第56話 ダンジョン崩壊 part1
翌朝、ネットニュースを見てみると、今日の午後から恐竜ダンジョンのスタンピード疑惑への記者会見が行われるらしい。みみみの配信を見て、異常だと思った探索者からの問い合わせが増えたのが要因だろう。少し肩の荷が下りたことで、目の前の密林エリアの攻略に頭を切り替える。
「サキ、ティラノの反応はありそうか?」
「モンスターの数が多くて……ちょっと特定は難しいです」
「仕方ない。大きなモンスターがいる場所だけ教えてくれ。しらみつぶしになるが、目標がないまま密林を探索するよりかはマシだ」
「はい」
マップに赤い光点が示され、それを頼りに密林エリアへと足を踏み入れる信二たち。十数分歩いたとき、周りを警戒していたタロが吠え、それと同時に信二が警戒態勢を取らせる。草影から現れた数頭の小型恐竜。
「早速ヴェロキラプトルのお出ましか!気を付けろ!」
ヴェロキラプトルが突撃してくるのを防ごうとリョウが前に出る。両手は既に刃に変形させてある。その刃を振るおうとしたとき、ヴェロキラプトルがその脚力を生かしてリョウの頭を踏みつける。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
「そんなこと言っている場合!クイックボム!」
空中から後ろにいる信二たちに襲い掛かろうとしたとき、突如目の前に現れたぬいぐるみが爆発し、地面に叩きつけられる。小型のぬいぐるみを即座に転送させることに特化させた魔法であり、爆発によるダメージは軽微。だが、ヴェロキラプトルの小さな脳を揺らすことには成功しており、即座に起き上がることは出来ない。身動きが取れないヴェロキラプトルに信二が銃弾を叩きこみ、その脅威を消し去る。
(思っていた以上に数が少ない……となれば)
信二が精度を落として探索魔法の範囲を広げる。すると、背後から気配を消して動いている複数の個体を探知する。目の前にいるヴェロキラプトルは囮、本命は背後の部隊であることを悟ると同時にタロもその気配に気づいたのか皆を守るかのように背後に回る。
「後ろは俺たちに任せろ!」
人間に感づかれたことに気づいたヴェロキラプトルがこれ以上気配を隠す必要はないと思ったのか、殺気を出し、音を立てて駆けだしていく。彼らの目の前に映るのは弱そうな小動物と人間二人。大したことは無いと思いながら襲い掛かろうとする。
「タロ、武装展開!」
「ワン!」
タロの身体に鋼鉄の鎧が纏わり、ヴェロキラプトルに突撃していき、その勢いのまま弾き飛ばす。その強さにヴェロキラプトルは脅威と感じたのか、人間よりも優先して排除しようとする。ひっかき、噛みつき、尻尾ではたく、ヴェロキラプトルがタロを倒そうと躍起になろうとしても、それらをカナの掛け声一つで躱し、隙あらば体当たりしてよろけさせる。
人馬一体、いや、人犬一体と呼べるコンビネーションに惑わされている中、隙だらけになっているヴェロキラプトルを信二が正確に射貫く。襲い掛かってきたヴェロキラプトルの群れはその数を徐々に減らし、苦戦することなく倒し切るのであった。
【888888888】
【あれだけのヴェロキラプトルに襲い掛かられたら普通は脱出する】
【ワイもや】
【これは深層に行けるパーティー】
【しかも、学生の1、2年。伸びしろ考えたらプロのスカウト待った無しやろ】
「こんなところで手間取っていたら深層攻略なんてできないもんね」
「ああ。だが、慢心せずに行こう」
その後も、襲い掛かってくる恐竜たちを倒しつつ、密林の奥へと足を踏み入れていくと巨大な恐竜の姿が見える。それは紛れもなく恐竜の王様、ティラノザウルスであった。
【おお、でけー】
【何mあるんだよ】
【個体差によるけど、ティラノザウルスは十数mくらい。T-REXは20m超えるって聞いたことある】
【つーかさ、なんでティラノ『ザ』ウルスなの? 正しくはティラノ『サ』ウルスじゃね?】
【稀にだけど10mくらいの通常個体のティラノ『サウルス』が出てくるから、ボス個体は『ザウルス』呼びになったらしい】
【まだ2層しかないと分かっていなかった時期に名付けたルールだから、他の恐竜系モンスターに適用できる表記なんだよな】
【表記ゆれとかじゃなかったんだ……】
