第80話 文化祭 part1
文化祭当日。
立て続けに起こった虎西と南雀でのスタンピード事件の影響で開催が怪しまれていたが、無事この日を迎えることができた。ただ、本来メインイベントになるはずだった5大高校対抗戦は2校の惨状も踏まえて中止。代わりに交流戦と名称を変えて、各々勝手にチームを組んできそうイベントや地域交流も兼ねた【宝探しゲーム】が行われている。
(投げやりな感じはあるが、イベント中止して違約金が出るよりかは何かしらのイベントを行ったほうが良いという判断なんだろうな)
【どうでもいいことを考えて現実逃避してません?】
(……バレたか。それにしてもなぜこうなった)
今の信二は明日の昼過ぎの講演に向けて、エクステラの衣装に着替えてチラシ配りである。紛失したカツラはひそかに練習した変装の魔法で誤魔化すと説明しているので問題は無い。つまり、0.5割くらいは本物のエクステラである。正体バレのリスクはあったものの、今、信二が頭抱えている問題はコレではない。
「さっさとチラシ配って、一緒に回ろう!」
「チラシ配りを早く終わらせるのは良いけど、私と一緒じゃなくても良いのよ」
「別にいいでしょう。それにこの恰好で回ったら宣伝にもなるし」
「……一理あるわね」
すぐ隣でちょっとテンションがおかしくなっているみみみである。信二から見れば、一緒にダンジョンに潜っている仲間ではあるが、これほどべたつくような態度を取られたことは無かったので困惑している状態だ。
(みみみに何があったんだか)
【おやおや他人のことは分かっても自分のことは分からない鈍感系主人公ですか~】
(誰が鈍感系だ)
【だってみみみさんはエクステラガチ恋勢。それでもって、自分がエクステラだと正体を明かしたんですから、そのまま恋に落ちてもおかしくないでしょう? イエス、フォーリンラブ!】
(それはネズミの国で着ぐるみの中の人バレしたら、中の人も好きになるかと言われたらノーだろ)
【まーた夢の無いことを……女心が分かっていませんね。理屈で物事が動いても、人の心は動かないんですよ】
(うぐっ……正論過ぎて反論できん…………)
「あっ、お姉ちゃーん!」
ステラとの脳内会話でショックを受けていた信二たちの元に美海が手を振って走ってくる。ほんの数か月前に救出した時以来の再会ではあったが、ドクターが憑依していたときよりも血色がよくなり、みみみに抱き付く姿を見る限り後遺症はなさそうだ。
「元気そうでなによりね」
「エクステラのお姉ちゃん!お姉ちゃんもお姉ちゃんと一緒の学校なの?」
「ええ、そうよ。美海ちゃんも勉強大変だろうけど頑張りなさい」
「うん」
「もー、美海ちゃん早いって」
「ごめん、ごめん」
後ろから遅れてやってきた美海の友達と思われる女子2人と合流し、一緒に敷地内へと入っていく。その後も校門前でチラシを配っていると、遠路はるばる来たであろう親子連れや他校の生徒、地元住民など客層は様々だ。
「それにしてもすごい人数だね。去年はこんなに居なかったと思うんだけど」
「夏休み後半のイベントがスタンピードでつぶれたもの。その反動よ」
「なるへそ~じゃあ、チラシも粗方配り終えたし、私たちも遊びに行こう!」
「それもそうね」
「というわけで、まずは……校舎内から回ろう!」
信二の手をぐいっと引っ張り、校舎の中へと入っていく。1年の教室にあるのは地元たる中黄地区の歴史や直近のスタンピード事件についてまとめたレポートなど学生らしいポスター展示や、お化け屋敷や脱出ゲームといったアトラクション系に分かれている。
「真面目なものは人気無いわね」
「そりゃあ、こんなお祭りの中で辛気臭いの見たくないもん。まずは定番のお化け屋敷から!」
二人が教室の中に入ってみると、そこは真っ暗な夜道をうす暗い提灯の光が照らすお墓の道であった。展示品には触らないが、パッと見レベルでは本物にしか見えない墓石だ。
「おそらくは魔法で墓地を再現しているのでしょうけど……やるわね」
「このお墓に掘られている名前、このクラスの子だよ」
「自分のお墓づくり……どういう気分で作ったのよ」
「田中家とか鈴木家とか佐藤家とかが乱立するよりかはリアリティーあって良いじゃん」
「それはそうね」
墓石に沿って歩いてみると、目の前に火の玉が現れたり、魔法や異能で姿を消していたお化けに扮した生徒が飛び出してきたりとそこらのお化け屋敷と比べても遜色ない、いや魔法を使っている分ビックリ度は上かもしれない。
「キャー怖い」
(絶対怖がっていないだろう)
みみみ、Dtuverにあるまじき棒読みである。迷惑系に走らないと再生数稼げなかったのもこの演技力の下手さなのかもしれないと、片腕に抱き付いてくるみみみを見ながら思い始めた。その一方で、みみみもまたエクステラとしての余裕のある表情を崩さない信二を見て、中々アピールがうまくいかないことに焦りを感じていた。
「(ちょっと強引すぎたかも) 次は2年の展示見に行かない?」
「そうね。中々面白かったから、先輩たちの展示も気になるわね」
