傲慢と嫉妬、そして――
魔王ルシファーと魔王レヴィアタン。
この二人の関係性は、きわめて特殊……というより、複雑である。
「随分と下が騒がしい。ベルゼビュートとベルフェゴールが暴れているな」
「いけませんよルシファー、あなたの相手は私です。ちゃんと私だけを見てください。目を離さないでください」
レヴィアタンはすでに権能を発動している。
『嫉妬』の権能は冷気を操る。
当然、只の冷気ではない。
凍結した対象から生気を吸い取り、さらに拡大していく。
まるで細菌が体内に入り、増え続けるように。
押し寄せる氷塊の波を、ルシファーは足踏みをした風圧で吹き飛ばす。
「芸がないな。それだけか?」
「もちろん、これだけではありませんわ」
ルシファーの四方に魔法陣が展開される。
放たれるは鎖。
鎖はルシファーの手足に絡まり、彼の動きを封じる。
「あらあれ、動けませんねぇ」
「舐めるな」
ルシファーは絡みついた鎖を力だけで引きちぎり、拘束から解放される。
迫っていた氷塊も蹴り飛ばし、粉砕した。
「私に縛られるのはそんなに嫌ですか?」
「当然だ。俺は、俺より弱い相手に束縛される気はない」
「あー素敵です。やっぱりルシファー、あなたは私の心に響く」
「……変わらないな、お前は」
かつて、レヴィアタンはルシファーの部下だった。
単なる部下ではない。
レヴィアタンはルシファーに心酔していた。
悪魔として、一人の男として魅了されていたのだ。
「あの時、お前が先代の『嫉妬』保持者を倒した時点で、こうなることはわかっていた」
「私のことをわかってくださったの? なんて嬉しい」
「勘違いするな。俺に見えたのは、お前がこうして敵になる光景だ」
「……敵、ですか」
レヴィアタンは俯く。
「悲しいですね。私は今でも、ルシファー……あなたをお慕いしているというのに」
「そうか? 俺はお前が好かん」
レヴィアタンの想いは一方通行である。
ルシファーにその気はない、むしろ敵意すら感じている。
「どうして? 私はこんなに愛しているのに」
「忘れたか? お前は俺の部下たちを好き勝手に殺しただろう?」
「あれは仕方がなかったの。だって耐えられないじゃない? 私以外の悪魔が、あなたの隣にいるなんて……」
彼らの決別の原因は、レヴィアタンがルシファーの仲間を殺したことに始まる。
彼女にとっても仲間だったはずの相手を、彼女は躊躇なく殺した。
ただ、ルシファーとの距離が近い。
そう見えただけで嫉妬して、バラバラに切り刻んだ。
「俺も二度は許した。権能の力に当てられ、正気を失っている可能性も考えられたからだ。だが、お前は狂っているほど正気だった。自分の意志で殺していた」
「もちろんですわ。私はいつでも、あなたのことだけを考えているのですから」
「違うな。お前が考えているのは自分のことだ。俺を手に入れたいという欲求にただ従っていただけだろう?」
「……ふふっ」
レヴィアタンは不気味に笑う。
その笑顔こそ、仲間だった頃、ルシファーが最後に見た彼女の表情だった。
仲間を次々に殺した彼女は、ついにキスキルを標的にしたのだ。
それを知ったルシファーは怒り、彼女を王城から追い出した。
殺さず放置したのは、彼の甘さである。
「今になって後悔する。あの時、殺しておくべきだった」
「私もです。もっと邪魔者は消しておくべきでした。キスキルも、ベルゼビュートも、ベルフェゴールも、リリスも、勇者アレンも……ああ、全てが妬ましい」
彼女はルシファーと共にいる存在全てに嫉妬している。
権能故ではない。
彼女の本質はにあるのは、狂った愛から生まれる独占欲である。
ルシファーを自分のものにしたい。
それ以外はどうでもいい。
結局、彼女が敵対している理由は、魔王サタンに従っているわけではない。
「すべてはルシファー、あなたを手に入れるために」
「欲深いな、お前は……」
嫉妬の冷気が迫る。
ここまで手を抜いていたルシファーだったが、ようやくその気になる。
右手をかざし、紫色の炎を生み出す。
「やはりお前は好かん」
炎は瞬く間に冷気を押しのける。
未だに彼は、権能を一度も使っていない。
純粋な力のみで、嫉妬の権能に押し勝っている。
彼の炎がレヴィアタンを燃やす。
「お前を狂わせたのは俺だ。せめて、俺の炎で燃えて消えろ」
「ああ……幸せですわ」
彼女は抵抗しない。
まるで彼女自身も、こうなることを望んでいたように。
最初から互いに敵意はなかった。
あったのは憂いと、迷い。
この結末は必然でしかなく、勝者は決まっていた。
「……空しい勝利だな」
燃え上がるかつての仲間から、ルシファーは目を背けない。
全てを背負うために。
切り捨てた者すら、その手ですくうように。
傲慢な王は見つめる。
魔王の戦いに決着がつく。
その時、勝者たちは違和感に気付く。
「――よく戦った」
「この声は!」
戦場に、魔界に、その声が響く。
大魔王の名を語った宿敵が。
「お前たちは十分に戦った。もうよい……あとは、この余だけで足りる」
魔王城の上空に、巨大な魔法陣が展開される。
ルシファーたちを凌ぐ魔力量と圧。
彼らは戦慄する。
と同時に、一つの結末を知る。
「兄さん……?」
「おいおい、冗談だろうがぁ」
「……まさか、敗れたのか?」
――勇者アレン。
「さぁ、終焉の時間だ」
魔法陣から放たれた攻撃が、魔界全土に広がる。
この日、魔界は完全に崩壊した。
これにて『大罪の衝突』編は完結です!
第二部もこれにて前半が終わりました!!
短い期間で一気に投稿しましたが、ここまで読んで頂けて非常に嬉しいです!
今日まで一日五話ほど更新してまいりました。
明日からは基本一話、正午の更新にしようと思います。
ペースは落ちますが、最後までお楽しみください!
また再三のお願いで恐縮ですが、この辺りで一度評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★を頂けると嬉しいです!
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