第78話 校内生配信
学園都市どころか日本を揺るがすほどの大事件が起こり続けた激動の夏休みが終わり、今日から新学期が始まる。被害が少なかった中黄生は対岸の火事かのように夏休み中のことを話している。ただ、その中にはエクステラの話題も紛れており――
「エクステラがスタンピードを引き起こしたって本当かな。だとしたらショック~」
「虎西のやつも自作自演なんだろ。だとしたら、さっさと捕まってくれねえかな。人為的にスタンピードを起こせる危険性から懸賞金も30億になったって聞いたしな。100倍だぜ、100倍!」
「それってデマじゃなかったか?」
「そうだっけ?」
「臨時予算通したら解散総選挙するんだから、懸賞金の吊り上げしている暇ねえじゃん」
「あ~、そういやそうだった。でも、あの疑惑が本当ならありえるんじゃね?」
「30億ってことは麦わらくらいだろ。それくらいの活躍は……しているな」
「ちげえねえ」
ギャハハハと笑いながら登校する男子生徒たち。掲示板、SNSの真偽混ざった情報を取り上げるインフルエンサーの配信により、スタンピード事件までの英雄的評価から一転、今や、エクステラは疑惑の英雄となり、討伐を期待されている大罪人となった。メディアがこの問題を取り上げるのももはや時間の問題だろう。
(あ~、もう!みんな好き勝手言って!!)
そんな中、真実を知っているみみみはぷんぷんと怒りをあらわにしながら、自分の教室で久しぶりの配信の準備を進めていた。本来ならば、授業内容を校外に発信する行為自体は禁じられているが、生徒会所属のナルシー先輩たちに事前に話した結果――
『夏休みに色々とあったからね。親御さんたちも、学園都市に進学させるのは危険じゃないかと思うかもしれない。そうなったら、中黄高も困るだろ。授業中の配信で事件の影響なんてない元気な高校生活を送っているってアピールするってのは良い案だとは思うけどね。僕の意見はこうだけど、月影生徒会長さん』
『もう一つの案件も社会への影響を考えれば少なからずプラスになると思っています。教員への説得は私たちがやっておきましょう』
ということで特別に許可を頂いたうえでの配信だ。この配信を始めるまで、エクステラの大炎上を見るしかなかったが、ここからは反撃の時間だと配信スイッチを入れる。
【おっ、始まった】
【自作自演チャンネルはここですか】
【心配してたぞ】
【土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!土下座!】
【この人〇し!】
【タヒね】
【やっぱ変なの湧いてやがる】
数々の誹謗中傷コメントに今までの配信とは異なる空気が流れてくる。ただ、それでも自分の動画を今まで見てくれてくれた人も居て、『学校で配信?』『HRの配信ってええの?』と不思議そうに尋ねてくる。
「今回は特別に許可を頂き、なんと中黄生の一日を生配信!」
【おお!】
【マジで!】
【はいはい、嘘乙】
【隠し撮りでしょ、通報します】
「隠し撮りじゃないって。さすがに着替えみたいなセンシティブなところは中断するけど」
【それはさすがにね】
【ちっ】
【↑通報するなら、こいつだろwww】
【それはそう】
アンチコメントは無視、あるいはネタにしつつ、視聴者たちといつものノリで話しているみみみ。少し前まで迷惑系だったこともあって、アンチや炎上はお手の物なのかもしれない。
そのせいか配信直後にいたアンチたちが鳴りを潜めていたとき、担任の先生が入ってくる。だが、その表情はなぜかこわばっており、何も知らない生徒たちにもその緊張感が伝わっている。
「えっ~と、本日は学校側からの依頼で大成さんにみんなのクラスの様子を配信してもらっていましゅ」
【噛んだwww】
【本当に学校の依頼かよwww】
【大丈夫かよ、この担任】
「と、とにかくくれぐれも変なことをしないように!あともう一つ、みんなに伝えないといけないことがあります」
「「「な~に~?」」」
【ゆるっ!?】
【この担任、なめられてねえ?】
「本日、転校生、転校生? ともかく、新しいクラスメートがやってきます」
「女の子ですか? 男の子ですか?」
「女の子? 女の子であっているわよね……」
【なんで言いよどむwww】
【男の娘かもしれない】
【ついててお得】
【せっかくだから、俺はアンドロイド説を推すぜ】
【性癖暴露会場はここですか】
「でで、では、中に入ってもらえるかしら」
「黒板けしの罠が無いのは不満ですが、良いでしょう」
「そそ、そんなことを許したら私のクビがとびます。物理的な意味で!」
