話 文化祭 part2
チラシを配り終え、残りの時間は自由行動となった信二たちは模擬店で何を買おうかと眺めながら歩いていた。
「やきそばにフランクフルト、シューアイス……普通だよね」
「学生が作るものに変わったものなんて早々無いわよ。南雀はどうだったの?」
「私たちのところは金に物言わせた食材が多かったよ。松坂牛的な」
「1串1000円とか2000円とかしそうね」
「実際、それくらいあったからね。私たちと住んでいるところが違うんだってなったもん。それに……」
あの頃を振り返ってみると、心の底から楽しんでいただろうかと思う。確かに紫苑たちの前で、笑い合うことはあった。だけど、その時の自分は親や兄妹を失って、どこか空虚さを感じていたのも事実。もしかすると、迷惑系をやっていたのも危険なダンジョンに入って死にたがっていたのかもしれないと思うほどだ。
(ただ、今、そう思えるのはその穴が無くなったから何だよね。だから、私は――)
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」とみみみが誤魔化していると、通りすがりの高校生くらいの男性2人が何か話しているのが聞こえた。
「魔物肉なんてゲテモノ、まずいと思ったけど案外いけたよな」
「ああ。ダンジョン同好会だったっけ。やっぱ、学園都市って同好会でもレベルたけえんだな」
「えっ、今の同好会って……」
「旧ダンジョン部、ゴンゾーたちのところね。何をしているのかしら?」
魔物肉と言えばシカやイノシシと言ったジビエ肉と同じく当たりはずれが大きく、ダンジョンで兵糧が切れた時の最終手段くらいでしか食べることは無い。ただ、現代では緊急脱出装置の普及で兵糧が切れたとしてもすぐさまダンジョン外に出れるため、サバイバル技術が必要な極限状態に陥ることは稀であり、信二たちをはじめとする若い世代には馴染みのない文化である。
「ちょっと気になるし、行ってみない?」
「そうね。私も気になるわ」
模擬店が立ち並ぶ中でも人気のない隅の方に追いやられているダンジョン同好会のテントに向かうと、そこでは串刺しのお肉がジュージューと炭火で焼かれ、その横の鉄板ではソースをたっぷりと絡ませた焼きそばやげそ焼きがジュージューと音を立てている。
「へい、いらっしゃい!って、お前たちかよ……」
「露骨に嫌がるわね」
「そりゃあよ、ワシらの看板奪われたせいで、予算を大きく削られちまったし、部員は大勢辞めるしで大騒ぎだったんじゃい」
「そもそもそっちが仕掛けた喧嘩でしょう?」
「ぐっ、それを言われると……それよりも、噂には聞いていたが俺を負かした奴がこんなにも女装が合うなんて思っても居なかったぜ」
「私だって好きでやっているわけじゃないわ」
【そんなことないはずです。初めて会ったときから、私の美少女センサーがビビーンと来たんですから。そう100人の彼女を作る漫画のように!!】
(故障しているぞ、そのセンサー)
「ゴンゾーさん、こいつに売り子とか頼んでみたらどうっすか?」
「義理がないわね」
「そう思ったじゃけん、ワシも頼む気はない。立ち話もなんだ、何か食っていくか?」
「そうね……オーク串とミノタウロス串を1本ずつ頼むわ。みみみは?」
「私はクラーケンのげそ焼きかな」
「あいよ。オークとミノ、ゲソを1人前だ」
ねじり鉢巻きをしたゴンゾーが焼いていた串焼きを紙皿の上に置き、赤羽もげそ焼きを出す。それらを受け取った信二たちが匂いを嗅いでみるが、普段食べているようなものとは特段変わらず、パクリと一口、確かめるかのように食べる。
「オーク串、ちょっと脂っぽいけどジビエ特有の生臭さが無いわね。スパイスのおかげかしら?」
「トレントっていう木の魔物がいるだろ。アイツらは周りの木に擬態するのに、魔物の匂いを消すんだ。でねえと、喰った魔物の死臭でバレちまうからな。そいつらの炭で焼くと、皮はパリッと仕上がって生臭さが消えるワケよ」
「そういうことね……ミノタウロス串はややスジっぽいかしら」
「ミノタウロスは牛すじにちけえからな。本当はビーフシチューやおでんみたいに煮込んだほうがウマイらしいが、残暑厳しいこの時期だとちっとばかしキツイ。串焼きだと人様が食べるために育てた牛にはかなわねえが、それでもウマイだろ」
「悪くないわね。こっちはあまり好きじゃないけど、好みがわかれるって感じよ」
「私のげそ焼きなんだけど……クラーケンはアンモニア臭がひどいから食べられないって聞いたけど、そんなの感じないね」
