第54話 恐竜ダンジョンへ
遊園地のアトラクションかのように大きく口を開けたティラノザウルスの頭部を模した建物を見上げる信二たち。その横には『恐竜焼き』とかいう餡子の入った丸い和菓子に恐竜の刻印をつけたものや恐竜グッズを売っているお土産屋さんまである。商魂逞しい姿を見つつ、信二たちは建物の中へと入っていく。
「なんか食べられているみたいだね」
「恐竜ダンジョンのゲートは観光施設として売り出されているみたいだからな」
「緊急脱出装置があれば安全だもんね」
何しろ、タイムスリップしたかのように生きた恐竜が見られるということもあって一般観光客が怖いもの見たさで中に入るツアーまで組まれている始末。とはいえ、EXギアがあっても命の保証はないため、入る前に遺書を書かされることになるのだが。
「さてと、中に入る前に再度確認しておくぞ」
信二がゲームで得た知識を混ぜながら、この恐竜ダンジョンについての情報を話していく。
このダンジョンは東西南北、中央の5つのエリアに分かれている。ボスモンスターであるティラノザウルスは東の密林エリアで見かけることが多いが、他のエリアでも徘徊している可能性があるため、油断は禁物である。
ティラノザウルスを倒すことで二階層に降りるためのカギを入手でき、そこにいる同じく徘徊系ボスであり、ティラノザウルスの亜種であるT-REXを倒すことでダンジョンクリアになる。
「今の時間帯は西の草原エリアにゲートの入り口が出るようだ。中央の荒野エリアを通って密林エリアへ移動。野営時はアスカ、カケル、サキ、カナエのAチーム、俺とみみみ、リョウ、リカのBチームに分かれて見張りと休憩を4時間毎に取る」
ただ、問題はAチームの恋愛問題。信二がアスカの方をチラリと見るが、少なくとも表向きは昨日のことを引きずっていないように見える。人手が足りているなら別チームにすることもできただろうが、あいにくその余裕はない。
(昨日の今日だ。気を付けたほうが良いかもしれんな)
態度に出ないように気を遣いながら、8人はダンジョン内へと入っていく。ゲートをくぐると、そこは亜熱帯の太古の地球を模した大草原。そんな中、草をムシャムシャと食べていたトリケラトプスがこちらに気づいたのか、伺うようなしぐさをした後、3本の鋭い角を任せた突進を仕掛ける。
「いきなり攻撃を仕掛けてくるか!」
「俺に任せろ!」
特訓の成果を見せようとリョウが前に出て、腕を金属の刃に変え、トリケラトプスと正面からぶつかり合う。足からスパイクを出して踏ん張りつつ、突撃の勢いを利用してトリケラトプスを両断する。
「これが俺のスラッシュフォームだ!」
(恐竜族モンスターの中でも防御の高いトリケラトプスを一撃か。話を聞いたときは平均的なステータスを持つイグアノドンを倒せるレベルだと思っていたが、これほどまでとはな)
信二が思っていたより仲間たちがレベルアップをしていたことに喜ばしく思いながらも、頭の中では冷静に運用方法の上方修正を行う。なにせ、このチームの頭脳担当は小隊レベルならアスカもいるが、全体の指揮となると自分しかいない。感情に流されず、情報を整理しようとしたとき、何か引っかかりを覚える。
「どうしたの、信二君?」
「……ああ、ゲート前はモンスターが狩られているはずだから安全地帯のはずだったんだがな。しかも、草食の恐竜は比較的おとなしいはず。俺たちを見るや否や襲うことは稀なんだが」
「たまたまじゃねえの?」
「そうよ、狩られた後に偶々あの恐竜が横切ろうとしたときに私たちとエンカウントしただけ」
「それってあたしたちの運が悪いだけじゃん」
「深く考えすぎるのは悪い癖だよ」
「……それもそうだな。何か決めつけようにも情報が足りない。ここは予定通り、東へ向かおう。サキ、広範囲サーチとマッピングを頼めるか」
「任せて。ピーちゃん、邪魔しないでね」
【わかっとる。よほどのことがない限り、手出しはせん】
東エリアのマップに現在の敵の位置が記されていく。範囲を広げた代わりに精度を犠牲にしているため、恐竜の種類は分からず、おおよその数しか分からないが、それだけでも値千金の情報だ。
「赤の光点が敵の位置だな。群れになっているのは大概がおとなしい草食の恐竜だが、まれにヴェロキラプトルが混じっていることもある。それを引くと最悪だな」
「名前は映画で聞いたことあるけど、強いの? そのヴェロキラプトルっていう恐竜?」
