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暴食と強欲

 魔王城二階では激しい近接戦闘が繰り広げられていた。

 黄金の斧を両手で振り上げ、豪快に振り下ろす。


「おらぁ!」


 ベルゼビュートは飛び避ける。

 マモンの攻撃は地面を黄金に変化させた。

 これこそ『強欲』の権能。

 彼は触れたものすべてを無条件に黄金へ変化させられる。

 たとえ相手が、魔王であっても。


「ひゃっはー!」

「雑な攻撃だな」


 連続で振り回す斧を、ベルゼビュートは軽々と回避する。

 彼の言う通り、マモンの攻撃は大ぶりで隙が大きい。

 が、徐々に速くなっている。

 躱されるたびに鋭く、重くなる。


「おらおら! 躱せるのかぁー!」

「チッ」


 ついに躱しきれず、ベルゼビュートは受け止める。

 当然触れてはいない。

 受け止めた彼の腕には、小さな竜巻を纏っている。


「調子に乗るんじゃねーよ」


 突風が吹き荒れる。

 マモンは吹き飛び、空中でくるりと回転して着地した。

 ベルゼビュートの周囲には荒々しい風が吹いている。

 これこそが彼の真骨頂。

 荒ぶる王の姿であり、臨戦形態。


「バアル・ゼブル」


 魔王ベルゼビュートは暴風を支配する。

 彼の本気の戦闘は嵐そのものと化す。

 並の悪魔や勇者では、本気の彼の前で立つことすら許されない。


「ひゃっはー! ようやくやる気になったかよ、そよ風がぁ!」

「まぁな。多少は本気になってもいいぜ。その代わり……せいぜい足掻け」


 吹き荒れる突風が壁や天井を削っていく。

 ただの風ではなく、物質を細かく切り刻む刃のような突風。

 マモンは全身を黄金に変化し、攻撃を受け流す。


「ちったー強くなったなぁ~ けど、風じゃオレには届かねぇーぜぇ~」


 マモンの足元が黄金に変化し、その支配領域を広げていく。

 咄嗟にベルゼビュートは空中へ回避。

 この判断がなければ、すでに両足は黄金にされていただろう。

 瞬く間に地面が全て黄金に代わり、さらに壁や天井までも輝き始める。


「オレは黄金を支配する! これでもう、この部屋はオレの空間だぜぇ!」


 黄金に変化した天井や壁がボコボコとうごめく。

 すべてにマモンの力が通い、触れれば黄金に変えられてしまう。

 全方位が敵の色に染まった。

 だが、魔王ベルゼビュートは動じない。


「ちょうどいいハンデだな」

「お前の……そういう舐めた態度が気に入らねーんだよ!」


 怒りを発露し、マモンは黄金を操って空中にいるベルゼビュートを攻撃する。

 黄金は彼の意のままに操れる。

 うねうねと触手のようにうごめき、鋭いとげに変化して彼を襲う。

 

「前々から気に入らなかったんだよなぁ! おまえの……いや、お前ら態度が!」

「は?」

「自分たちは特別だとでも思ってんのかぁ! 大魔王に従ってた負け犬どもの分際でぇ!」

「……あー、そういう意味かよ」


 ベルゼビュートは呆れてため息をこぼす。

 黄金の攻撃は未だ彼に届かない。

 どれだけ全方位から攻撃しようとも、彼のバアル・ゼブルの鎧を突破できなければ無意味。

 彼の黄金は、ベルゼビュートの突風を超えられない。


「てめぇ、最強って何だと思う?」

「あん?」

「どう強いことが最強なんだ? どれだけ強ければ最強だ?」

「んなもん決まってんだろうが! 世界一強けりゃ―最強になれんだろうがぁ!」


 無数の攻撃がベルゼビュートを襲う。

 しかし届かない。

 彼はため息一つで、その全てを粉砕してしまう。


「なっ……」

「違うな。単純な強さだけで最強は名乗れねぇ……ただ強いだけじゃ足りねーんだよ」

 

 暴風は周囲を削る。

 黄金と化した建物ですら、徐々に削って元に戻していく。

 彼が支配する風には、彼の権能が付与されている。

 『暴食』の魔王の権能。

 その能力は――あらゆる力を食らいつくすこと。

 聖なる力も、魔力も、大罪の権能すら平らげる圧倒的な吸収。

 かの力の前に、黄金もただの食事でしかなかった。


「オレも昔、自分が最強だと思ってた。けど、もっとすげぇ奴がいやがった。そいつは強くて、どこまでも大きく、ずっと先にいやがった」

「く、くそっ」


 マモンは後ずさる。

 ベルゼビュートはゆっくり、地面に降り立つ。

 すでに黄金は引きはがされている。


「最強って呼ばれる奴らはいる。そいつらは等しく、誰も到達できなかった場所に立ってやがるんだよ」 

 

 大魔王サタンは、大罪の権能全てを有し、魔界を完全に支配していた。

 勇者アレンは歴史上初めて、原初の聖剣を含む七つの聖剣をその身に宿している。

 最強とは強さの象徴。

 だが、彼らは持っている。

 絶対に超えられない強さの源を、選ばれた者しか持ちえない圧倒的な才能を。

 最強とは先駆者。

 今、この瞬間も、世界で誰より先を見ている者たちである。


「オレも、いつかぜってぇー追いついてみせる」

「何をわけわかんねーことを!」

「……そうかよ」


 刹那、決着はついた。

 見えない疾風の刃がマモンの身体を斬り裂く。


「が、は……」

「そいつがわからねー時点で、お前はオレに遠く及ばねーんだよ」


 決着の決め手は権能の差?

 否、全てにおいて、マモンは負けていた。

 初めから勝負にすらならない。

 これが、最強を知る者とそうでない者の……決定的な差である。

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