第79話 女子会
「やっと終わった~」
最後のチャイムが鳴り響く放課後、アスカはツッコミ疲れたのか机にぐだ~と倒れこんでいる。その原因たるポニ子は始業式で見かけた別クラスや別学年の子たちも興味を持ったらしく、どんどんと人が流れてきている。
「すごいね、ポニ子。昼間にあげた切り抜き動画がもう100万に迫る勢いだよ」
【猫の絵描いたら真っ黒なウニになった奴ね】
【ダークマターじゃないのwww】
【人間と天使で見え方が違うんじゃないのかと思ったら、ただ美術センスが皆無だった件】
【変身能力は完璧だから、ただただ絵が壊滅だったんだなって……】
【今年3歳になったウチの娘の方がうまい】
【画力3歳児未満www】
【個人的にはバレーのアタックをしようとしてスカる奴を推していたんだが】
「天使だから異能もすごいし、身体能力もすごいと思っていたけど、ポニ子を見ていると案外普通だよね」
【どっちかというとポンコツじゃない】
【ポンコツ天使www】
【でも、ティアマトが現れた時は頼もしかったですわ!】
【異能だけがぶっちぎりで強いだけって感じ】
【中黄って異能禁止の授業が多いんだっけ?】
【中黄生:健全な肉体に健全な精神が宿るとかいう旧世代気味た考えなせいでな】
「でも、私、嫌いじゃないけどね。アスカはどう思う?」
「私? そりゃあ異能使えば楽だけど、ダンジョン探索中常に万全とは限らないし、異能使わなくても戦えるようにするってのは悪くないとは思っているけど。信二はどう思う?」
「俺もアスカとほぼ同じ意見だな。基礎スペックが高ければ、それだけで生き残れる確率は高くなる。とはいえ、異能同士のコンビネーションも重要だから、そちらも疎かにするわけにはいかないがな。要はバランスが重要だ」
「あの~助けてもらってもよろしいでしょうか」
【ポニ子www】
【餌をやっているときの池の鯉みたいに群がっているものなwww】
【天使が助けを求めるレベルwww】
【今日1日で天使のイメージ、変わりすぎだろ】
【だいたいポンコツのせい】
【ポニ子のポはポンコツのポ】
【モンスターみたいなのはともかく、ポニ子みたいに話が通じるタイプが多ければなあ】
【実際、人間みたいに話せる奴ってどれくらいいるんだ】
「ポニ子、質問来ているからこっちに来て」
「分かりました。では、皆様方、残りの質問はみみみ様の雑談動画でお願いします」
「「「えっ~!」」」
「ってか、勝手に予定決められたんだけど!?」
「幾度か先住民と話したことはありますが、ここまで好意的なのは初めての体験です」
「へえ~、そうなんだ」
「だいたいは警戒されますからね……なるほど。では、お答えしましょう」
「では、ポニ子が答える前に問題です。実際、どれくらいコミュニケーションとれる天使が居るか予想しよう。ちなみには私は1万人で」
【多くない? 多くて数百人くらいじゃない?】
【ポニ子って智天使級だろ。智天使級の上澄みでしか喋れないなら10人くらいかな】
【下手したら2,3人レベル?】
【移住してきた民間人もいるはずだろ。だから1千万人くらいはいるんじゃあ……】
【そういえばそうだった】
【移民船団っていうくらいだから何隻かに分かれているだろうけど……百万人くらいはおかしくは無いか】
【1億2千万人】
【5000兆】
「うんうん。ネタ回答はともかく、数十人以下と万単位予想で別れた感じかな。正解は?」
「アクティブ数は教えられませんが、コールドスリープ状態の民間人を含めるのであれば約6万人が正解です」
【結構多いな】
【だいたい初代マク〇スくらいか】
【コールドスリープって聞くとSF感増す】
【実際、起きられるの?】
【そのまま永眠は嫌だぜ】
【熾天使:技術的には解凍成功率8割までは可能だが、資材難と数を優先したゆえに解凍成功率は3割しかない】
【ひえっ】
【ほぼ自殺やんけ】