「小型で足が速くて賢い。しかも、群れを成して攻めてくるから、1体1体は大したことのない火力でも総合的に見れば無視できなくなる。まとめて吹き飛ばせる魔法職が居れば楽なんだが……」
「あいにく私たちにはいないわね」
「そこで本来はある程度群れを避けながら進むつもりだったんだが、中央へと向かおうとすると思っていた以上にエンカウントする群れが多い」
恐竜ツアー側が事前にある程度狩っているだろうと言う見込みもあっての第一階層の攻略だったが、その当てが完全に外れた形になる。それとも、恐竜ツアー側が狩ってもそれ以上に恐竜が湧いているのだろうか。最悪の事態も頭の片隅に入れつつ、信二は予定の変更を伝える。
「仕方がない。Bプランだ。群れが少ない南へ向かい、海岸エリアから回り込む形で密林エリアへと向かう。海からの奇襲には気を付けないといけないが、距離を取っていれば問題はないだろう」
「北からは駄目なの?」
「山岳エリアに行けば山道で体力が削られるうえに、プテラノドンをはじめとする翼竜種の住処だ。制空権が奪われている以上、海から離れていれば比較的安全な海岸エリアより難易度がはるかに高い」
「モンスターの生息地とか深層のボスモンスターの名前知っていたり、ずいぶんと詳しいわね」
「事前に調べられることは図書館で調べた。あと、深層のことはエクステラからの情報だ」
「エクステラからの情報なら信用できるね」
【みみみはエクステラを全肯定しているからな~】
【エクステラの一番の強火ファンだし】
【攻撃に使うぬいぐるみを全部エクステラぬいぐるみに変えるくらいだしな】
【でも躊躇なく爆発させる】
「それが私の愛だから」
【愛www】
【なぜそこで愛www】
【ぱっとみだと、恨んでいるようにしか見えないんですが】
【恨む理由一つもねえけどな!】
とみみみが視聴者たちと漫才しつつ、まだ群れの少ない海岸エリアへと向かっていく。はぐれの恐竜たちを数体ほど倒しながら進んでいる最中、口からはみ出るほどの歯を持った翼竜の群れがこちらに向かってくる。
「ドリグナトゥスか!」
「聞いたことないけど、どんな恐竜!?」
「浅い海に生息する翼竜で魚を主食とする翼竜だ。こいつが現れたということは海に近いということにはなるが……」
海までにはもう少し距離があり、まだ草原エリアの範囲内。海岸エリアに生息するドリグナトゥスとはまだエンカウントしないはずである。
(現実とゲームは違うとはいえ、ここまで露骨にエンカウントに差が出るものなのか?)
嫌な予感が増していく中、皆に迎撃態勢を取らせる。こちらに気づいたドリグナトゥスが急降下し、その大きな歯で噛み砕こうとする。
「今度はタロに任せてください。タロ、威圧!」
「ワン!」
タロが大きく吠えると、ドリグナトゥスの動きが一瞬止まる。時間にして数秒にも満たないが、動かない的に銃弾や爆弾をぶち込むには十分すぎる時間だ。数さえ減れば危うさは無い。運よく生き残り、大口を開けて近くにいるアスカに噛みつこうとするドリグナトゥスだったが……
「ライトニングナックル!」
電撃を纏わせた拳がドリグナトゥスの脳天に叩き込まれて絶命する。空を飛ぶ敵に苦戦することなく、あっという間に群れを処理できたものの、信二はドリグナトゥスの素材を回収しながら、考え込む。
「どうしたの、信二君?」
「いや、いくら海に近づいているとはいえ、ドリグナトゥスはまだ出現しないと思っていたからな」
「偶々よ、偶々。いくらまだ出ないと言ってもあと1時間も歩けば海に着くでしょう。テリトリーに近づいてきた相手に威力偵察してきたんじゃない?」
「……その可能性は無くはないが」
果たしてそうだろうかと考える。偶々、偶然が2つ続けて起こるのは珍しいことではあるが、起こりえないわけではない。だが、もし、3つ目の偶然がこの先、起こるのであればそれは必然としか言いようがない。
(やたら多い群れ、モンスターの出現エリアを跨いでの移動……これらはスタンピード、あるいはダンジョン崩壊現象と呼ばれる大災害の予兆と考えるには十分な証拠になる)
当然、アスカが言うように偶然が立て続けに起こった可能性はまだ残っている。だが、信二の頭の中にある危険を示すシグナルは黄色から赤色へと移り変わろうとしていた。
(原因を突き止めたいところではあるが、最悪の場合、3つ目の偶然が確認された時点での即時撤退も視野に入れないといけないな)
思い過ごしであれば良いと思いながら、信二たちは海岸エリアへと向かっていくのであった。