怯えている担任をよそに不満げな感じでガラガラと扉を開けて入ってきたのは、金色ボディを惜しみなく輝かせながら、中黄の女子制服をきたポニ子だった。
「みなさま、初めまして。ポニ子と言います」
「「「えっ?」」」
【はあ?】
【はあああ?】
【はあああああああああ!?】
【なんで天使!? なんで!?】
【文部科学省、仕事しろ!】
ポニ子がやってくることを知らない生徒や視聴者たちから絶叫の声が波のように押し寄せてくる。いくら停戦を結べるほどの知性を持つ異星人とはいえ、人を襲っていたこともあり、モンスターと認識している人間は多い。それが堂々と制服を着て登校しているのだから無理もない。
「先生!どういうことか説明してください」
「わ、私も今朝、校長から『君、確かクラスに欠員いたよね。新しく転校してくる(という設定の)子が来るから。何かあったらクビどころか、国際問題だからね。くれぐれも粗相の無いように』って言われて……上級国民的なお偉いさんの息子か娘さんが来るのかなと思っていたら、コレよ!」
「コレ呼ばわりするのは如何かと?」
「ひいいいい、ごめんなさい。ごめんなさい。何でもしますから!許してええええ!」
【ん?】
【ん?】
【ん?】
【今】
【なんでもするって】
【言ったよね】
【お前らwww】
【この連帯感好き】
「と、とにかく、転校生? 本当に転校生って呼んで良いのか分からないけど、質問タイムに移ります」
「はい!ポニ子ちゃんって本名ですか?」
【普通に適応していて草】
【このクラスの生徒、スルー検定レベル100やろ】
【もしかして常識人なのは担任だけ説ある?】
【はは、まさか】
【熾天使:機密に触れない限りは答えても良いぞ】
【wwwww】
【wwwwwwwwwww】
【保護者召喚に草生える】
【保護者wwww】
【最高指導者が平日の朝から配信見るなや】
【部下が生放送に出ると言われれば、チェックするのは当然では?】
「セラフィム様より許可を頂きましたので、お答えします。私たちには識別番号が割り振られており、それが本名といって差し支えありません。このポニ子という名前はそこの目をそらしておりますアスカ様に名付けてもらったものです」
「えっ、アスカちゃん、ポニ子ちゃんと知り合い?」
「そういや、天使が入って来た時ツッコミが無かったな」
「そうそう『なんで天使が転校するのよ』とか『アンタ、学生じゃないでしょう。どこの高校出身よ』とか言いそうだもんな」
「なんで私、ツッコミ芸人みたいになっているわけ!」
「本職では?」
「本職じゃないわよ!ポニ子!」
「次、俺!ポニ子ちゃんは好きな子とか彼氏っていますか?」
【なんでこの子たち、普通に接しているの?】
【わからん】
【全員頭のネジ吹っ飛んでいるのでは?】
【全員狂人のクラス】
【人狼は天使か?】
【担任はまだまともやったやろ】
【村人1人、人狼1人、他狂人】
【↑村人詰んでいるやんけ!】
「彼氏を恋愛の対象と考えた場合、彼氏はいません」
「セラフィムさんは?」
「慕ってはいますし、尊敬もしていますが……そもそも恋愛とはなんでしょう?」
「えっ~と……信二パス」
「宮本、なんで俺に回す」
「小難しいこと得意じゃん」
「まったく……恋というのは他人に身分とか関係なく魅力を感じるものだ。強さなり、賢さなり、やさしさなりな。そして、その相手と相互に理解することで愛に代わる。つまり、恋愛と言うのは恋から生まれ、愛に至る過程を意味指す。相手を一方的に慕っている限り、恋になることはあれど、愛になることはない。わかりやすく言うなら、どこぞのアイドルのガチ『恋』勢は居ても、ガチ『愛』勢はいないってことだ」
「そういや、そうだよな」
「熱愛はあっても熱恋なんて言わないしな」
「熱愛報道があるってことは、確かに付き合っているわ」
「よっ、さすがはクラスの知恵袋!」
「なるほど。では、セラフィム様は彼氏ではないと定義付けます」
【熾天使:勝手に振られたんだが】
【wwwwwwwwwww】
【wwwwwwwwwwwww】
【大草原不可避】
「はいはい!エクステラのこと、どう思いますか?」
男子生徒の質問に沸いていた場の空気が一瞬凍り付く。今、エクステラは英雄ではない。大罪人だ。視聴者もそれをわかっているのか、ポニ子の返事を静かに待とうと流れていたコメントがピタリと止む。
「私どもが彼女とファーストコンタクトを取ったのは虎西の時が初めてです。それ以来、光学迷彩を使って彼女を監視しておりました」
(初めて聞いたぞ……ステラ、知っていたか?)