【2万人が生きていれば儲けものってことか】
【ポニ子の話聞く限り、勝ち抜けないからワンチャン生きられるコールドスリープに賭けたって感じなんだろうな】
【彼女たちの母星って修羅の国で死ぬまで戦えですし……】
【修羅の国どころか修羅の星だからなあ】
「というわけで、ピタリ賞はいませんでした。今日の校内配信はここまで。これからも天使との動画配信はするから、チャンネル登録と高評価よろしくね」
長かった配信が終わり、緊張の糸が切れたかのように机に突っ伏すみみみ。SNSを見てみると、今日の話題は天使のことで持ち切りとなっており、今朝方のエクステラの疑惑なんて無かったかのように思える。それはメディアも同じで、エクステラの疑惑を追及する特番も一部内容を変えて報道するらしい。
こうなれば、堕天使がいくらエクステラの中傷や疑惑を書き込んでも、一般人にとっては過去の話題であり、よほどの新事実が無い限りは「そういうこともあったね」程度しか受け取らないだろう。メディアを巻き込んだ大炎上などもはや不可能だ。
(ほんと、たった1回の配信で世界がひっくり返っちゃった)
その配信を決めたフィクサーであり、被害者でもある信二を見る。ダンジョンの無い、よく似た平行世界から来た普通の大学生だというが、その世界は情報戦に関しては抜けているのかもしれないと余計なことまで考えていると、ぬっとポニ子がその視線を遮るかのように顔を出してくる。
「どうしたの?」
「彼のこと好きなんですか?」
「へっ?」
「今日1日観察していましたが、彼のことをちらちらと見て心拍数の上昇を確認しています。これは恋した時の症状とよく似ており――」
「そんなこと無いって。信二君はただの友達だもん。それよりもせっかく同級生になったんだし、どこかに遊びに行かない?」
「下校中に遊んだり、食べたりする。確かに青春ものと呼ばれる物語によくみられる光景です。アスカ様も呼んで、女子会と行きましょう」
「私? 別にいいけど」
巻き添えになったアスカも一緒に駅前まで出歩くことにした。金ぴかの天使が隣を歩いているということもあって、通行人からはチラチラと視線が刺さる。
「なるほど、これが有名人になった気分というやつですね」
「それはそうよ。金ぴかで目立つし」
「ところで、何かしたいものとか食べたいものってある?」
「そうですね……アニメでよく出てくるハンバーガーは食べてみたいです」
「確かによく出てくるよね~それじゃあ、ワクドに行ってみよう」
駅前にある有名なハンバーガーチェーン店に入り、「いらっしゃいませ」と声を掛けた店員が笑顔を崩さないように努力しているが、どうしても引きつった顔になる。
「ご、ご注文をどうぞ」
「月見は明後日か~しょうがない、てりやきセット下さい。飲み物はコーラで」
「チキンフィレオとジンジャーで」
「では、私はダブチのセットで、バニラシェイクを」
「か、かしこまりました。お持ち帰りでしょうか、テイクアウトでしょうか?」
「「「店内で」」」
懸命の反抗もむなしくガクリと項垂れた店員は、みみみたちに番号札とレシートを渡すのであった。
「それにしてもよくお金があったね。政府とか自治体とかから貰ったりしているの?」
「まさかだとは思うけど、葉っぱをお札に見せかけているとか無いでしょうね?」
「交渉中相手に金銭の要求はしませんし、本物ですよ」
「だったらどうやって?」
「普通にバイトですけど? 人間に化けて」
「「……えっ?」」
「身寄りや戸籍の無い人でも働ける制度を利用して、日雇いの仕事をちょいちょいと」
「確かにスタンピードで孤児になった人用の制度けどさあ……悪用じゃない?」
「……もしかして化けたポニ子ちゃんに出会ったりする?」
「何それ、こわっ」
「残念ながら、異能持ちが集まる学園都市よりも他の地域で働いた方が正体バレしにくいということで、出会う機会は無かったですね」
