表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/107

あんたの名前は――

「名前を当てる?」

「そうだよ。私たちの名前は、なんだい?」

「教えてもらえないのか?」

「教えてしまったら試練にならないよ。だから君の力で、私たちから聞きだしてごらん」


 空気が変わる。

 俺は思わず笑ってしまう。


「結局こうするのは変わらないな」


 俺は左手にオーディンを、右手にアルテミスを抜く。

 ここは原初の聖剣によって生み出された精神世界だ。

 原初の聖剣を除く六本の力なら、この世界で行使することができる。

 アルテミスの能力による加速と、オーディンによって暴風を纏った肉体。

 この二つを合わせれば、突進するだけでも相当な破壊力がでる。

 

「行くぞ」


 俺は駆け出し、原初の神に斬りかかる。

 遠慮なんてする余裕はない。

 神を相手に手加減することこそ無礼だと知っているから、俺は全力で向かう。

 

「なっ――」


 攻撃は軽く受け止められた。

 俺は驚愕する。

 止められたことにではなく、神の手にしている武器に。

 原初の神が手にしているのは、オーディンとアルテミス。

 二振りの聖剣だった。

 俺は咄嗟に弾いて距離をとる。


「どういうことだ? なんであんたがその聖剣を……」


 聖剣に宿るのは神の力。

 他の神が聖剣を使うと言うことはすなわち、異なる神の権能を行使することに等しい。

 そんなことは不可能だ。

 少なくともこれまで試練で戦った神々は、自身の力で戦っていた。


「まやかしか」

「違うよ」

「だったら!」


 試してやる。

 俺は聖剣アテナを召喚し、自身の身体と融合させる。

 現実ではサラに預けてある聖剣だが、この精神世界では行使可能だな。

 そして、アテナ本来の使い方は、他の聖剣の強化にある。

 俺自身と融合したことで、聖なる力が強まり、オーディンとアルテミスの能力が向上する。


「おおおお!」


 先ほどよりも加速し、荒々しく吹き荒れる風を纏う。

 一撃の数倍の威力で剣を振るう。

 が、これでも届かない。

 原初の神は一撃目と変わらぬ様子で、俺の攻撃を受け止めた。


「くっ」


 続けて俺はオーディンを手放し、ニクスを生成する。

 本来は月夜にできる影を操る聖剣だが、この世界には月がない。

 聖なる力で無理やり影を生み出し、まばゆい世界に喧嘩を売る。

 すると原初の神は、俺の蛮行をあざ笑うかのように――


「ニクスまで!」


 影には影をぶつけてくる。

 俺が持つ聖剣のうち、攻撃手段として強力な四本を原初の神が使っている。

 グレイプニルの封印は神には通じない。

 俺は縋る気持ちでフォルセティを召喚する。

 真実を見抜き、未来すら予知する力。

 原初の神の考えを読み解くことができれば、名前を知ることもできるかもしれない。

 そんな淡い考えはあっさり吹き飛ぶ。

 原初の神はフォルセティを取り出し、その力を相殺した。


「なんなんだ……」


 まるで鏡の前の自分と戦っている気分だ。

 どんな攻撃を使っても、同じ力で防御される。

 策を弄しても見抜かれ対処される。

 全てが見透かされているように。

 否、俺の動きに合わせて、ただ行動しているだけにも見える。

 原初の神は未だに一度も攻撃を仕掛けてこない。


「はぁ……」


 苛立つ。

 俺は一体何をしているのか、と。

 一度も攻撃を当てられず、戦う気もない相手に軽くあしらわれている。

 こんなところで躓いている場合じゃないのに。

 俺は……。


「――!」


 一瞬、苛立ちが漏れ出る。

 俺からではなく、原初の神から感じた……感情。

 それはまるで、俺の心を映すように。

 俺の苛立ちを鏡で反射するように。


 私たち――


 原初の神が話すとき、必ずそういう。

 私、ではなく私たちと。

 不自然には感じていたんだ。

 目の前には一人しか見えない。

 この世界には俺と、原初の神しかいない。

 だったら、私たちって誰のことだ?

 原初の神以外に、俺に見えていない誰かがいるのか?

 それとも……。


「――ああ、そうか」


 どうして気づかなかったんだ。

 ずっと近くにいたのに。

 全身の力が抜けて、戦意が完全に消失する。

 聖剣を手放した俺はゆっくり歩み寄る。

 それに合わせるように、原初の神も前へと進む。

 

「気づいたかい?」

「ああ。ようやくわかったよ」


 無性に苛立つ理由も、感じた違和感も。

 すべてに納得がいく答えが見つかった。

 正しいかどうかなんてわからないけど、この答えは真実なのだろう。

 俺たちは向かい合い、互いに右手を前にかざす。

 手の平が重なる。


「あんたは……俺だ」

「そう。私たちは君だ」


 手の平から力が、記憶が流れ込んでくる。

 この世界の成り立ちと、原初の神という存在がどうやって生まれたのか。

 神と、生命の始まりを。


「あんたの名は――」


  ◇◇◇


「はぁ……はぁ……」

「随分逃げ回ってくれたなぁ。だがもう限界だろ」


 ネロはアンドラスに終われながら、アレンを抱えて必死に逃げていた。

 身体能力ではアンドラスを上回る彼女だが、意識のないアレンを抱きかかえた分の重さと、相手がアンドラスだったことが不利になる。

 アンドラスにとって地形全てが武器。

 どこへ逃げようと、簡単に誘導できてしまう。

 立ち止まれば終わりという状況で、彼女は一時間近く逃げていた。

 ボロボロになりながら。


「まだっすよ」

「なぜそこまでする? そいつは勇者だぞ」

「知ってるすよ。あんたこそ、なんでこの人に拘るんすか?」

「はっ! そいつが全ての元凶だからだ」


 彼は怒っていた。

 憤怒の権能を失い、その力を変換できなくなっても。

 リリスに敗北し、力を奪われたことを思い浮かべる。

 そうさせたのは誰か?

 答えは早々に出た。


「勇者アレン! お前がいなければオレは魔王だったんだ!」


 全ての始まりは勇者アレンがリリスの味方をしたことにある。

 そう結論付け、復讐の機会を伺っていた。

 その機会が今、訪れている。


「よくわかんないっすけど、この人はやらせないっすよ。ウチ、一度決めたことは曲げない主義なんで」

「そうかよ。だったらもう忠告はしない。二人まとめ――」

「ありがとう、ネロ」


 眠っていたアレンが目覚める。

 と同時に起き上がり、アンドラスの眼前に移動する。

 アンドラスは驚く暇もなく、次の瞬間には倒れていた。

 アレンの右手には原初の聖剣が握られている。


「な……」

「アレン兄さん、腕が」


 治癒している。

 終焉の魔剣によってつけられた永遠に癒えない傷が。

 それはすなわち、彼が目的を達成したことを意味している。


「やったんすね」

「ああ。おかげで……すごくスッキリしてるよ」


 アレンは聖剣を空に掲げる。


「今なら――この空だって斬れそうだ」

これにて『原初の試練』編は完結です!

いかがだったでしょうか?

この章が面白い!

続きが気になる!

そう思った方はぜひ、ページ下部の評価☆から★を頂ければ幸いです。

頑張って執筆するぞーというモチベ向上につながります!


お願いしますー!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