「クラーケンの成体は旨味が凝集されているせいで匂いがキツイが、幼体はあっさりな風合いになる代わりにそういう匂いがしにくいんだ。新鮮なものならイカソーメンにして醤油をつけるとウマイ」
「その幼体を捕まえようにも、成体が近くにいるせいでどのみち成体を倒さねえといけねんだけどな」
「あ~、それはめんどくさいね。海中戦なんて死亡率めちゃくちゃ高いし」
「ところがどっこい。音石の異能ならわざわざ海中に潜らなくても、ソナーによる探索と水中で威力を増す音響兵器として戦えるってワケよ」
空なら赤羽、陸ならゴンゾー、海なら音石とそれぞれの地形に合わせて活躍できるエースがいる旧・ダンジョン部は中黄校で選りすぐりの実力者の集まりなのだろうと思い知らされる。信二たちが食べ終わると、入れ替わるかのようにポニ子もやってきた。その右手にはバナナチョコ、左手にはフランクフルトをもった二刀流である。
「なんだかんだ天使も随分と楽しんでるじゃねえか」
「はい。焼きそば1つ下さい」
「あいよ」
焼きそばができるまでの間、パクパクと手持ちのチョコバナナとフランクフルトを食べていく。食べ終るころを見計らって、透明なトレイに入った焼きそばが手渡される。
「この白いのは?」
「成体のクラーケンだ。幼体だと焼きそばソースに味が負けちまうからな。匂いを誤魔化すのに毒消し草を香草として使用している」
「悪臭の原因たるアンモニアは人体に毒だから毒消し草で打ち消せるってワケよ。しかも、毒消し草なんざ珍しくねえから、そこらのEランクのダンジョンでタダ同然で手に入る」
「味はソースで誤魔化せるからな」
「なるほど。その料理に関する知見、文化祭終わりでもよろしいので教えて頂けたいのですが?」
「ああ、別に構わんぞ。3年は文化祭が終わったら部活引退して暇になるからな!」
「ゴンゾーさん、受験大丈夫っすか?」
「ガハハハハ、1、2日程度、勉強しなくても大丈夫じゃわい!」
「わかりました。では、のちほど」
焼きそばをずるずると食べながら去っていくポニ子。そんな彼女たちが食べている様子を見た一般客が興味ありげにゴンゾーたちの模擬店にやってきては、恐る恐る魔物料理を食べ始めては、意外にも美味しく仕上げている手法に驚きながら食べていく。
「毒消し草って匂い消しにもなるのか……他の料理にも使えるんじゃね?」
「そうね。私、探索者じゃないから、こんなの売られていてもって思っていたけど、普段の料理でも使えるわ」
「フグに当たらないとか神じゃね? フグ肝・毒キノコ食べ放題?」
一部の客の口コミやSNSで毒消し草が注目され、そこらのスーパーや専門店から消えるという珍事が起こるのであった。
そんな出来事が起こっているとは思っていない信二たちは体育館で演劇【婚約者に追放された悪役令嬢は隣国の皇太子と結ばれる】を観ていた。
「よくあるざまあ物だと思ったけど、まさか追放した婚約者の王子様が悪役令嬢を逃がすための芝居だったなんて思わなかったよ」
「ええ。ざまあ物のテンプレみたいな名前に、序盤をテンプレ展開にすることで客に最後の展開もざまあさせるテンプレ構成だと思わせてからの、実はヒロインを逃がすためにただ一人残った英雄という王道展開というのは意表を突かれたわ」
「不満があるとしたら王子様の最期かな。あそこはご都合主義でも生きて欲しかった」
「生きていたとしても、演技とはいえ悪役令嬢を傷つけたことに罪悪感を感じながら生き続けるんじゃない? かばって死んだことで、禊を終えた綺麗なキャラ造形だと思うんだけど」
「う~ん、そういうものなのかなあ……」
自分の身も心も犠牲にしてまで愛した悪役令嬢を守りきり、されど民衆からは悪政のレッテルを張られる悲劇の王子に肩入れしたくなるのは当然だろう。みみみがそう思っていると、ふと何かに気が付いたような顔をする。
(そうか……あの王子様、エクステラに似ているんだ)
これまで信二がとってきた自己犠牲の強い行動が劇の王子と被る。もし、転校生:天使という奇策が無かったら、劇中の王子と同じく世間のエクステラの印象は最悪なものになっていただろう。そこからいくら善行を積もうが、張られたレッテルは覆しようがない。
「どうかしたの?」
「王子様みたいな末路はやっぱり嫌かな」
「貴女がそう思うなら、それで良いんじゃない」
信二から帰ってくるのは予想通りの素っ気ない返答。それを聞いたみみみはまるで悲劇の王子のようなことが起こらないように、がっちりと腕を組むのであった。