「良かったというべきか、知らぬが仏というべきか……」
初めての学校電光掲示板に自分達の番号が表示されたので、さっそく受け取り、食べ始める。ポニ子が小さな口でモグモグとハンバーガーを食べる姿は、どこか子供っぽく可愛い。
「そういえば、人間に化けていた時に誰かと一緒にご飯とか食べなかったの?」
「そのときの目的は金稼ぎや交流ではなく、潜入捜査です。正体ばれを避けたかったので断りましたね。それに大気中にある魔力を吸収さえすれば極論食べる必要がありませんから」
「へえ~、そうなんだ。霞を食べる仙人的な。でも、今日、お昼食べていたよね?」
「いくら私たちが魔力だけで賄えるとはいえ、寄生元の生命体の生態に大きく影響を受けるので、食事という行為が人間でいうところの酒やたばこに近い嗜好品に近いかと」
「ああ。無くても生きているけど、とりたくなる的な」
「そういうことです。ところで、お二人は信二様と付き合う予定は?」
「さっきも言ったけど、無いって」
「……無いわよ」
「なるほど。それなら私にも芽があると言うことですね」
「「えっ?」」
「私も恋愛をしたいのです。となれば好意を持っている異性にアプローチをするのは当然の流れでは?」
「でも、恋ってしたいからするものじゃないと思うの?」
「そ、そうよ!恋って自然になるものよ!」
「では、みみみ様とアスカ様において恋とは? 少なくとも私は信二様が定義した恋の定義に当てはまっています」
「確か『身分や立場関係なく魅力を感じること』だったっけ?」
「どうみても理屈っぽい答えよね」
「ええ。ですから恋しています。ですから、次の過程、恋愛をしたいのです」
「そ、そうなんだ……」
「とはいえ、横恋慕は馬に蹴られて地獄に落ちろと言われるので、まずはみみみ様とアスカ様の許可を貰ってからかと」
「エクステラキチはともかく!なんで、そこで私!?」
「ツンデレ乙ですね」
「はっ倒すわよ!」
コントみたいな光景に苦笑しつつ、みみみはコーラを飲みながら、自分の気持ちについて考える。正体を知るまでは信二はただの友達で、エクステラは自分たちの恩人で好きな人だった。でも、正体を知ってからは、自分の気持ちが纏まらず、ぐちゃぐちゃになっていた。
(エクステラは今でも好きだけど、信二君のことが好きかと言われるとう~ん……それは違う気もする)
『みみみ、貴方のことが好きよ』
『みみみ、お前のことが好きだ』
エクステラと信二が同じように自分に告白したら、どちらにトキメクかと言われると俄然前者である。そこは間違っていない。同性(?)愛者なのかと言われれば、アスカやサキたちが同じセリフを言ったとしてもときめくことは無い。
(こう考えると私の恋愛対象ってやっぱりエクステラなんだよね)
でも、同一人物である。だからこそ、ややこしくなっているわけだが。自分の中にあるモヤモヤとした感情。これが恋なのかどうか、それは自分でも分からなかった。それはおそらくアスカも同じなのだろう。
「……恋って何だろうね」
「私にもわかりませんが、学生の恋愛イベントといえば、文化祭でのデートと聞きました。2日ありますし、初日はみみみ様、2日目をアスカ様がデートしてみたらどうでしょう。文化祭が終わっても、お二人方の仲が進展してないようでしたら、私もアプローチさせていただきます」
改めての恋のライバル宣言である。そして、自身の抱いているモヤモヤとした感情をこのままにしておきたくはない。となれば、答えは一つしかない。
「信二君とデートしてみるよ!」
「アンタ、正気!?」
「その意気です。アスカ様はドロップアウトということでよろしいでしょうか?」
「はあ? 私もするに決まっているでしょう!」
焚きつけたアスカとみみみを見ながらシェイクを飲み干していくポニ子。信二の知らないところで、女子たちの陰謀が動こうとしているのであった。