【たま~にちょっかいを出してくるEX-06の監視網を掻い潜るのに力入れていましたし、智天使級が全力で光学迷彩されていると気づけませんよ】
「結論から言いますと、セラフィム様と同程度には尊敬の念を抱いております」
【熾天使:えっ?】
【wwwwwwwwwww】
【wwwwwwwwwwwwww】
【またしても大草原不可避】
【上司と同じくらい尊敬しているとかどれだけ評価高いねん】
【自作自演しているからあたりまえだろ】
「どうして尊敬しているのか、不思議に思っている方が多いと思うので説明します。3000年以上前、第1次移民船団が出航しても母星に住んでいた人たちは争いをやめず、生き残るためなら他人を害するのは当たり前でした。そんな風潮の中、セラフィム様は争いに疲れた者たち、母星を見限った者たちをまとめ上げ、数少ない資源をやりくりしながら第二次移民船団を出航させることに成功しました」
「あの……母星に残った人たちは……」
「私たちが出航した後も、最後の最後まで残りかすのような資源の奪い合いをしていたそうです。そのような中で生まれ、育った私ですからセラフィム様のように他人を尊重するという考えは理解できませんでした」
「もしかして、セラフィムさんって凄い人……?」
「ですから、私はセラフィム様にお仕えしております。そして、私が監視していたエクステラ様は、他人を見捨てるような真似はせず、どれだけ自分が傷つこうともあきらめず、どれほど窮地に立たされても逆転の一手を手繰り寄せる姿を見た時、在りし日のセラフィム様の姿と重なったのです」
【俺たちが知っているエクステラ像とは違うな】
【エクステラっていえば、俺たちの知らないことを何でも知っているし、連戦連勝の無敵キャラだけど……】
【俺たちの知らないところで泥臭く戦っていたんだな】
【配信での華々しい活躍の裏には血のにじむような努力があるとは言われているけど、エクステラも例外じゃなかったのか】
「もし、私が彼女と同じ立場に置かれた時、同じように戦えたか言われると、答えはノーと言わざるを得ません。先日のティアマト戦を経て、そう結論付けました。それゆえに、私はセラフィム様と同じくらいエクステラ様を尊敬しているのです」
【でも自作自演だろwwwwwww】
【騙されるな、そいつらもグルだ】
【天使は日本を乗っ取ろうとしている】
「ですので、エクステラ様の敵になるというのであれば、私の敵になると同じです。くれぐれも夜道にご注意ください……神奈川県在住の小森澄夫様、埼玉県在住の中林武様、大阪府在住の大森祐樹様」
【えっ?】
【誰?】
【もしかして、さっきのアンチコメントの人の名前?】
【そんなわけあるか!】
【そうだでたらめだ!】
「えっ~と、もうすぐ朝のHRが終わるので、次の質問で終わります」
「はい!羽触って良いですか!」
「俺も!」「私も!」
「構いませんよ。ただ、むしり取ってはいけません」
気になっていた生徒たちが次々と立ち上がってはペタペタとポニ子の大きな羽を触っていく。
「見た目は羽毛っぽいのに、ツヤと良い、質感はプラスチックにちかいのね」
「本当だ。ツルツルしてる」
「ちなみにこの翼は消すこともできますよ」
【シルエットだけだと人間に見えてくるな】
【さすがに金ぴかボディーとかヘイローあるから、人間と間違えることは無いけどな】
【顔ものっぺりしているしな】
視聴者のコメントに反応したのか、ポニ子が光り輝いたかと思うと釣り目のポニーテール少女に早変わりする。肌の色も金色から色白になっており、頭のヘイローも消えており、もはや人間と遜色ない。
「これは私の異能のちょっとした応用です。潜入捜査するときは重宝しているんですよ」
「すごい、人間になれるんだ」
【ちょい待てや!こんな子が街中歩いても天使とは気づかんで!?】
【くれぐれも街中で天使やエクステラの悪口を言ってはいけません。その隣にいる人物が天使かもしれませんから】
【なんで急にホラーになるんだよwww】
【なお、人間になるんだ程度で受け入れるクラスメート】
【平和ボケかな?】
【頭のネジが無いノーネ】
「ちなみに、見た目を誤魔化しているだけなので……今、翼を出したので、翼があった空間を触ってみてください」
「あっ、何もないはずなのに何かある」
「本当だ。すげー違和感」
「老若男女問わず化けることができますが、体型自体を変化させているわけではないのが弱点なんですよね。ですので、変身後の姿はできる限り、近い体型にしています」
【170cm弱の人間、全員天使候補な】
【だいたいの日本人、それくらいはあるだろうが!】
【平均身長じゃん!】
【そもそも触らんかったら、それ以下もそれ以上も候補じゃい】
「今回は潜入捜査ではなく異星間の交流の一環としてなので、天使姿で登校させてもらっています」
「というわけで、朝のHR終わり。今日は始業式あるから、遅れずに体育館に行ってね」
ポニ子という特大爆弾を残してそそくさと退却する担任をよそに、まだまだ質問が足りないと詰め寄る生徒たち。恐れを知らないその様子に視聴者たちは「これが若さか」とつぶやくしかないのであった。