【深層に行けるようになって同じティラノサウルス系ボスにT-REXの名前がついたわけ】
【ボスティラノとかにしたらよかったのにな】
【それはゲームっぽくて嫌】
【ただギルドや役所に報告するときに誤字しなくなるのはうれしい】
視聴者たちがワチャワチャ騒いでいる中、信二たちはあたりを伺う。さすがに肉食恐竜の王者の前に出てくるような恐竜たちはおらず、周りに雑魚恐竜の姿は見えない。戦うなら絶好の好機である。
「よし、プランAで作戦開始だ」
事前に打ち合わせた通り、リョウが飛び出してティラノザウルスに信二から手渡された匂い玉を投げつける。
「喰らえ、アイアンカッター!」
腕の射出部機構から発射された鋼鉄の刃が匂いでひるんでいるティラノザウルスの皮膚を切り裂いていく。だが、その傷も驚異的な再生能力でたちまち治るも、ティラノザウルスのヘイトを稼ぐには十分。
嗅覚も封じ、怒りで視野狭窄になったティラノザウルスはリョウに向かって攻撃をしていく。
「ヒールチェイン」
だが、リョウの身体に繋げられた細いワイヤーからリカの回復が届く。ティラノザウルスが力任せに攻撃しても、回復付きの鋼鉄ボディのリョウを押し倒すことができない。そこで、尻尾を大きく振り回して攻撃しようとした瞬間――
「瞬光斬!」
周囲に無警戒なティラノザウルスの背後に回ったカケルが尻尾を切り落とし、リョウへのテールスイングを封じる。勢いそのまま、その場でくるっと一回転するだけになり、隙だらけになったティラノザウルスの頭部に向かって木の上から飛び降りたアスカの拳が叩きこまれる。
「足場を崩す!」
「パワーウィップ!」
よろけているティラノザウルスの足元に放たれた銃弾が足場をアリジゴクのように変化させ、バランスを崩す。追い打ちを掛けるように植物のツタが薙ぎ払い、ティラノザウルスを倒れこませる。
起き上がろうとしているティラノザウルスに向かってみみみの爆弾や信二のグレネードランチャーがさく裂し、爆風でその手を払いのけ続ける。さらにサキのツタによるバインドでその腕や足を拘束し、身動きを封じていく。力さえ入れば千切れるかもしれないが、千切れた尻尾の再生や腕へのダメージ回復に回しているため、うまく力が入らない。
「これで終わらせる!ビッグインパクト!」
アスカが腹部に向けて強烈な一打を叩きこみ、ティラノザウルスを悶絶させる。ピクピクとけいれんを起こしているティラノザウルスにカケルの斬撃が介錯する。
【ホワッ!?】
【本当に学生の少人数パテが倒したぞ】
【ハメ殺しひでえ】
【ほえ~、尻尾切れば簡単に倒せるんや】
【あの尻尾攻撃でどれだけの被害がでていたかと思うけど、簡単やな】
【(普通は尻尾を一撃で切り落とせません。よい子は真似しないように)】
【ほんと剣士くんの火力ヤバいよ】
(まあ、カケルの火力ありきの作戦ではあるな)
ティラノザウルスの最も強力な範囲攻撃でアタッカーが全滅しかねないテールスイング封じの部位破壊。これを早々に行うにはカケルの攻撃しか方法は無く、その一撃を叩きこむための隙づくりと作戦立案していた。今回は取り巻きが居ない最高の状態ではあったのも運が良かった。
「鍵ゲット。確か、扉は中央エリアにあるんだよね」
「ああ、中央エリアにポツンと扉がある。青い狸のどこでも行けるドアみたいにな」
「あれ、猫型ロボット……」
カケルが何か言いたげな様子ではあったが、気にせず、中央エリアへと足を運んでいく。ティラノザウルスすら圧勝した信二たちに敵う恐竜がいるはずも無く、すいすいと扉の前までたどり着く。その道中、視聴者たちから記者会見の内容を纏めたコメントが届いていた。
『現在、1階層のモンスターが増加しているがスタンピードを危惧するほど増えていない。その原因を探るべくAランクの調査隊を数日前から派遣しているが、まだ報告は届いていない。安全のため、恐竜ツアーに関しては余計な混乱を招かないように満席表示にして新規の受付は現在中断している』
現在は恐竜ツアーは満席表示ではなく、新規の受付をしていないと書かれているそうだ。だが、その原因がまだわかっていないのが気がかりではあった。一抹の不安を抱きながらも、カケルたちが階段に続くはずであった扉を開けると、視聴者共々、息を吞む光景が広がっていた。
「なっ……!?」
