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必ず生きているから

 最強の勇者と偽りの大魔王。

 激しい衝突によって破壊された玉座の間で、最後に立つのは一人のみ。

 崩れ落ちた瓦礫を避け、土煙が晴れるのを待つ。


「――ふぅ」


 彼は小さく息を吐く。

 吐いた息が土煙を巻き上げ、その姿を露出する。

 

「想像以上だった。勇者アレン」


 玉座に残るは偽りの大魔王サタン。

 額から血を流し、左胸から腹部にかけて大きく深い傷を受けている。

 だが、立っている。

 周囲には誰もいない。

 勇者アレンの姿も……どこにもない。

 サタンはゆっくり呼吸を整え、自らが受けた傷に手を触れる。


「片腕を潰され……荷物を抱えた状態で余と善戦した。もし最初から一人で戦っていれば……勝負はわかからなかっただろう」


 すでにいなくなった強敵に対して、大魔王サタンは最大の敬意と共に呟く。

 その身に深い傷を受け、力の一部を聖剣によって封印された。

 百年前に行われた大魔王討伐戦でも、たった一人でここまでの傷を負わせた勇者はいなかった。

 まさに現代最強の名に相応しい存在だったと。


「見事だ。現代を象徴する勇者よ」


 彼は紛れもなく最強だった。

 しかし、常に他者を守ることを優先せずにはいられない。

 勇者の性が彼を追い詰めた。

 それゆえの敗北……とはいえ、彼は深々と大魔王の身体に傷跡を残している。

 胸の傷は消えても、封印の力は簡単に解除できない。

 神意解放によって打ち出されたグレイプニルの権能は、サタンが持つ大罪の権能を全て封じることに成功している。

 これはサタンにとって大きな痛手である。

 ただし、此度の戦いで得られた戦果が、それを帳消しにしている。


「最強の……世界の守護者は消えた」


 勇者アレンの存在は、サタンの目的を達成させるため最も大きな障害だった。

 その障害が消えたことで、サタンは行動に移す。

 魔王城の下階では、彼に同調した大罪の魔王や、その配下の悪魔たちが戦っている。

 サタンが加勢に向かえば、戦況の有利は一変するだろう。

 だが、彼は玉座から動かない。

 動く必要がない。


「もはや余には、同胞すら必要いらぬ。ここから始めよう」


 すでに彼は、最大の目的を果たしている。

 大罪の魔王も、有象無象の悪魔たちも必要ない。

 彼は、彼自身の力のみで理想を実現できる。


「選別の時間だ」


 サタンは自らの上空に巨大な魔法陣を展開させる。

 魔王城、その周囲を全て巻き込むほどの大きさである。

 狙いは、魔界全土。

 魔剣の力により、彼の魔力に制限はない。

 故に、魔界全てに攻撃の雨を降らせることは可能である。


 魔法陣が輝きを放つ。

 そして――

 魔法陣の上部から放たれた漆黒の雨は弧を描き、魔界全土に向けて降り注ぐ。

 下部からは直接、魔王城やその周辺で戦う者たちに向けて放たれる。

 一撃一撃が魔剣の威力に匹敵する。

 魔王を名乗れる強者ですら、この力には抗えない。

 魔界は崩壊していく。

 現代に蘇った魔王サタンは、全種族の共存など望んでいない。

 彼の目的は、現代世界の崩壊。

 人も、悪魔も、亜人種も、全てを滅ぼしリセットする。

 そうすれば必ず、奴らは現れる。

 世界の均衡を崩す者を、奴らは決して許さない。


「さぁ……もうすぐ会えるぞ……神よ」


 神殺し。

 大魔王サタンが見据える未来に、神の存在は必要ない。


  ◇◇◇


 大魔王サタンとの決戦後、一夜が明けようとしている。

 地上はすでに半壊し、城も街も、住まう悪魔たちもいない。

 サタンによって行われた命の選別で、弱い悪魔や亜人たちはあっけなく殺されてしまった。

 生き残ることができたのは、力のある者。

 それ以外に、攻撃を退ける用意があった者たちだけだった。


「ここならしばらく安全。けど、長くはもたないと思う」

「どのくらいだ?」

「一週間くらい。見つかるのが早かったら、その時点で壊される。あの力は魔剣の威力と同じだった。いくら防御力を強化しても意味がない」

「十分だ。傷を癒すにはな」


 ルシファーとサルカダナスが淡々と状況を確認し合う。

 戦闘後、ルシファーたちは戦うことではなく避難に全霊を注いだ。

 ルシファーたち大罪の魔王を中心に、動ける者を先導して安全な場所を目指した。

 あの場で降り注ぐ攻撃に対抗できたのは、大罪の権能を持つ彼らだけだった。

 彼らの迅速な行動のおかげで、キスキルとサラも無事である。

 アレンによってサラのもとへ転移させられていたリリスにも怪我はない。

 身体には……。


「ワシのせいじゃ」

「リリス……」


 リリスは身体を震わせ、涙を流しながら後悔する。

 

「ワシが足手まといになったせいで、アレンは傷を負った。最初から一人で戦っておれば……負けることもなかったのじゃ」

「兄さんが……」

「本当に負けやがったのか」

「う、うぅ……」


 リリスの瞳から大粒の涙がいくつも流れ落ちる。

 アレンのことを慕っていたベルフェゴールも、泣きそうなくらい辛い顔をしていた。

 涙を流さないのは、彼が強い魔王だからだ。

 他の者たちも悲嘆に暮れている。

 信じられないが、現実は突きつける。

 今この場に、勇者アレンの姿はない。

 最後に放たれたのは偽りの大魔王サタンの攻撃だった。

 ならば勝者は必然……決まってくる。


「アレン……アレン……ぅ……」


 子供らしく悲しむリリスを、母親らしくキスキルが慰める。

 魔王らしくしなさい、と普段なら言っている。

 だがさすがに、今の彼女にその言葉は酷だろう。

 リリスがどれほど、勇者アレンを慕い、信頼していたのか……。

 ここにいる誰もが実感する。

 彼の消失は、最強を失ったというだけではない。

 精神的な支柱を失ってしまった。

 絶望的状況に陥り、これではもう戦えない。

 多くの者たちが後ろ向きな想像を浮かべた時、一人だけそれを否定する者がいた。


「――アレン様は死んでいません」

「……サラ?」


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