表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/107

怠惰と色欲

 魔王城一階。

 すでに激しい魔法合戦が繰り広げられていた。


「ボクと撃ち合いするつもりですかぁ?」

「ひっひっひっ、わたーしも魔法は得意なんですよぉ」

 

 待ち構えるは『色欲』の魔王アスモデウス。

 対するは『怠惰』の魔王ベルフェゴール。

 お互いが背後に複数の魔法陣を展開させ、魔力エネルギーの弾丸を放つ。

 相殺し、爆発する。

 一歩も譲らぬ攻防だが、優勢なのは当然ベルフェゴールだった。


「本当に得意なんですか? 威力にムラがありますよー」

「ひっひっ、さすがに……」


 ベルフェゴールの魔法センスは魔界一である。

 魔力の総量、操作感、魔法を扱うために必要な要素の全てがトップクラス。

 現代において、彼を超える魔法使いは存在しない。

 あのルシファーも認めるほど、最高の魔法使いである。

 アスモデウスも魔法使いとしては優れているが、ベルフェゴールには及ばない。

 徐々に地力の差が出始める。


「ふぁ~ すぐ終わりそうですね」

「……それはどうでしょうねぇ?」


 直後、ベルフェゴールは意識外からの砲撃を受ける。

 完全に死角になっていた背後、首の後ろを狙った攻撃だった。

 予め結界を用意していたおかげで彼は無傷だ。


「今のは……」

「お忘れですかぁ? わたーしにも、大罪の権能があるんですよ」


 続けて二発、ベルフェゴールが予想できないタイミングの攻撃が放たれる。

 目の前で撃ち合っているものとは別。

 異なるリズム、威力で放たれる攻撃に、ベルフェゴールも意識を裂かれる。


「あぁ~ これが色欲の幻術ですかぁ」


 ベルフェゴールは瞬時に理解する。

 『色欲』の権能、その効果は幻術である。

 砲撃の中に幻が含まれていて、本命が隠されている。

 すでに魔法陣は複数、自分の周囲に展開されているのだと。


「だったらこうすればいいですねぇ」


 ベルフェゴールは正面だけでなく、四方に向けて砲撃を展開する。

 加えて炎の渦を魔法で生成し、近距離の魔法陣を破壊していく。

 いかに幻術で隠していても、実体を透過することはできない。

 そこにあるのならば破壊できる。

 誰にでもできる攻略法ではないが、ベルフェゴールほどの魔法使いなら造作もない。


「これで不意打ちの弾はなくなり――」

「残念。まだですよぉ」


 砲撃がベルゼビュートの背中に直撃する。

 完全に意識外、防御も間に合わなかった。


「っつ……あれ、おかしいですね……」


 ベルフェゴールは背後を見る。

 そこはすでに、砲撃と炎で攻撃した場所だった。

 

「壊れてなかった……?」

「いいえ、壊れていたのでしょうねぇ~ あなたの想像の中では」


 続けて三発、攻撃が着弾してしまう。

 ベルフェゴールは膝をつく。


 『色欲』の権能は、ただ幻術を見せる力ではない。

 その程度の力が、大罪の名を冠することはない。

 かの権能の神髄は、対象が望んだ結果を幻術として見せることにある。

 すなわち、ベルフェゴールが想像した彼にとって都合のいい光景が、権能によって再現されている。

 現実は異なり、彼は魔法陣を破壊できていなかった。


「厄介な……力ですねぇ」


 攻撃を受けながらも、彼は未だに砲撃の手を緩めていない。

 一瞬でも気を抜けば一気に押し返される。

 アスモデウスとの、正面での砲撃戦は未だ継続中。

 そこに加え、権能によって隠された本命の攻撃が来る。

 集中していても足りない。

 魔力の消耗より、このままでは体力の消耗が著しいと判断したベルフェゴール。


「なら、ボクも使いましょうか」


 一手、仕掛ける。

 ベルフェゴールもまた、大罪の一柱。

 彼も権能を有している。


「さぁ、眠れ――」


 彼の権能は歌。

 歌を聞いた対象は、静かにその機能を停止させる。

 たとえ魔王であっても、彼の歌を聞いてしまえば逃れることはできない。

 そう、聞こえれば……。


「無駄ですよぉ。そんな音はわたーしには聞こえません」

「結界……ですか?」

「ええ、音を完全遮断する結界です。あーでも、わたーしは口の動きで言葉はわかるので、会話はできますからご心配なく~」


 すでに対策は万全。

 アスモデウスは自身の周囲に結界を展開、外の音を遮断した。

 音とは振動である。

 振動さえ抑えてしまえば、音はアスモデウスの聴覚に作用しない。


「残念でしたーねぇ~ あなたの権能ごとき、この程度で防げてしまうんですよぉ」

「――そうですね」


 ベルフェゴールは笑みを浮かべる。

 その笑みに、アスモデウスが眉間にしわを寄せる。


「どうして笑っていられるのですかぁ?」

「ん? だって、まだ気づいていないみたいですからね~」

「何を言って」

「ほら、もう押し込まれていますよ?」


 ずっと拮抗していた砲撃戦に動きが生まれる。

 アスモデウスの砲撃が次々に押し戻され、魔法陣が破壊されていく。


「なっ……なぜです?」

「ボクの権能は歌です。歌は振動を伝える……だから別に、振動さえ伝わればいいんですよ」

「何を……」

「わからないですか? じゃあ教えてあげます」


 ベルフェゴールは指をさす。

 アスモデウスを、否、彼を守っている結界を。

 

「ボクの権能の対象は、生物に限りません」


 結界にひびが入り、一瞬にして砕け散る。


「振動が届くものなら、なんでも効果があるんですよ~」

「そ、そんなぁ!」


 音を遮断する結界も、外から常に振動は伝わっていた。

 徐々に弱体の効果を受けていた結界が、ついに耐えられなくなって砕けたのだ。

 砲撃が圧倒されるようになったのも、彼の歌が届いた魔法陣が効果を失っていたから。

 ただ歌を聞いた相手を眠らせるだけ。

 その程度の力が、大罪の名を冠するわけがない。


「くっ!」


 アスモデウスは再び結界を展開する。

 しかしわずかに、ベルフェゴールの歌を聞いてしまった。

 彼の効果は身体に蓄積される。


「さぁ、我慢比べですよぉ~ ボクは苦手ですけど、あなたはもっと苦手になりますね? これから……」

「こ、こんな程度でわたーしが負けるなど!」


 アスモデウスが反撃する。

 幻術で隠していた攻撃を繰り出す。

 が、その全てはベルフェゴールの手前で制止する。


「無駄ですよぉ~ ちょっと疲れるけど、結界を五重にしましたから」

「五、しかもこれは……時間停止?」

「そうですよ~ ボクに届くまでずーっと遅くなります。見えなくても関係ありませんから、その間に――」


 ベルフェゴールは砲撃を加速させる。

 これまでは様子見。

 相手の力が分かった時点で、全力の魔力を注ぐ。


「ば、馬鹿なぁ!」

「あなたを倒しちゃえば問題ありませんよねぇ~」


 魔法、権能、策略。

 その全てで圧倒し、攻撃の雨がアスモデウスに降り注ぐ。

 魔法合戦の騙し合い。

 その勝者は欠伸をする。


「ふぁ~ 眠いですねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「一瞬でも気を抜けば一気に押し返される。  マモンとの正面での砲撃戦は未だ継続中。」 マモンどこから出てきた、。?
[一言] つよ!!笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