今度は階段を上って2階へ。2階の様子は定番のメイド喫茶をはじめとする華やかなものが多く、その中でもひと際目立っているのが――
「…………ナルシーのせいね」
「疑問の余地ないね」
教室の前にはバラをはじめとした花が一面に飾られており、周りのハンドメイドの飾り付けよりも目立つ。その物珍しさに足が止まり、一度中を覗こうとする客たち。そして、中から聞こえる黄色い声。気になった二人も行列に並び、その中へと入っていく。
「「いらっしゃいませ、お嬢様」」
執事服に着替えた男子や男装少女によって席へと案内される。渡されたメニューを見ると『オレ様のバチバチコーラ』『甘い青春のクリームソーダ』『甘酸っぱい恋のレモンスカッシュ』といったコラボドリンクのような名前のメニューが並んでおり、その横には生徒の顔写真が映っている。
「ほっとアイスティーって熱いのか冷たいのかどっちなんだろうね」
「ぬるい可能性もあるわよ」
「やだ~」
「私は……ビューティフルローズティーでも頼もうかしら」
「ナルシーさんが映っているやつだね。私はバチバチコーラにしよう」
早速注文してみると、執事服を着たナルシーがやってきてローズティーを注ぎ始める。どうやらあの顔写真はウェイターを選ぶシステムでもあったらしい。
「お嬢様方、お待たせしました。コラーゲンたっぷりビューティフルローズティーです」
「この店、絶対ナルシーさんの趣味でしょう」
「バレちゃったか。美しい僕を知ってもらうためにも、まずは目立たないとね。そうすれば、僕以外の美しい輝きを持つ子たちも見た貰えるだろ。それにしても、隣にいる子、エクステラにそっくりだね」
「それはどうも」
「……その声、もしかして信二君かい?」
「ええ、そうよ。女の子だと思った?」
「うん。騙されそうになったよ。さっきみたいにわざと裏声使わなかったら、ずっと女子だと思っていたかも」
「誰かに言われたわね。演技力チートだとか」
「私たち、明日の14時から演劇しているので、お友達の方も連れて見に来てください」
「もちろん行くさ。後輩たちの出番もあるからね」
「おっと、今度は俺様の番だな」
立ち去ったナルシーと入れ替わりに少しガラの悪そうな背丈の高い男子。彼がコーラの入ったコップに手をかざして魔法を唱え始める。
「圧縮、圧縮、炭酸を圧縮!」
(一歩間違えれば爆発しかねないのに、顔に見合わず繊細だな。さすがは2年生か)
ブクブクときめ細かな泡が泡立つコーラ。男が立ち去った後、みみみがそのコーラを一口飲んでみると、コーラに凝集された炭酸が口の中で一気に広がり、これまで味わったことのない爽快感が広がる。
「すごいよ。強炭酸を超えた超炭酸って感じで。ちょっと飲んでみてよ」
「……いただくわ」
信二が口をつけて飲んでいた時、みみみはふと気が付く。
(これって間接キスじゃあ……)
あわわと顔を真っ赤にしながらも、信二を見ているとメイクで隠れているが、少し赤くなっているように見える。やっちゃったと思いつつ、戻ってきたコーラを飲んでいくのであった。
外に出た二人は今度はどこに行こうかと窓から外を眺めていると、校庭で人だかりができているの見える。その中心には金ぴかに光るモノ。十中八九、ポニ子だろうと思いながらも、その人だかりへと向かっていく。
「この子が噂の……羽の部分、触っても良いか」
「ええ、構いませんよ」
珍獣でも触れ合うかのようにそっと触れ、その感触を確かめる一般客。中には「ありがたや、ありがたや」と仏様にでもあったかのように拝む者さえいる始末だ。
「私に拝まれても何の御利益もありませんよ? そこにいるのはみみみ様ですね」
「ずいぶんと人気だね~」
「私も困惑しています。異形である私を畏れないのかと」
「理由は3つね。1つは亀北の侵攻の際、死者を出さなかったことで遺恨が残らなかったこと。2つはティアマトの1件で善人であることを示したこと。そして、最後は配信でポンコツっぷりを発揮したことよ」
「最後は失敗しただけですが? なぜ好印象に?」
「人ってのは完璧な存在よりも何かしらの欠点がある方が可愛く見えるのよ。そういう意味ではセラフィムよりも人気があって当然」
ふむふむと納得すっるようなしぐさをみせるポニ子。その様子をみていた一般客や生徒たちがぼそぼそと話し始める。
「あの子、本物のエクステラ?」
「んなわけないだろ。賞金首だぜ」
「ちょいと失礼。あの子はウチのクラスの信二って子。ほら、配信で知恵袋呼ばわりされていた」
「マジ!?」
「どうみても女じゃん!抱けるぞ!」
「メイクこえぇ……」
客に紛れていた宮本が一般人に正体を明かしたせいでざわめきが大きくなっていく。中にはリアル男の娘とかでSNSにあげる始末だ。
「この私の活躍を観たい方は明日14時からの演劇に来てください」
「お願いします」
これだけの衆人観衆を逃す理由は無く、残りのチラシも配り始める。チラシが無くなるころにはすでにお昼時になっているのであった。




