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大罪の複製品

 俺は左手に新たな聖剣を生成する。

 相手は騙りとはいえ、かつて最強の名をほしいままにした大魔王を名乗っている。

 出し惜しみはなしだ。


「アルテミス!」


 俺が持つ五本目、月光の聖剣アルテミス。

 この聖剣は性質上、月が出ている夜にしか使うことができない。

 魔界は常に夜だ。

 雲のなく、月が夜空に輝いている。

 月の光で輝く聖剣を手にしたことで、俺の瞳は青く光る。


「行くぞ」


 地面を蹴り、駆け出す。

 一瞬にしてサタンの背後に回り込み、原初の聖剣で斬りつける。

 サタンは身体を回すことなく、左手をかざして魔力の障壁を生成、防御した。


「恐ろしい速さだ。それが、左手の聖剣の効果か?」

「さぁな!」


 続けて地面を蹴り、サタンの眼前から消える。

 今度は背後ではなく頭上、両手の聖剣を上段に構え、振り下ろす。

 しかしこれも防御される。

 今度は偽物の魔剣で受け止められた。


「チッ!」


 互いに弾き、空中で身をひるがえした俺は空を蹴る。

 月光の聖剣アルテミス。

 その効果は、【月の加護】を得ること。

 空中を自在に駆けることのできる足と、光のごとき速度での移動。

 この二つの力によって、俺は立体的な高速戦闘を可能にする。

 

 勇者に与えられる称号は、基本的に一人につき一つだけ。

 『最速』の称号を持っていたのは俺じゃない。

 ただ、それは俺のほうが遅いからではなく、俺がすでに『最強』の称号を持っていたからだ。

 もし仮に、一人につき一つという制約がなければ、『最速』の称号も俺のものだった。


「速い。目で追えぬ速度とは恐れいった」


 口ではそう言いつつ、サタンから焦りや動揺は見られない。

 ひどく冷静に、こちらの位置を把握している。

 高速移動で隙を探しているが、中々見つけられない。

 さすがに名を騙るだけの実力はある。

 

「けどいいのか? 俺ばかりに注目して」

「――!」


 そう、俺は一人で戦っているわけじゃない。

 お前が注意すべき存在がもう一人いる。


「――黒劉!」


 漆黒の斬撃が繰り出される。

 俺にばかり注意していたサタンは回避が間に合わない。

 偽りの魔剣で受け止め、力で薙ぎ払う。


「っ、この程度では足りんか! だったら!」


 リリスは黒劉の力を魔剣に纏わせたまま斬撃を振るう。

 通常の一撃が黒劉の威力をもった一撃となる。

 破壊力は言わずもがな。

 サタンは回避し、一振りで玉座の間の柱が粉砕された。


「余の剣をよく使いこなしている。成長しているようだな」

「ほざくな! お父様の剣じゃ!」


 続けて漆黒の斬撃を放つ。

 黒劉は強力な攻撃だが、速度はさほど速くない。

 見えてしまえば回避は可能だ。

 故に、サタンは余裕を見せる。

 その余裕……俺が潰してやろう。


「極光」

「――!」


 切っ先から放たれる閃光がさく裂する。

 アルテミスがもたらす加護は、速度や空中歩法だけじゃない。

 月の光を操り、武器とする。

 

「――くっ」


 ギリギリで俺の攻撃を回避したサタン。

 光速の一撃を初見で回避するのは恐れ入った。

 が、今ので体勢を崩した。

 リリスの黒劉は避けられない。


 黒劉がサタンに直撃する。

 激しい轟音と地響きと共に、土煙が舞う。

 俺とリリスはサタンを挟むような位置で立つ。

 互いに気は緩めない。


「手ごたえはあったのじゃ」

「ああ」


 それでも、この程度で終わることはありえない。

 土煙を払ったのは、漆黒の力。

 禍々しい魔剣のオーラが、サタンを守護するように足元からあふれ出ている。

 

「今のは危なかったぞ」

「チッ、やはり防御されておったようじゃな」


 サタンが操っているのは、リリスが使っている黒劉と同じエネルギーだ。

 気配が似ている時点で使えることは予想していた。

 ただ、偽物とはいえここまで再現できるのか?

 それにこの圧力……下手したら今のリリスの一撃より。


「お返しだ」


 サタンが黒劉を放つ。

 リリスは防御の体勢をとる。 

 が、俺は瞬時に見抜く。


「避けろリリス!」

「――!?」


 咄嗟に防御から回避に切り替えたリリス。

 すんでのところで身をよじり、地面を蹴って斜め後ろに回避した。

 空を切った黒い刃が突き抜け、王座の間の壁を容易く破壊する。

 ただの衝撃ではない。

 攻撃が当たった箇所が、腐り落ちたかのようにボロボロに劣化している。

 それを見てリリスは戦慄する。


「よく躱した。いい判断をする」


 そう言ってサタンが俺に視線を向ける。

 直感は正しかった。

 もし仮に、今の攻撃を受けていたら……リリスは死んでいただろう。

 

「気を付けろリリス。こいつの攻撃は……当たれば終わるぞ」

「う、うむ……」


 彼女も認めたくはないだろう。

 だが、ハッキリとした事実がここにある。

 黒劉……同じ技でも威力が別物だ。

 明らかに、リリスの攻撃よりもサタンの攻撃のほうが強い。

 終焉の魔剣は、あらゆるものを呑み込み破壊する力の塊だ。

 その一撃は防御不可。

 本来ならば、触れただけですべて破壊される。

 まさに最強の一振りに相応しい攻撃……それをサタンが持つ偽物の魔剣が体現している。


 これは……偽物とか本物とか。

 そんな些細なことを気にしている場合じゃないぞ。

 俺とリリスは再度警戒を強める。


「思った以上にやる。さすがは我が娘……そして、現代最強の勇者」

「「……」」


 サタンの視線が鋭くなる。

 言葉の冷たさが空気にも伝わり、周囲が寒くなったような気がした。


「いいだろう。その強さに敬意を表し、余も出し惜しみはなしだ」


 ――来る!


 俺とリリスは剣を構える。

 直後、ありえない光景を目の当たりにする。

 サタンを中心に氷塊が生成され、氷の波が押し寄せる。

 一瞬、魔法を行使したのだと思った。

 だが違う。

 この感覚を俺はすでに知っている。


「黒劉!」

「閃光!」


 リリスは黒い斬撃を、俺はアルテミスを振るい、欠けた月のような光の斬撃を飛ばす。

 氷塊は砕け散り、小さな粒になって舞う。

 その一つが、俺の左腕に付着した。

 途端、一気に左腕が凍結する。


「っ、この力は――」

「アレン!」

「回避に専念しろリリス! これはただの氷じゃない! 『嫉妬』の権能だ!」

「な、なんじゃと!」

 

 俺は氷をアルテミスの光で破壊する。

 触れた箇所から細菌のように広がる凍結、魔力ではない力。

 間違いなく『嫉妬』の権能だ。

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