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瓦礫の山で

 王都襲撃の一時間後。

 レインたちが現場に到着したのは、全てが終わった後だった。


「……遅かったか」


 悲惨な姿となった王都の街並みを見て、ルシファーが小さく呟いた。

 繁栄した文明も一瞬で破壊され、建物はおろか地面すらえぐられている。

 人々が笑い、愛を育み、共に生きた場所。

 レインやフローレアだけではない。

 今、ここにいないアレンにとっても思い出深い場所が……国が滅んでしまった。


「ひでぇなこりゃ。ここに城があったんじゃねーのか?」

「粉々になってますねぇ。それに……」


 ヴェルフェゴールはある違和感に気付く。

 破壊された城を見渡す。

 瓦礫が積み上がり、残骸だけが目に映る。

 

「……綺麗すぎますね」


 この惨状を見て、綺麗という言葉はいささか不適切だろう。

 だが、その一言で皆も察する。

 確かに、綺麗すぎるのだ。

 ここは人類国家の城であり、最後の砦である。

 故に必ず、最大にして最高の抵抗があったはずだ。

 城には勇者も多数常駐していただろう。

 先の魔界での戦闘に参戦しなかったことを考えれば、主戦力のほとんどは城にいた。

 ならば確実に、ここで大魔王サタンとの戦闘が勃発したはずなのだ。

 しかし……。


「血痕一つ残ってねぇ……まるで、全部呑み込まれちまったみてーに」

「……たぶん、奴が持つ魔剣の力じゃ。あれは……ワシの魔剣と同じことができる」

「終焉の魔剣……か。信じ難いが、権能だけでなく魔剣も複製していたのは事実のようだな。戦いにすらならなかったのだろう。今の勇者側の戦力では当然だ」


 ルシファーは冷たく言い放つ。

 最強である勇者アレン、彼に匹敵する最強コンビのレインとフローレア。

 勇者陣営を支えていたのは、紛れもなく彼らだった。

 それは敵対していた魔王たちが一番よく知っている。

 主戦力を欠いた勇者陣営では、大魔王サタンには叶わない。

 相手は、勇者アレンすら退けた強者なのだから。


「サルカダナス、戦闘が行われたのがいつかわかるか?」

「ちょっと待って。今から調べる」


 サルカダナスは現場にいない。

 空中に浮かぶ特殊な球体型の魔導具を操作し、彼女自身は地下の研究室にいる。

 遠隔で魔導具を操作して、瓦礫まみれの戦場を調査する。


「うーん……大体一時間くらい前だと思う」

「一時間じゃと? なら敵もまだ近くにいるのか?」

「それはない。周囲に他の反応は探知できない。もう移動しているはず」

「そ、そうか……」


 リリスは複雑な表情を見せる。

 いなくてガッカリする気持ちと、会わなくてホッとする気持ちが混ざり合う。

 相手は偽者でも、姿かたちは大好きな父の面影を感じる。

 彼女の中には漠然と、再び前にして戦えるかという不安が湧いていた。

 ルシファーがサルカダナスに尋ねる。


「サタンの行く先は追えるか?」

「……難しい。痕跡がここで途絶えてる。たぶん、転移系の魔法を使って移動してる」

「そうか……奴の狙いはなんだ?」


 ルシファーがぼそりと呟く。

 大魔王サタンの名を騙り、魔界を崩壊させ、人間界も破壊した。

 もはや世界は文明が誕生する以前の状態に戻ったと言ってもいいだろう。

 サタンは破壊の限りを尽くしている。

 加えてサタンは、同調した仲間の悪魔たちをも切り捨てた。

 世界の支配が目的ならば、全てを破壊する意味はない。

 空っぽになった世界を支配したところで、得られるものなど何もない。

 支配と破壊はイコールではない。

 ならば、サタンの目的では支配ではない。

 

「この破壊に……なんの意味がある?」


 ルシファーたちはサタンの目的を知らない。

 世界を崩壊させ、天界から神を呼び寄せるという真の目的を。

 故に、サタンの次なる行動が予測できない。

 ルシファーは頭を悩ませる。


「サルカダナス様、アレン様はここに来られたのでしょうか?」


 唐突に尋ねたのはサラだった。

 リリスやベルフェゴールも返答に注目する。

 サルカダナスは画面越しにデータを集めて結論を出す。


「来てない。少なくともまだ」


 彼女は協力する対価として、アレンの身体を調べる契約を結んでいる。

 その前段階として、彼に関するデータを収集し、魔導具にインプットさせていた。

 彼女の魔導具なら、アレンの痕跡を辿ることはできる。

 もっとも、未知の力で移動した場合、痕跡は途絶えてしまうが。


「そうですか……」


 少し寂しそうな顔をするサラ。

 アレンは生きている。

 今もどこかで必ず。

 そう確信していても、心配な気持ちはぬぐえない。

 彼の強さを知っていようとも、心配しない理由にはならない。


「あいつのことだ。傷の回復に努めているか、サタンを倒すための方法を模索しているのだろう。いずれ必ず再会する。焦らなくてもいい」

「……はい。ありがとうございます。魔王ルシファー」

 

 ルシファーは小さく笑う。

 魔王が人を励まし、人が魔王にお礼を言う。

 種族を超えて、一人の男のことを考えている。

 これは一つの……共存だ。

 かつて大魔王サタンが望み、成し得なかった夢の一端が、ここにある。


「奴の目的は少なくとも共存ではない」

「だろうな。こんだけ破壊しといて無理だぜ」

「他の目的……なんでしょうね。それを見つけることができれば……」


 サタンの行動を予測できる。

 魔王たちは頭を悩ませる。

 

「いったん戻りましょう。ここで考えるより安全です」

「そうだな。撤収するぞ」


 キスキルがそう提案し、全員で地下へと戻ることにする。

 瓦礫を踏みながら去っていく面々。

 最後の一人、サラはふと振り返り、壊れてしまった城を眺める。

 彼女にとっても思い出深い場所だ。

 いつもここで、アレンの帰りを待っていた。


「アレン様……」


 時を遡り――

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