そこに広がっているのは2階層目の草原エリア。セーフティーゾーンである階段が全く見受けられない。それが意味することはたった一つしかない。
「ダンジョン崩壊現象……」
【まずいって!?】
【階段がねえぞ!】
【管理人さんがつけ忘れた?】
【誰だよ、ダンジョンの管理人www】
【草生やしている場合じゃねえ!虎西の連中、そこから離れろ、今すぐに!】
【自衛隊に連絡しろよ!今すぐ!】
【なにおき?】
【本来あるべき階段がないってことはダンジョンとしての仕組みが崩壊しているという証拠。つまり、ダンジョン崩壊現象が起こっているってことだ!】
【ダンジョン崩壊現象が起こると、ダンジョンの絶対的ルールであった地上にモンスターが出ないというルールさえ無くなる。つまり、地上にモンスターがあふれ出るってことだ!】
【大体の場合、モンスターの大移動、スタンピードがほぼ同時に起こっている。スタンピードが起こっているなら、層跨ぎしてきた強いモンスターに生息地を奪われた弱いモンスターは住処を求めて地上へと目指す。そこにあるのはモンスターによる大量虐殺だ】
【1970年ごろに起こった大規模なダンジョン崩壊現象だと中東の一国が地図から消えたくらいにやべえ現象なんだ。だから逃げろ!】
「……サキ、草原エリア内のサーチはできるか?」
「えっ、できるけど……」
【正気か!?】
【大人に任せて子供は逃げろ!】
【社会人ギルドだっているんだ。今、深層アタックするのは自殺行為だぞ】
サキのサーチ結果を見ると、深層エリア内の光点の量は群れを幾つか為しているが、スタンピードを示しているような量ではない。
(深層のモンスターが1階層に漏れ出していたとしても、まだスタンピードは起きていないか。つまり、深層のモンスターの生息地を脅かしているモンスターを倒せば、スタンピードは無くなる。だが、その猶予はほぼ無い。調査隊から連絡が無いのも、おそらくは……となると、俺たちが撤退すればスタンピードを事前に防ぐことは難しいだろう)
自分たちで深層に行くためのティラノザウルスはすでに倒してしまっている。リポップするには多少の時間がかかることから、今から対策チームを編成してもすぐに深層には行けない。今、この場で深層に行き、脅威を取り除けるのはこの場にいる8名だけなのだ。
(一般人の犠牲はやむなしと見て安全策の撤退か全てを救うために危険を承知の上で未知のモンスターに挑むか。究極の二択だな。部隊長として判断するなら間違い無く前者だが……)
「信二君、行こう」
「カケル、正気!?」
「そうだぜ。自衛隊に任せた方が良いって!」
「きっとピーちゃんだってこれは仕方がないと思ってくれます」
【思わんぞ。むしろ、行くのじゃ】
「そこは空気読んでください」
(そうだな、主人公ならそう言うはずだ。それならば、モブがやることは一つしかない)
【あーだこーだと理屈をつけても結局、そうなりますよね。さすがは私の見こんだ美少女!】
(男だがな。それに一般人の犠牲を最小限にできる方法があるなら、たとえ分が悪かろうとしない理由がない)
「……作戦変更だ。目的は深層に潜むスタンピードを起こしてるモンスターの調査。攻略ではなく威力偵察を目的とする。現勢力で勝てないと判断した場合、直ちに緊急脱出装置で地上へと戻り、各ギルドと連携をとる」
「信二君も正気!?」
「馬鹿なあたしで知っているくらいにはやばいって」
「みみみ、今回だけ迷惑系Dtuberに戻ってくれないか」
「しょうがないな~良いよ。作戦に必要なんでしょう?」
「ああ。本来は深層の配信はご法度だが、迅速な情報共有のため配信を続ける。緊急事態かつ大義名分あっての配信。かなり黒寄りのグレーゾーンの配信だが、お目こぼしされる可能性は高い」
「グレーゾーンの配信なら迷惑系の本領発揮ってことだね」
【こいつら正気か!?】
【死ぬとこ見たくないんだけど!】
【でも、配信を続けてくれたら対策もしやすくなるかも】
【死ぬな!】
【助けてくれ、エクステラ!】
「ってことで、迷惑系Dtuberみみみ、一夜? 二夜になるかもしれないけど今回限りの復活だよ!盛り上げていこう!」
魔法で迷惑系をやっていたころの派手なピンク色のヘアカラーに染め上げ、カメラにパフォーマンスをするみみみ。虎西地区数十万人の命を懸けた深層違法配信が始まるのであった。




