人類国家の終わり
レインたちが合流した同時刻。
人間界の王都では、とても穏やかな時間が流れていた。
人々は未だ知らない。
勇者アレン、レイン、フローレアが人間界を去ったことを。
国王がすでに、大魔王サタンと結託していることを。
何もしらず、平穏を満喫している。
彼らは夢にも思わないだろう。
自分たちの生活が、勇者ではなく、魔王によって保たれている事実を。
しかしそれも、終わりが近づいていた。
「なんだあれ?」
「太陽が……」
人々は空を見上げる。
青空に燦燦と輝く太陽が、黒い影に覆われていく。
明るい地が闇に染まる。
そのころ、王城の最上階では国王が執務をこなしていた。
室内にいる彼は、未だ外の異変に気付かない。
気づくより早く、彼の前に元凶が姿を見せる。
「――! おお! 戻られたのか、サタン殿」
大魔王サタン。
かつて魔界を支配し、最強の名を手に入れた存在を前にして、国王は驚かない。
恐怖することもない。
すでに彼らは手を結んでいた。
互いに力を貸し合い、世界を統治するという話で。
人間界の王と魔界の王。
立場上、関係は平等ということになっていた。
「魔界のほうはどうなりましたか? 確かそろそろ期日ですが」
「すでに終わった。魔界はほぼ壊滅し、残っている余に反抗する勢力もわずかだ」
「おお、素晴らしい! ではあと一押し、我々も協力しよう。勇者を動員すれば残党など容易く処理できる」
国王は自ら提案する。
守護するべき勇者の力を、魔界の残党狩りの道具として使うことを。
国王にとって勇者は、ただの兵器であり道具。
すべては己の権力を誇示するために。
彼の思惑は、目的は非常にシンプルだった。
故にこそ、利用された。
「――いいや、もう必要ない」
「え? ぐ……」
国王の胸を、サタンの魔剣が貫く。
「な、にを……」
「もはや余に、お前たちの力は必要ない」
国王は勇者を道具として扱った。
だが、彼自身もそうだったことを知らない。
大魔王サタンにとって、人間の王など羽虫も同然である。
上手く利用して、いらなくなれば捨てる。
そう、いらなくなった。
最強の勇者を排除したことで、サタンに余計な戦力は必要ない。
彼の目的は一つ、世界を崩壊させ、神を呼び寄せること。
そのためには、人間界も邪魔なのだ。
「ご苦労だった。愚かな人間の王よ」
「ぐ、あああああああああああああああああああああああ」
国王の身体は闇に包まれる。
魔剣の力によって、塵一つ残らず飲み込まれ、上半身が崩れ落ちる。
「陛下! なっ……」
国王の悲鳴を聞きつけてやってきた騎士たち。
彼が見たのは、すでに死体となった国王の哀れな姿である。
戦慄の数秒。
その一瞬で、騎士たちも切り倒される。
「この城も不要だ」
サタンは魔剣を床に突き刺す。
そのまま黒劉を四方へ開放し、城を破壊する。
完全破壊するのに、十秒もかからなかった。
あっという間に崩れ落ち、王城はガラクタの山となる。
サタンは破壊した魔王城を見下ろす。
「さて……」
「――待ちやがれ!」
サタンの前に三人の勇者が現れる。
「これをやったのはてめぇだな」
「あーあ、やっぱり裏切られたみたいだね。だから僕はやめたほうがいいって言ったのに」
「よくも陛下を……」
「……勇者か」
『最硬』の勇者アッシュ。
『最速』の勇者スフィール。
『最優』の勇者オータム。
人間界における現在の最高戦力が揃う。
彼らに続き、待機していた他の勇者たちも集結した。
「やっぱ魔王は信用ならねー」
「だね。お城には僕たちの部屋もあったのに……弁償してもらわなきゃ」
「覚悟しろ。魔王サタン」
彼らは聖剣を抜き、構える。
こうしている間にも、次々と勇者が集まっていく。
二十、三十……五十を超えた。
かつて起こった大魔王討伐戦に参加した勇者は、全部で七十二人。
当時を超える八十四人の勇者が集結する。
「はっ! 運がなかったな!」
「もう逃げ場はないですよー」
「……行くぞ」
勇者たちが一斉に動き出す。
狙いはただ一人、無防備に立ち尽くす大魔王。
彼は周囲をのんきに見渡す。
「確かに圧巻だ。だが……」
これほどの数の勇者が集まる機会なのど、歴史上初だろう。
いかに大魔王とはいえ、八十を超える勇者と、その聖剣の一撃を受ければ一たまりもない。
決着は必然だった。
そう、大魔王の勝利で終わる。
「淡い光だ」
もはや戦闘とすら呼べない。
一瞬ですべてが終わる。
襲い掛かった勇者たちを、終焉の力が呑み込み食らう。
「ぐおあああああああああああああああああ」
「な、なんだよこれぇ!」
「ぐ……この力は……」
称号を持つ三人ですら、いともたやすく闇に飲み込まれている。
大魔王サタンはため息をこぼし、苦痛に嘆く者たちに告げる。
「いくら数を揃えようと……お前たちでは、勇者一人に及ばない」
本物の強者相手に、数など無意味。
それを体現するかの如く、サタンはあっという間に勇者たちを蹂躙してしまった。
彼の言葉通りである。
いかに数を増やそうと、石ころを何百集めたところで、巨大な岩は砕けない。
八十を超える勇者の一団も、所詮は勇者アレン一人にすら及ばないのだ。
勇者アレン以下の集まりなど、相手になるはずがない。
故に、この結末は必然だった。
「さぁ……今度はお前たちだ」
勇者を蹴散らしたサタンは、空に輝く太陽に視線を向ける。
すでに半分が闇に閉ざされていた。
人々は安らかな時間を過ごしている。
太陽の輝きは、人々の心を照らすものだった。
それが今、真黒の闇に染まった。
完全に太陽は黒へと変わり、昼間が夜のように暗くなる。
太陽を消した闇は徐々に大きくなり、人々に近づいていく。
「な、なんだ……黒い太陽が落ちてくるぞ!」
「に、逃げろお!」
「――無駄だ」
平穏は砕かれた。
それに気づいたときには、もう手遅れである。
漆黒の球体が王都を覆うように落下する。
全てを粉砕し、呑み込み、無に還す。
力なき者たちは逃げることすら叶わない。
ただ、呑み込まれるだけ。
「……脆いな」
襲撃からわずか五分。
いとも容易く、人類最後の国家は消滅した。
これにて『王国の滅亡』編は完結です!
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